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女王の断罪

 その美しい顔とドレスアーマーを返り血で染めた女王陛下は、オニールの遺骸を踏み越えて僕の前に来る。ノワールとアーテルが僕と女王陛下の間に割って入るように立った。

 それにしてもなんて切れ味の剣だろう。女王陛下は特に力を込める事もなく、刃をオニールの頭に乗せただけのように思えた。それが剣の自重だけで、まるで紙でも切り裂くようにオニールの身体を両断してしまった。さすが王族の持つ剣は凄いな。


「この状況で皆静まり返っておるというのに、驚くところはそこか、ショーンよ」


 頭の上からシルフがそう突っ込んで来る。そうか、確かにそうだ。いきなり女王陛下が家臣を惨殺とか、これは一体何が起こってるんだろう?


「そうそう、そういう反応が普通だ」


 ……そうだね。ちょっと僕も混乱してただけなんだよ。


「陛下! 何故オニール殿を!」

「ご乱心召されたか!」


 お偉いさん方の何人かは、声を荒げてそんな事を叫んでいる。まだ若い女王と侮っているのかな。あんまり畏れとか敬意は感じられない。

 しかし女王陛下は僕の前まで来ると、剣の血のりを払って鞘に納める。そして正面から僕を見据えて口を開いた。


「冒険者ショーン。あなたのプラチナランクへの昇格試験、条件は満たされました」

「はい……?」


 思いがけない女王陛下の言葉に、思わずポカーンだ。だって、試験内容を知らされていない上に、女王陛下の御前で無礼千万だった自覚はあるんだよね。


「実は……ブンドルの力の排除こそが、あなたの昇格試験の課題だったのです」


 はぁん? 女王陛下は都合悪そうに目を逸らす。なるほど、それならユーイングさんが言った『後悔しないようにしろ』っていう言葉の意味が分かる。

 このまま昇格試験に気を遣ってブンドルをそのままにしていたら、後悔どころの話じゃなくなるもんね。僕としてはプラチナに昇格出来なくても、これでいいと思っている。

 でも、それに納得出来ないのがいるんだよね。


「人の王よ。貴様は自分が政治的優位を得たいが為に、我が主人を利用したと言うのか?」


 アーテルが身体から黒い魔力を吹き出しながら、女王陛下を責めるように見据える。


「つまり、この女は自分が出来ない事をご主人様にやらせたと?」


 続いてノワールが、珍しく眉を吊り上げて怒りを露わにする。


「ふははは! 今代の人の王は、中々に腹黒いな!」


 更にシルフは浮かんだまま高笑いだ。

 おいおいみんな、流石に女王陛下の前でその態度は、僕が怒られちゃうよ?


「何だ貴様は! 無礼であろう!」


 ほらね、近衛騎士の人が抜剣して凄んできたし。


「お、お前なぁ、いくらなんでも……」


 そしてユーイングさんは困り顔だ。そして居並ぶお偉いさん方や護衛兵達が殺気立って、今にも詰め寄って来そうな勢いだ。さて、どうしたもんかな。

 だけど僕の指示を待たずに二人の眷属が動き出す。特にアーテル。


「無礼なのは貴様等の方だ、人間共」


 彼女の身体が黒い魔力の(もや)に包まれる。そして靄が晴れた時、そこには巨大な黒狼がいた。


「ミ、ミスティウルフだとッ!?」

「ば、馬鹿な! 天災級の魔物ではないか!」


 アーテルの姿を見た周囲の人達が騒ぎ出す中、女王陛下が一歩進み出た。そして片膝をついて頭を下げ、抜き腰の剣を鞘ごと床に置いた。


「え、えっと?」


 これには僕の方が狼狽えてしまった。


「かつて創世の女神ルーベラ様の傍らにおられたという、神狼様でございますね?」


 顔を上げた女王陛下がそんな事を言う。なるほど、先刻ご承知って訳か。


「人の子の分際で、我が主人を利用するとは、覚悟は出来ているのだろうな?」

「そうですね。しかもご主人様を政治に利用するなど」


 ヤバい! これはヤバい! 二人から溢れるプレッシャーがどんどん増してしる。跪いている女王陛下は冷や汗をダラダラ流しているし、お偉いさん方の中でも気の弱い人は失神している者もいる。


「二人共、抑えて。僕が話すよ」


 高位の貴族や王族は、失われた光と闇の属性について知っている者もいる。グリペン侯爵やオスト公爵がそうだったように、この女王陛下はより詳しい話を知っているかも知れない。でも二人がこの調子じゃねえ。


「しかしな、主人よ。昇格試験に政治的な意図を持ち込むのは公私混同というか……」

「そうですよご主人様。うまく使われてご立腹にならないのですか?」


 僕が宥めても、二人の怒りはまだ治まらないみたいだ。うーん。


「二人とも、僕の為に怒ってくれてありがとう。でもね、ブンドルは昇格試験が有っても無くても徹底的に報復するつもりだったし、許すつもりもなかった。勿論、ブンドルの肩を持つ者に対してもね」


 二人は黙って僕の話を聞いている。そして、ブンドルの肩を持つ者、のあたりで該当者に視線を送れば、そいつらは腰を抜かして動けなくなるほどになってしまった。


「いいじゃないか。利害が一致した結果、僕は晴れてプラチナランカーになれる訳だし。ただし……」


 いったん話を切り、僕は女王陛下をじっと見る。彼女は息を呑み、恐怖に耐えながら僕を見ている。


「一度しっかり話し合う必要がありそうですね、陛下」


 僕はニッコリと笑いながら手を差し伸べた。ただし心からの笑みじゃないけどね。利用された事は正直言って面白くないんだ。


「ど、どうかご容赦を……」


 あれ、どうしよう?

 震えていた陛下は、とうとう気を失ってしまった。


「こら! あんまり女王陛下を虐めちゃダメでしょ!」


 そこへ影から浮き出て来たのは、肩に白い梟を乗せ、ルークスを後ろに従えたデライラだった。

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