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怒りに火を注ぐ

 僕達が影泳ぎでケビンさんの工房に駆け付けた時、工房からは火柱が上がっていた。


「ノワール! ケビンさん達を探して!」

「はい!」


 僕が指示すると、ノワールが影に潜っていく。恐らく燃え盛る工房の中を探しに行ったはずだ。生身の身体じゃない彼女にしか、こんな事は頼めない。


「ルークス、あなたも行ける?」

「主の命とあらば」

「お願い」


 同じくルークスも生身の身体じゃないので、涼しい顔で炎の中に飛び込んで行った。野次馬もいるし、消火活動をしている人達もいる。だけどみんな燃える工房に視線が集中しているので僕達のした事に気付いてはいないようだ。

 それにしても、桶で水を掛けるなんて事をしてたんじゃ、いつ鎮火されるか分かったもんじゃない。


「僕がやるよ」


 このままでは周囲の建物にも被害が及ぶ。僕は水属性の精霊達に命じて工房の上空に大きな水弾を生み出した。


「みんな離れて!」


 野次馬や消火活動をしている人達に注意を喚起し、人々が離れたのを確認してゆっくりと巨大な水弾を燃える工房へ落とした。

 激しい水蒸気が立ち昇る。炎の勢いはかなり弱まったけどまだ鎮火とはいかない。

 もう一度、水弾を落とす。今度こそ、火は消えたみたいだ。でも工房は見る影もない。黒く炭化した柱が僅かに残るばかりだ。


「酷いな。ただの火事にしては火の勢いが強かった気がする」

「そうね。あれだけの水弾でも鎮火しないなんて。それよりケビンさん達は大丈夫かしら?」


 デライラは焼け跡を心配そうに見つめている。そこにはノワールもルークスも姿は見えない。


「火付けかもな。かすかに油の臭いがする」

「うむ。儂にも感じるぞい」


 アーテルとグランツ、二人の神獣はそんな事を言った。人間を遥かに上回る嗅覚を持つ彼等が言うのだから、油に引火したのは間違いないんだろうね。放火かどうかは別にして。


(ご主人様。建物にはケビンさんと奥様の二人だけでした。しかし二人共酷い火傷を負っており、ただいま影の中でルークスが治癒を施しています)

(分かった。よろしく頼むよ。二人はそのまま影の中でケビンさん達を頼む)

(はい。承知致しました)


 丁度影の中にいたノワールからの報告を受け、デライラに伝える。


「良かった。生きてるのね。それにしても……」


 とりあえず安心したデライラが、後方を睨む。そこには今更ながらに登場した官憲と火消しの部隊が現れたところだった。本当に今更だ。

 その人達は野次馬達に事情を聞いているようで、やがて僕の所にも一番偉そうな人がやって来た。もう盛りを過ぎた感じの男だが、何て言うかな、いかにも不誠実そうと言うか。顔つきがね。


「貴様等が火を消したそうだな。放火の重要参考人として詰所で話を聞かせてもらおうか」

「は? 火を消すと放火した犯人に仕立て上げられるんですか? 普通は協力感謝するとかそういう感じでは?」


 あまりに突拍子もない事を言うので、ついつい素で質問してしまった。大体、どうして放火って決めて掛かるんだよ。


「ふん、大方こやつらが火を付けたんだろう? そこへ丁度我々が現れたものだから、犯人に仕立て上げるつもりなのだろうよ」


 アーテルが呆れ混じりにそう言う。


「なんだと貴様ァ!」


 アーテルもわざわざ聞えよがしに言うものだから、このおじさんが激高しちゃったよ。手にした槍の石附を方で殴り掛かって来た。一応石附でっていうのがまだ理性的ではあるけどね。

 僕はそれを手のひらで受け止めそのまま握り締めた。


「なっ!?」


 槍はビクともしない。見た目は全然迫力なんかない僕が、意外にも力がある事から男は驚きで目玉が落っこちそうだ。その様子を見ていた野次馬からは、拍手喝采が巻き起こった。なるほど、この街の官憲は市民に愛されていないんだね。


「そもそも、僕達はここの工房にお世話になっている冒険者パーティ『ダークネス』です。放火する理由がありません」

「だ、ダークネスだと……? なぜ生きている」


 へえ?

この発言はもうギルティではないですか?


「うむ。ギルティだな」

「官憲まで抱き込まれてるんじゃ市民も救われないわね」


 この男は僕達が襲撃された事を知っていた。だから僕達がここに現れるの本当に予想外の事だったんだろう。

 うっかり口を滑らせちゃったね。アーテルもデライラも本当に呆れている感じだ。


「で、どうするのじゃ?」


 グランツが面白そうにそう口にする。その時にはすでにこの男が連れてきた部隊の男達は全員眠りについていた。随分と鮮やかなお手並みだね。さすがは知恵の象徴と言った所か。


「もちろん、尋問さ」


 折角グランツが一人だけ残してくれたんだ。このおじさんからしっかり話を聞いてみよう。ケビンさん夫婦が死に掛けたんだ。冗談じゃあ済まされないからね。

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