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指名依頼

「おう、来てたのか。ちょうど良かった――って、こりゃ何の騒ぎだ?」


 僕が『宣言』をし終えてギルド内が静まり返っているそのタイミングで、二階からイヴァン副ギルド長が降りてきた。

 静まり返っているのに何の騒ぎとはおかしい話だけど、それだけ空気が微妙だったんだろうね。


「僕と僕の仲間が看過できない誹謗中傷の言葉を受けまして、その事を抗議したところ逆上して攻撃してきました。止むを得ず、無力化した所です」


 僕のその一言で大体の事情を察したのか、副ギルド長は腰に手を当て首を横に振る。


「まあな。冒険者稼業ってのもハクってヤツは必要だ。お前さんもゴールドランカーなんだからよ、ナメられねえようにするのは大事だぜ? さもねえと、粉掛けてくるバカをいちいちぶっ飛ばさなきゃなんねえだろ?」


 なるほど。僕だって好き好んで人を殴る訳じゃないもんね。そういうのを未然に防ぐ為にもハクってヤツは必要なんだなぁ。


「お前らもよく聞いとけよ? イキがるのと貫禄付けるのは別モンだからな? コイツはこんなモヤシみてえな見た目だが、俺より遥かに強い。見た目通りだと思ってナメて掛かると早死にすっからな!」


 モヤシみたいは大きなお世話です。

 でも言ってる事は真っ当で、虚勢を張るのも真の実力が伴えば虚勢じゃなくなるんだよね。逆に大人しい見た目でも、恐ろしい程の実力者って事もある訳で。そこを見定めるのも実力の内って事でね。


「ところで副ギルド長? 何か用があったのでは?」


 副ギルド長が僕を探してたというか待っていたというか、そんな感じがしたので話題を変えてみた。だって他の冒険者の視線が、今までと違う意味で痛いんだもの。

 嘲るような視線が、今度は明らかにヤバいモノを見る目なんだよ。

 すると、漸く本題を思い出したようで、いつぞやの模擬戦の時みたいにやたらいい笑顔で僕の肩を叩く。


「おお、そうだった。ここじゃ何だから、上に来てくれよ」

「パーティメンバーも一緒でいいですか?」

「おう、もちろんだ!」


 ふむ。パーティに用事って事かな?


「今新しい仲間が冒険者登録してるので、終わり次第行きますね」

「おうよ!」


 副ギルド長は後ろ手に手を振って、二階に上がって行った。これでようやくアーテルの登録に立ち会えるな。まあ、僕がいなくてもノワールがいるから大丈夫だけどね。


「ご主人様、アーテルの登録が終わりました。しっかりケンプファーにしておきましたよ」


 そう言ってノワールが報告に来た。その後ろにアーテルもいる。首にはウッドのタグが付いたチョーカーが巻かれていた。


「むう、我もノワールや主人のような光沢があるものが良いのだが……」


 しかし当の本人はウッドタグがご不満なようで。


「大丈夫さ。アーテルならすぐ昇格できるよ」


 アーテルみたいな規格外がいつまでもウッドにいると、いらんちょっかい掛けてくるヤツの命が危ないしね。そういう連中の命を守る為にアーテルの昇格は急がなくちゃ。

 だって彼女、闇の精霊の力を存分に使える状態だから、その気になれば国だって滅ぼせるだろうし。


「そんな事より、副ギルド長が話があるってさ。二階に行こう」

「はい!」

「うむ、承知したぞ!」


 こうして僕は二人を連れて二階へ上がっていく。いくつか部屋があるんだけど、どことは言ってなかったよね。まあいいか。ギルド長の部屋へ行って聞いてみよう。


 ――コンコン


「ショーンです」

「ああ、待ってたわ。入ってちょうだい」


 中からギルド長の声がする。どうやらここで正解だったみたいだね。

 失礼しますと声を掛けて中に入ると、テーブルを挟んで向こう側にイヴァン副ギルド長、サマンサギルド長が並んで座っている。ギルド長が手で座るよう促してきたので、僕を真ん中に右手にノワール、左手にアーテルと、三人並んでギルドのツートップと向かい合う。


「話ってのはアレだ、お前さん達のパーティに指名依頼があってな」


 話を切り出したのは副ギルド長だった。それにしても指名依頼とはまた……


「指名依頼ってのは、分かってるよな?」

「ええ……」


 指名依頼とは、その名の通り、クエストを依頼するパーティ、または個人を限定して指名する事だ。普通は高ランクの冒険者にするもので、依頼主はかなり裕福な人に限られる。

 そう、例えば貴族とか、ね。

 でもこれは結構諸刃の剣だと聞いている。収入は期待できる反面、危険度が高いクエストであるケースが多い事。貴族や豪商など、有力な人物とコネクションを作れる代わりに、そういった人物のゴタゴタに巻き込まれやすい事。


「警戒する気持ちは分かるわ。でもこれはちょっとギルドとしても断れない案件なのよ」


 ギルド長が少し疲れたような表情でそう言った。ああ、これは大きな権力が動いてるやつだね……


「で、依頼主とその内容は教えていただけるんですよね?」

「それは勿論よ。ほら、これ」


 ギルド長が一枚の封筒を差し出してきた。上質な紙で出来ている。そして何かの紋章が施してある、既に開かれた後の封蝋。なるほど、貴族様って訳か。

 封筒の中身を開いてみると、一枚の紙に内容が簡潔に書かれていた。


【この度ゴールドランクに昇格したショーン及びそのパーティにダンジョン下層の調査を依頼する――】


 その他にはクエストの達成条件や報酬等が書かれており、一番下には依頼主の名前が記されていた。


「ノア・グリペン侯爵……領主様ですか」


 僕が呟いた言葉に、ギルド長、そして副ギルド長が渋い表情で頷いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「警戒する気持ちは分かるわ。でもこれはちょっとギルドとしても断れない案件なのよ」 ギルドが断れない依頼をノワールに押し付けてくると言うことは、報酬プラスギルドに貸し一つと言うことなのかな。…
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