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ようじょと商人

 僕の優しい警告と、ノワールとアーテルから視線で殺さんばかりの殺気を受け続けたブンドルは、抜かした腰のあたりを濡らしてしまっている。汚い。太ったおっさんの粗相は汚い。


「さ、行こうか」


 汚いブンドルをそのまま放置し、リンちゃんの父親の方へ歩き始めると、商業ギルドの中で大歓声が上がった。

 よくやってくれた。

 ざまあみやがれ。

 いっそ破裂させればよかったのに――などなど。

 最後のはさすがに言いすぎだと思うけど、王家御用達っていう肩書をかざして随分と俺様な商売をしていたみたいだね。その嫌われっぷりが凄い。


 ともあれ、そんな騒ぎの中をリンちゃんと一緒に歩いていると、騒ぎの現況である僕達の方へ目を向けた彼女の父親と目が合った。

 しょぼくれた表情だったが、リンちゃんの顔を見た途端取り繕ったような笑顔を浮かべる。

 そっか。父親って、子供に弱い所は見せないんだね。僕は辛い事があると、黒ウサギだったノワールに弱音や愚痴を吐いてばかりだったなぁ。


「やあリン。どうしたんだい? その人達は?」

「パパ! このおにいちゃんたちが、パパとおしごとのおはなしをしたいって!」

「……は?」


 まさか幼い娘が冒険者パーティを連れてくるとは思わなかったのか、父親は暫く固まっていた。


△▼△


「私は王都で小さな店を営んでいるマシューと申します。と言っても、これで仕事納めなんですけどね」


 マシューさんの話によれば、彼の奥さんはここグリフォバーグの出身だったのだが、一年前に病で亡くなったそうだ。それからは男手ひとつでリンちゃんを育てながら頑張ってきたのだが、王都での商売は例のブンドルの商会が幅を利かせていて、小さな店は買収されたり潰されていったりと、厳しい状況なのだそうだ。

 中には違法スレスレの手段を使ってくる事もあるそうで、役人との間に癒着があるんだろうというもっぱらの噂なんだって。


「それで私共の店もこれ以上経営を続けていくのは厳しくなったので、今回の商いを最後に店を畳む事にしたのです」

「グリフォバーグにはね、ママのおはかまいりにきたの!」


 そうだったのか。それにしても、リンちゃんは気丈な子だ。僕なんかよりずっと強いかもしれないな。

 マシューさんは、今回の商いの儲けを元手に、王都近郊の村で畑でも買って、のんびり過ごす事にしたらしい。

 だけどそれほど金銭的な余裕はないらしく、護衛に掛けるお金も最低限しか割けないとの事だった。


「そうでしたか。マシューさん、馬車の方は?」

「ええ、幌付きの荷馬車が一台、二頭引きです」


 二頭引きならそれなりに大きいだろうし、幌付きなら雨風も凌げるし最悪野営になっても大丈夫だね。まあ、雨風を凌ぐのは魔法でどうとでもなるんだけど。


「マシューさんは、道中の宿場の情報は詳しいですか?」

「ええ、まあそれなりには」


 よし、決まりだね。


「僕達を護衛に雇ってくれませんか?」

「え? いや、しかし、ゴールドランカーを雇うなんて私にはとても……」

「そうですね、報酬は馬車に乗せてくれる事、途中の宿は食事が美味しいところを紹介してくれる事でどうです?」

「へ?」


 そんな僕の提案に、マシューさんは暫く固まっていた。よく固まる人だね。


△▼△


「それにしても、本当に良かったのですか? 無料で護衛を引き受けるなんて」


 馬車の御者席は三人が並んで掛けられる幅がある。僕とマシューさんが二人にそこに座りながら雑談を交わしていた。

 また、荷物のないガランとした幌付きの荷馬車の中では、ノワールとアーテルにすっかり懐いたリンちゃんが、何やら楽しそうにキャイキャイと話している。

 ノワールもアーテルも意外に子供好きのようで、リンちゃんとのコミュニケーションを楽しんでいるようだ。

 街道は川に沿って走っている。時折集落が点在していて、今は畑などが広がる農業地帯を通過していた。


「僕達はグリペン侯爵領から出るのは初めてなんですよ。それに大きな仕事を成功させたばかりで、お金にはそれほど困っていませんし。今後の勉強というヤツです」

「はあ、さすがゴールドランカーともなると剛毅(豪気/豪儀)なものですね」


 そんなマシューさんの言葉にあいまいな笑みを浮かべながら頷いた。剛毅(豪気/豪儀)っていうのも違うかな。無料で馬車の旅ができるって時点で僕達にとっては十分メリットがある。所詮小市民なんだよね、僕は。それに他のゴールドランカーの事は知らないし。


 さてこのまま何事もなく王都に辿り着ければいいんだけど。

 無理だろうなぁ……

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