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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

身体欠損系勇者の話あれこれ

魔王戦を目前にして気がプッツンしてしまった勇者の話

作者: 三須美ソウ

前作『有名なセリフで魔王に誘われついていくことにした勇者の話』のif話なので、前作を読んでいただいたほうが分かりやすいかもしれません。


「そんな……おい……!」

「すまない……オレはもう……ダメだ……」


魔王まであともう少しというところで。

勇者にとって最後の仲間が膝を折った。勇者は右手に持っていた剣を放りだして彼を抱き留める。

2人で相手するには骨が折れる魔物をやっとの思いで倒した矢先のことだった。

倒した魔物は、苦戦した時間に反してあっけなく姿が消えてなくなり、残されたのはわずかな金と今となってはどうでもいい女性用の魔法補助具。


彼らは治癒薬がほしかった。

勇者にとっての最後の仲間は猛毒に侵されていてもはや瀕死といった状況だった。

まれに所持している魔物もいるため一縷の望みをかけて戦闘を試みたが、苦戦したわりに戦果も乏しく、目的のものは手に入らなかった。

彼は弱々しい呼吸を繰り返す。合間に小さく勇者に語りかける。


「すまない……ほんとうに……」

「そんな……うそだ……いやだ、待ってくれ……っ」


勇者の懇願にただ眉を下げて応えるしかできない彼は重くてだるい右腕を、それでも必死に持ち上げて勇者の腕を掴んだ。

祈るように、自分の残り僅かな命をすべて絞り出せるように、最後の力を振り絞って勇者へ回復魔法をかけた。

振り絞ったって、彼の力では勇者の失った左腕や右足を復元させることはできないし、毒や麻痺を治すことはできない。

せいぜいが体力値の回復くらいだろう。


「オレにはもう、これくらい、しか……」


それは彼の得意分野ではないため専門の、例えば序盤に一緒にいたヒーラーの彼女であれば体力気力共に回復させることもできたかもしれない。

しかし彼女はここにはいない、亡くしてしまったのだから悔いてももうどうすることもできはしない。


「お前を残してすまない……だが……これで逝ける……」


毒に侵され続けて顔色も真っ青な彼は、そう小さく言い残して勇者の腕の中で逝った。

勇者は力なくもたれかかる彼を不自由な両腕で揺らしながら何度も何度も話しかけ続ける。


「こんなとこで死ぬお前じゃないだろなぁ今までだってこんなことたくさんあったじゃないかそうだろ?ヒーラーのあの子が早々に死んじゃってさ村に寄ってもろくに休ませてもらえなかったりしてもさなんとか魔物倒してそいつから薬とか装備品とか集めてな大変だったよな瘴気の沼で閉じ込められたときだってなんとかなったじゃないかまぁあれは魔術師のあいつが犠牲にはなったけどさ」


認めないと言わんばかりに息をつく暇もなく話し続ける。

もちろん息を引き取ってしまった彼からは返答なんてあるはずもなかった。


「どうして……こんなふうになっちまったんだろうな……」


ぎゅっと力強く抱きしめた。返してくれる腕はない。


「そうだよ一体どうして俺たちがこんな目にあってるんだ俺たちみんなのために戦ってたんだよな」


涙が溢れて頬を伝い流れていく。拭ってくれる仲間はいない。この世にはどこにも。


「なのにみんなは俺たちを助けてくれないこんな世の中やっぱり間違ってるよなお前もそう思うだろ」


ギリギリと張り詰められていた心を、勇者は自覚を持ってパァンとはじけさせた。

そうだ、もう、守るべきものなんて、どこにもなくなったんだ。

気を正常に保たせる必要なんて、もうないんだから。


「あはっ、はははっ、あははははははっ」


義足をつけた右足。左肘から先は失ってしまってから久しい。

魔術師のローブを羽織り、華奢なデザインのピアスと首飾りを身につけている。

道具袋の中には勇者が装備できない杖や短剣がしまわれている。

そうだ、彼からは何を持って行こうかな。魔物の放つ矢で射貫かれて失った代わりに充てていた義眼を持って行こう。

彼を丁寧に仰向けに寝かせて、前髪を払いのける。彼の左眼に爪を立ててギチギチと生々しい感触を伴って埋めてあった義眼を取り出した。

きれいな青い瞳。義眼となった後だって彼の瞳には勇気づけられていたように思う。

取り出した義眼。手にした勇者はそれを明かりに照らして眺めた。取り出したって彼の瞳はきれいだ。


「どうしようかなこれ。ああそうだ、他の仲間のものと同じように身につけないといけないよな」


取り出した義眼を一度彼のもとに戻して置き、勇者の手は迷うことなく自身の左眼に向かいそのままくり抜いた。

ギチリギチリと身のうちから湧き出る悲鳴にも耳を傾けずあっさりと。

取り出したそれを興味なさげに足下に転がし、義眼を丁寧に拾い上げ失った空洞へはめ込んだ。


これで、みんなと一緒だ。

さぁ魔王のところへいこうか。

自分がどうなろうともはやどうでもいいが、苦難苦労を共にしてきた仲間との目的地だ。

行かねば。

逝かねば。


「あはははははははは」


放りだしたままだった武器を拾い上げ引きずり持ち、最後の玉座の間へと向かった。




****END****



この仲間依存度が高い勇者なら、魔王との決戦はどうなるんでしょうね。

この勇者はもう魔王への敵意とか闘志なんかは沸かないと思うんで、気分としては殺されにいく感じでしょうか。理性飛んじゃってるだろうから魔王も前作のように手をとろうじゃないかと提案しないかもなぁ。

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