表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/17

予想外の婚約

 リングストン城の最上階は、玉座の間になっている。リングストン王国を一望できるこの場所は、これ以上なく玉座の間に相応しい。

 シャズアはその玉座の間にいた。玉座の前で跪き、玉座に座る老齢の男に頭を下げていた。

 当然、リングストン城の玉座に座れる者などこの世に1人しか存在しない。この男こそリングストン王であり、シャズアをここに呼んだ張本人である。

 魔族との戦争を勝利に導いた功労者して、シャズアはリングストン王に呼び出されたのだ。

 当然ながら、 アムルも少し前にリングストン王から呼び出されたらしく、既に感謝の言葉と褒美を贈られているそうだ。

 魔族との関係は、和解の方向へ進んでいる。

 ドルズを殺さず、屈服させたのが大きな要因だろう。人間の言葉には従わなくても、ドルズの言葉になら従う魔族は大勢いる。

 ドルズが負けを認めたのだから、魔族も負けを認めるしかない。アムルの思惑どおりである。

 実はこの流れは、シャズアの記憶にあるシナリオと同じである。ディシディア・ストーリーでのアムルも、魔族を殲滅するのではなく、和解の道を選んだ。


「面を上げよ、シャズア。リングストンのためによくぞ働いてくれた。余は其方を誇りに思うぞ」

「光栄です、リングストン王」


 シャズアは言われたとおりに顔を上げ、さも光栄に思っているような表情を浮かべた。

 いや、光栄に思っているのに違いはないのだが、最もウェイトを占めている感情は困惑である。


(なんか俺、リングストン王から妙に評価されているんだよな…… まあ、悪い気はしないけど)


 シャズアには、アムルのように華々しい戦果はない。そもそも最初から、華々しい戦果など求めてはいない。アムルのサポートを第一に考え、今までずっと行動してきたのだから。

 世間では、シャズアはアムルの唯一無二の相棒だと認識されてこそいるが、それでもやはり、アムルの二番手という印象がある。

 シャズア自身、事実そのとおりであり、別にそれでも構わないと考えている。

 それなのに、リングストン王はこうして個別に呼び出し、感謝の言葉と褒美を贈ってくれるというのだ。原作のシャズアと比べれば、まさに破格の待遇であろう。


(……思えば、長いようで短い時間だった。辛いこともあったが、アムルの相棒として戦った日々は楽しかったな)


 リングストン王の言葉を聞きつつも、シャズアは心地良い達成感に浸っていた。

 アムルをゲームのエンディングまで導くことこそ、本来のシャズアの目的だったのだ。決して、アウラを告発することではないのだ。


(そうだ、思い出した。まだ物語は終わっていない。この後、リングストン王国の姫がアムルに婚約を申し込むんだっけ。それで、姫とレイシアさんのどっちを選ぶかで大騒動になるんだよな。まあ、俺は気楽に見物させてもらうとするか)


 呑気にそう考えていると、リングストン王の顔が変わった。一国の王から、娘を見守る父親のような顔になった。


「シャズアよ、実はナイアから話があるのだ」

「ナイア姫、からですか……?」


 ナイアとは、リングストン王国の姫君である。

 話があるとすればアムルだろうと、ついさきほど高を括っただけに、困惑は大きかった。


「ナイアよ、玉座の間に入れ」

「はい」


 玉座の間に可憐な少女が現れる。

 シャズアの真横の、それこそ手を伸ばせば触れられる位置で少女は立ち止まる。

 この少女こそがナイア姫である。

 ナイア姫とは、これまで何度か顔を合わせたことがある。根強い人気のあるサブヒロインなだけに、素直に可愛いらしい女性だと思った。


(あれか、俺からアムルの情報を聞き出したいとか、そんな理由か?)


 ナイア姫はどこぞの悪役令嬢とは正反対の、控え目で、心優しい性格だ。

 アムルと直接話す勇気がなくて、まずは自分に話しかけてきたという事情なら、納得できるのだが。


「……」


 何故かナイア姫は、一瞬たりともシャズアと目を合わせようとしない。常に視線を伏せている。いつもと様子が違っている。

 図らずとも、シャズアが一方的にナイアを見つめる状態になっている。沈黙の時間が続き、妙に気まずい空気が場を支配する。

 リングストン王に視線で助けを求めるが、リングストン王は完全に見守る態勢に入っている。

 ナイア姫が話を切り出すのを待つしかない。

 やがて、ナイア姫は意を決したようにシャズアと目を合わせた。


「そ、その…… シャズア様。どうかお立ちください」

(様?)


 様付けで呼ばれたことに、シャズアは小さな違和感を覚える。

 しかし、その違和感についてあれこれ考えるよりも先に、シャズアは立ち上がった。


「シャズア様に伝えたい想いがあったんです。魔族との戦いの最中に、気を惑わせてはいけないと思い、ずっと胸に秘めていたんです」


 ナイア姫は大きく息を吸った。まるで、自分自身に檄を飛ばすみたいに。


「私と婚約を結んではくれませんか!?」

「!?!?!?!?!?」


 シャズアを襲った衝撃は、それこそアウラと初めて会ったときに匹敵するものだった。


「なっ、なん……!?」


 大きく咳払いして、一旦落ち着く。

 聞き間違いだと思いたかったが、それはあり得ないと即座に否定する。

 なけなしの勇気を振り絞ったのだろう。ナイア姫の顔は緊張で真っ赤になっている。

 そんなナイア姫を見て、嘘でも聞き間違いだと思い込むのは、男として、人として不誠実極まりない。


「そ、その…… 誠に失礼なのですが、どうして私なのでしょうか? 私などより、勇者として華々しい活躍をしたアムルが、ナイア姫に相応しいと思うのですが……」

「確かに、アムル様はとても素敵な殿方です。魔王ドルズとの一騎打ちに勝利し、魔族との和解まで成し遂げたアムル様を、私は心の底から尊敬しております」


 「それならどうして」とシャズアが疑問を口にしようとするが、ナイア姫が今までにない強い口調で「ですが!」と遮る。


「私は、他でもないシャズア様に惹かれたんです。シャズア様の御活躍も、私の耳にはしっかり届いております。アムル様が危機に陥っていると聞けば、颯爽と駆けつけ、共に困難を乗り越える。そんな話を、私はいつも聞いていました。それができるシャズア様を、私はどんな英雄よりもカッコいいと思えたんです!」


 そう語るナイア姫の目は、活き活きと輝いていた。さっきまでの控えめな態度が嘘のようだ。

 ただ、真剣な想いなのは伝わってきた。嬉しいような、 恥ずかしいような、複雑な気持ちである。


「ご、ごめんなさい! こんな一方的に話してしまって……」

「い、いえ……」


 我に返ったのか、ナイア姫は恥ずかしそうに頭を下げた。


(つまり、あれか…… ナイア姫は主人公を支える影の主人公的なキャラが好きってことなのか。いや、自分のことを影の主人公って呼ぶのはどうかと思うけど)


 ディシディア・ストーリーでは語られることがなかった設定…… いや、彼女の性格だ。


(うん、正直わかる)


 シャズアは今の自分が置かれている状況も忘れ、純粋に共感した。


(じゃなくてだな!?)


 が、即座にそんな場合ではないと自分自身にツッコミを入れる。


(ど、どうする……!? ナイア姫が俺に好意を抱いてくれるのは嬉しいんだが、俺にはアウラが──………アウラが?)


 一瞬だけ、シャズアの思考が停止する。

 どうして自分は、アウラの名前を思い浮かべたのだろうか。たった今、自分自身が考えていたことに、深く、そして静かに衝撃を受ける。

 そんなシャズアに対して、ナイア姫は心配と不安が入り混じった表情を向ける。


「も、申し訳ありません。あまりにも光栄な話に、少し混乱してしまいまして……」


 このまま黙っていては、あらぬ誤解を招く。そう判断したシャズアは、懸命に言葉を紡ぐ。

 地位が圧倒的に上の存在── リングストン王国の姫君に、一介の貴族に過ぎない自分がここまで言わせているのだ。本当ならここで、即座に了承の言葉を返すべきなのだろう。

 その場しのぎでしかないシャズアの言葉は、ナイア姫の機嫌を損ねても不思議ではない。

 しかし、ナイア姫はシャズアに対して怒りを露わにするでもなく、優しく微笑みかけた。


「シャズア様、お返事は後日で構いません。十分な休息を取った後に、ゆっくり考えていただければと思います」


 一国の姫君に婚約を持ちかけられる体験がどれだけ衝撃的なのかを、他でもないナイア姫が誰よりも理解している。

 その場の勢いに任せて婚約を結ぶのは、ナイア姫の望むところではない。


「ありがとう、ございます」


 そんなナイアの気遣いに対して、シャズアは素直に応じる他なかった。

 半ば呆然とした心地で、玉座の間を後にする。

 玉座の間から出て数歩の地点で立ち止まり、振り返る。玉座の間に留まるリングストン王、そしてナイア姫に対して頭を下げる。


「失礼しました」


 その言葉と同時に、扉が閉まる。

 扉の両脇に控える衛兵たちは、訝しんだ目をシャズアに負ける。扉が完全に閉まり切った音は、耳に届いているはずだ。それなのに、シャズアは片膝をついた体勢のまま動こうとしない。

 シャズアは今、動けなかった。より正確に言えば、動く気にならなかったのだ。


「俺は、どうするべきなんだ……」


 自分にしか聞こえないくらい小さな声で呟いた問いかけに、答えてくれる者は当然誰もいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ