スタンピード
「おい、俺達二人でゴブリン七十二匹、やれるか?」
「可能ね。上位種がいなければ、だけど。もし上位種がいた場合、あなたがボロボロになりながら時間を稼いで、私が大火力の範囲魔法をブチかませば」
「おいおい、それって俺も巻き添え喰らうヤツだろ!」
「そうね。でも勝てるビジョンはそれくらいしか思い浮かばないわ」
ギルドのトップ二人。しかも元ゴールドランカーの実力者がそんな事を言っている。そうか、ゴールドランカーでも命を捨ててようやくどうにかなるっていうレベルの危険だったのか。ゴブリンの数や集落を形成していた事を考えると、指導者、すなわち上位種がいたと考えるのが自然だよね。
でもノワールとアーテルは全くの無傷だし、返り血すら殆ど浴びていない。どんな手を使ったのか聞きたいような聞きたくないような。
デライラも、七十二匹という数を聞いて流石に驚きを隠せないみたいで、目を大きく見開いたまま固まっていた。
「ショーン、お前ンとこは一体どうなってんだ? ゴールドランカー以上の実力を持ったヤツが三人とか、充実してんなぁオイ! しかも両手に華だし!」
「でもこれで、かなり下層まで行けそうなメンバーだって事は証明されたわ」
イヴァン副ギルド長が違う方向にキレそうになってるんだけど、サマンサギルド長は冷静に分析している。いや、かなり下層どころか、制圧も出来ちゃうけどね。
問題は、馬鹿正直に付き合うかどうかなんだよなぁ……
ダンジョン制覇自体は問題ない。何しろ先日まで最下層に居座っていたアーテルが味方にいるんだ。その後最下層を牛耳っている魔物がいたとしても、アーテルより強いなんていう事はありえない筈。
うーん、出来ちゃうよね。ダンジョンの完全制覇。
△▼△
「……ウソでしょ?」
サマンサギルド長が口をあんぐり開けたまま見ている光景は、地下一階層にウジャウジャと群がっているゴブリン、コボルト、クレイズボア、クレイズウルフなどのブロンズクラスの魔物達だ。
どれもこれも、出口を目指して進軍してくる……と言ったらピッタリだろうか?
「スタンピード……か」
スラリと大剣を抜いたイヴァン副ギルド長が呟いた。悲壮な覚悟が見てとれる。
スタンピードとはダンジョンから魔物の大軍が溢れ出す現象で、自然界では有り得ない、捕食する側とされる側が争う事なく人間の街を襲う。
例えばゴブリンを喰らうオークがゴブリンを率いていたり、クレイズボアを喰らうクレイズウルフがクレイズボアに目もくれず人間の街を目指す。目的はただ一つ、人間を殺し尽くす事。
通説では、ダンジョン内の魔物が増えすぎて、魔物が外に生活の場を求めて溢れ出てくるとか言われてるけど、その辺りはどうなんだろう?
つい先日、合同クエストでかなりの数の魔物を間引きしたはずなんだけど。もう通説が覆されているよね。
(ヒトがスタンピードと呼ぶものには、二種類あってな。ダンジョン内魔物が増えすぎて自然発生的に溢れるものと、ダンジョン最下層の主の意向によって、意図的に起こされるものがある)
ほう? それは興味深いね。
(まあ、我がこのダンジョンに居座ってからはスタンピードを我の意志で起こさせた事はないが、先日の間引きの後間もないこのタイミングで起こるという事は、かなりの人間嫌いが主となったようだな)
アーテルの話が真実なら、今の主を潰してしまうか、ダンジョンそのものを潰さなければ、この近隣の街や村は常にスタンピードの危険に付き纏われてしまう事になる。
逆に言えば、今まではアーテルのような理知的な存在がいたからこそ、大きなスタンピードが起こらなかったという事か。
「ノワール、アーテル、やるぞ!」
「はい!」
「うむ!」
僕達三人は今にも出口から溢れ出ようとする魔物の群れに斬り込んだ。
背中の双戟を手に取り、身体強化。そして魔力による双戟の耐久力上昇。柄に刻み込んだ魔法陣に魔力を流し込むだけで、魔法を纏わせても劣化せずに使えるスーパーウェポンと化す。
「ちっ! アイツら! サマンサ、デライラ、討ち漏らしは頼むぞ!」
イヴァン副ギルド長の叫ぶ声が聞こえたけど、僕等は構わずダンジョンに飛び込んだ。
△▼△
イヴァンは激しく後悔していた。せめて数人、連絡要員を連れて来るべきであったと。
通常スタンピードが起こると、軍や冒険者、果ては一般市民までが総出で魔物と戦う。それだけの脅威なのだ。しかしここにいるのは僅か六人。しかも街へ連絡する人間もいない。街に戻って指揮を取るのであれば、自分かサマンサがこの場から脱出するのが最善だろう。
しかし、自分もサマンサもゴールドランクの実力を持つ。この場を離れるのは愚策とも思えた。
(クソッ、どうする!? やっぱりここはサマンサに戻ってもらうか。しかしこいつらは……)
イヴァンがそんな逡巡をしている間に、ダンジョンに飛び込む三人が見える。ショーン、ノワール、アーテルの三人だ。
(アイツらだけを死なせる訳にはいかねえよなあ!)
イヴァンはサマンサに後を託し、自らもダンジョンに突入した。
しかし、彼の目の前に広がる光景は想像していたものとは全く違うものだった。




