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堪忍袋の緒はすぐ切れる

「さて、お話を聞かせていただきましょうか」


 僕とデライラ、アーテルとグランツでおじさんを囲み圧を掛けていく。デライラなどは抜き身の剣を突き付けている。


「な、なんだ貴様等! 儂は官憲隊を率いる隊長だぞ!」


 このおじさん、怯えながら威張るという中々器用な真似をやってのけるけど、この人の立場なんて関係ないんだよ。ケビンさんにこんな事をしたのがこいつらの仕業かどうか、関心はそこだけだ。


「主人よ。我に任せてくれんか? 闇の秘法を見せてやろうぞ」


 アーテルが意気込んでそう言ってきた。ここまでは彼女の見せ場がないもんね。とてもやる気マンマンだ。闇の秘法とか言っておじさんをビビらせてるけど、本質は人の精神に干渉する闇魔法の一種の事だ。これは難易度が高い上にリスクもあるとかで、ノワールやアーテルもまだ教えてくれないんだよね。


「では行こうか」


 僕達に囲まれた上、デライラに剣を突き付けられて身動きが取れないおじさんに、アーテルから溢れた黒い魔力の(もや)がぞわぞわと近付いていく。

 これから何をされるのか、おじさんの顔は恐怖で引き攣っている。やがてその靄がおじさんの目や口、耳や鼻の穴から入り込んでいくという、中々シュールな絵面を見せつけられた。


「なるほど、これはちょっとやりたくないかも知れない」

「なかなかメンタルが強くないと、やる方も見る方も辛いわね、これは……」


 思わず僕もデライラも本音を零すが、当のアーテルは術に集中しているのか言葉を発する事はない。その代わりにグランツが教えてくれた。


「これはこやつの頭の中、つまり記憶を覗く、あるいは隠している真実を暴く魔法じゃよ。儂も似たような事は出来るが、闇属性と光属性では作用が違うのじゃ」

「作用?」


 これは興味深い。


「うむ。光属性の場合は精神に異常をきたした者を治癒するのが主な目的であるのだが、闇属性の場合は責め苦に使われる事が多い」


 つまりグランツが言うには、闇属性の場合は心の中にしまい込んだ秘密を無理矢理暴くためのもので、魔法を掛けられた者は著しい苦しみを伴うという。それは抵抗しようとすればするほど苦痛は激しくなるらしい。

 逆に光属性の場合は、心が病んでる原因を取り除く為に、その要因となっているものを術者も共有する必要がある。よって光属性の場合は魔法を掛けた側のメンタルにかなり負担がかかるという事だ。


「そんな訳で、人間にはあまりオススメは出来ん、ある意味外法じゃな」


 そうか。僕の事を思って教えてくれなかったんだね、ノワールもアーテルも。あとでたくさん労ってあげよう。

 それはそうと、おじさんは随分と大人しくなった。というか、白目を剥いて失神している。アーテルの方は目を閉じたまま動かない。僕は心配になりグランツを見る。


「心配はいらぬよ。しかしながら、この術は見ての通り無防備になるのが欠点でな。仲間の護衛なしでは使える代物ではないのじゃ」


 このおじさんの部下達はグランツの魔法で眠りこけ、野次馬達も僕達を固唾をのんで見守っている。幸い僕が魔法を使える事は既に見せているので、この状況もなんとなく受け入れられてる感はある。

 光も闇も属性として認知されていないので、僕達には都合がいいんだけどね。


「主人よ、分かったぞ。ふぅ、本当にあの豚は……」


 おじさんへ入り込んでいた黒い魔力の靄がスルスルと出て来て、アーテルへと戻る。そして彼女はカッと目を見開いてそう言った。おじさんはぐったりと脱力し、気を失っているようだ。

 そしてアーテルから今回の件の真実が語られた。


 今回、ケビンさんの工房に放火したのはブンドル直属の私兵らしい。そしてヤツから金を握らされたこのおじさんは、工房が焼け落ちるまで待つかのようにワザと遅れて出動したという事だ。

 また一方では僕達が襲撃されるのを知らされていたようで、街中で騒ぎが起こってもやはり黙認するよう指示されていたらしい。


「つまり、幾何(いくばく)かの金で僕達の命だけじゃなく、ケビンさん夫妻の命までも見捨てようとした訳だね」

「うむ、主人の言う通りだ。直接手を下した訳ではないが、官憲という立場にありながら到底許せるものではない」


 僕との会話の中で、アーテルはそう締めくくった。

 ちょうどそのタイミングで、ノワールとルークスが、それぞれケビンさん夫妻を抱えて焼け跡の中から現れた。


「二人はどうだい?」


 仕事にも自分にも客にも厳しい愛すべき頑固職人だ。普段からブンドルに目を付けられていた事は周知の事実。どうせ僕を相手に商売をした事でブンドルの逆鱗に触れたんだろう。こんなところで僕の巻き添えで死なせる訳にはいかない。


「かなり危険な状態でしたが、どうにか持ち直しました」

「あとは外で回復を待てばよろしいかと」


 ノワールとルークスがそう言うなら、二人は大丈夫なんだろう。それなら。


「デライラ、ここは任せてもいいかな?」

「まあ、いいけど……あんたはどうするの?」

「決まってるだろ。報復さ」


 まるで無関係の人の命まで奪おうとするブンドルを、これ以上のさばらせていられるか。じっくりと甚振ってやる。


「そうね。あたしも参加したいところだけど、今回は譲ってあげる。ここは任せて行きなさい。中途半端は許さないわよ?」


 デライラも今回の事は腹に据えかねているみたいだ。


「ノワール、アーテル、行こうか」


 僕達三人は闇に紛れてこの場を離れた。

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