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まずは軽く。

 翌日、朝から王都には激震が走っている。

 王都の第一区画から第三区画まで、リッチマン商会の支店が悉く、更には王城のお膝元にある本店までもが完膚なきまで破壊され、更地にされていた。

 リッチマン商会とは、言うまでもなくブンドルの商会だ。

 そんな噂を聞きながら、僕達は宿での朝食を食べていた。


「ケビンさん達は?」

「ああ、意識を取り戻してから、ケビンさん行きつけのお医者様のところへ行ったわ。心配いらないわね」

「そう、ありがとう」


 僕はサラダを頬張りながらデライラに訊ねた。昨夜火事現場で別れてから、顔を合わせるのはこの朝食の場が初めてなので、互いに報告していないんだよね。


「あんたの方は随分派手にやったみたいね」

「大丈夫だよ。アリバイはちゃんとあるから」


 昨夜、僕等は一旦宿に戻って就寝する旨を伝えて部屋に戻った。それを宿のスタッフがしっかり目撃している。その後、影泳ぎで王都中のブンドルの商会を巡って潰して回った訳だ。

 移動自体は影泳ぎのお陰で殆ど時間は掛かっていないんだけど、流石に建物を破壊するのは結構魔力を消費した。特に周囲の建物に被害を出さないように気を遣うのがね。風の魔法を上手く制御するために神経を使うんだ。

 ここで大暴れしたのがアーテルだ。本来の神狼の姿に戻って力任せに破壊の限りを尽くしたんだけど、彼女的にはだいぶストレスを発散出来たみたいだね。

 ノワールは主に影収納に瓦礫や物資を飲み込む作業をしていたね。中には建物を丸ごと飲み込んだりもしていた。まあ、かなり値打ちのあるものも大量にゲットした訳だけど、迷惑料って事で頂いておく事にした。

 その中でも本店は建物自体も巨大で、完全に破壊するのは流石に疲れたね。宿にこっそり戻ったのは明け方の事だ。ぶっちゃけ眠いし疲れてるかな。


「お疲れ様。少し休みなさいな。どうせ今日にも踏み込んでくるでしょ、あの豚の事だもの。それに備えておきなさい」


 デライラが僕を気遣うようにそう言ってくれた。でも、今日の所はその心配はないと思うよ。ちょっとした脅しをしてきたし。


「お言葉に甘えさせてもらうね。少し眠るよ」


 僕はそう言って部屋に戻り、眠りに落ちた。


▼△▼


 第一区画でも王城に程近い、貴族階級の邸宅が立ち並ぶ一角。その中でも如何にも金を掛けたであろう事が一目瞭然の派手な屋敷がある。

 敷地や建物の大きさという点では他の貴族の邸宅に勝るという程ではないが、投じられた資金という意味ではどの屋敷にも負けてはいない。そんな印象を誰もが抱くであろう。

 そんな無駄に派手な屋敷の、無駄に派手な門の内側。勿論門番や私兵は昼夜問わず警戒しており、無断で敷地内に侵入するなど通常では考えられない。

 家を一軒守るには過剰な程の警戒をしているこの屋敷だが、裏を返せばそれだけ敵も多いという事なのだろうか。しかしこの屋敷の主が誰なのかを知れば、誰もが納得してしまう。


「一体警備の兵共は何をしていたのだ!」


 屋敷の中ではそんな怒号が飛び交っていた。


「お言葉ですがブンドルの旦那、昨夜は何者も侵入してませんぜ。門も破られていねえし、門以外から侵入する場所もねえ。その、それだけの()()を抱えた状態で」

「ぐぬぅ……」


 身体中の贅肉をタプタプと震わせながら激昂していたのはブンドルだ。

 そして彼が半ば取り乱していた原因は、寝室に捨て置かれた大量の死体だった。中にはゴールドランクの冒険者、『暴風のアナーク』だったモノもある。

 誰も彼も見覚えのある顔だった。数十人もの私兵と買収した冒険者を差し向け、官憲にも手を回した。しかし差し向けた全員が物言わぬ骸となり、自分の寝室に投げ捨てられていたのに気付いたのは今朝目が覚めた時だ。

 誰の仕業かは明白だ。この骸を差し向けたのはあのショーンとかいう生意気な冒険者だ。恐らく返り討ちに逢ったのだろうが、不可思議なのはこの屋敷にどうやって侵入したのかだ。

 何しろ屋敷の警備に当たっていた人員には目撃者もいないし被害者もいない。つまりこれは、いつでもお前を殺せるぞという警告なのだという事を悟る。


「明日から警備の人数を三倍……いや五倍に増やしなさい!」


 脂汗をダラダラと流しながらブンドルががなり立てる。しかし報告に上がって来ていた警備の男の反応は薄い。


「悪いがブンドルの旦那、俺達は降りさせてもらう。金より命の方が大事なんでな」


 警備に雇われているのは冒険者や傭兵といった荒事には慣れている連中ばかりだ。しかし高ランクの冒険者、しかも魔法使い(ウィザード)を複数投入しながら六十八人全員が死体となって帰ってきた。

 そして自分達に何一つ悟られずに、ブンドルの寝室へこれだけの数の死体を無造作に放り込んでいくという人間離れした技。

 自分達を雇っているこの主人は、触れてはならぬ者に手を出してしまったのだ。このままこの主人に従っていたのでは自分達もこの死体の山と同じ運命を辿るだろう。

 そう考えると、もはやブンドルと絶縁する以外に選択肢はなかった。


 丁度そこへ、慌てふためいた使用人が駆け込んで来た。


「会長! 会長ぉぉ! 大変です!」

「なんだ! 今はそれどころでは――」

「王都内にある本店、及び支店全てが更地になっています!」

「な……」


 使用人の報告を聞いたブンドルは、言葉を失いガックリと膝を付いた。

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