ギャルゲーにござるっ!
「つまり同志、同志が彼女を作ることで、悪魔たちは納得すると。」
「まあ、そういうことですね。」
せんぱいは興味なさげにそう呟く。
「ふん、三次元のどこが良いのじゃ。」
さらに、肘をついて、興味なさげにそう呟く。
「それについてはまったくもって同意です。」
俺もまた、興味なさげにそう返す。
せんぱいはぐてーっと、机に突っ伏した。どうやら、昨日並んで手に入れたゲームの対価として失ったHPは相当な量であったらしい。
「ヲルビダ、こんなことを言っておるぞ。」
気だるげに向けられた視線、
「契りを結ぶこと、きっと、あなたたちが思っている以上に、それは重大な意味を持っているのです。」
何故か教室のドアの隣で直立不動で立っている悪魔は、その視線に答える。
「契りを結んだ相手によって、悪魔の格付けも決まってしまうほどに。」
「ふむ・・・」
「・・・・。」
降りる沈黙。
「で、沼田(ヲルビダさんに言われた攻略対象の女の子)とは、一体誰なのじゃ?」
先輩がこちらを振り向く。
「う~ん、誰といわれても・・・クラスメイト・・・ですね。」
既に面識はあった。ただ、クラスで浮いている拙者が特定の誰かについて語るというのは、些か難しい問題でもござった。(そもそも、ヲルビダさんがこの世界に来たあの日、どうしてヲルビダさんは、既に沼田さんの存在を知っていたのだろうか・・・?)
「まあ、どうでもいいか。」
一拍、
「それよりもだ、」
「せんぱい?」
がたッと起き上がるせんぱい。
「というわけで同志、今日もロリに対するりかいを深めるため、この作品をやろうと思う!」
せんぱいが懐から何かを取り出す。
「せんぱい!・・・それはっ‼‼‼」
俺の目には、先輩の取り出したそれが、七色にも黄金色にも見えた。
小学生と見間違えそうなほどちっちゃなの手に握られていたもの、そこには、
『ロリのロリによるロリのための王国 ~上級者用~ (ポロリはないよ・・・ゴメンネ・・・)』
と書かれた先日発売されたばかりの美少女ゲームのパッケージだった⁉(これで、全年齢対象となっているのだから、世も末だ)
「さすがせんぱい、すでにそれを手になされているとは、聞いた話だと予約が殺到しすぎて、今購入するのは不可能とまで言われているのに・・・。」
「フッフッフッ・・・苦労したさ、私のコネをフル活用しても、入手するまでにここまで時間がかかってしまった。まさか、最後のしゅだんにまで手を伸ばすことになるとはな・・・・・(遠い目)。」
妖しく笑うロリ。
ただ、この場で頭の上にクエスチョンマークを付けている人物が若干一名。惨めな会話で楽しむ二人をどうでもよさそうな目で眺めていたのでござるが・・・気になってその口を開いた。
「ご主人様・・・ギャルゲーというのは・・・一体・・・?」
⁉
その言葉にせんぱいは驚愕に目を見開く。その様はまるで青天の霹靂を見ているかのようでござった。
「ギャルゲーを・・・知らない・・・だと・・・?」
一拍
「同志っ⁉」
「な、なんでしょう・・・?」
せんぱいは、バッと椅子から立ち上がる。しかし、もともと身長の低いせんぱいのこと、逆に高さが下がってしまっていることを告げるべきか否か・・・。
「どうやら、この場にそぐわぬものが一名おるようだな・・・。」
「そのよう・・・ですね。」
「ゆゆしき・・・これは、ゆゆしきじたいだぞ⁉」
「はい。」
せんぱいはキッとヲルビダさんを睨みつける。その目は憤怒に燃えていた。
「ならん、ならんぞ、ヲルビダ!そのようなうわべだけの知識ではこの世界のほんしつを見定めることなど、とうてい出来ん!」
「はぁ。」
ヲルビダさんはめんどくさいのに絡まれたなぁとでもいうように適当な返事で濁す。
――と、その時――
「・・・・そうだ・・・。」
せんぱいはそこで何かに気づいたとでもいうような表情をさせて、俺の隣の席に腰かけた。
「のう同志よ、こういうのはどうじゃ?」
そう言ってずいっと身を寄せてくる。
「どうしたんです?」
「いや、つまり悪魔たちはお主がヲタクであることに絶望して彼女を作るように迫ってきているのじゃろ?」
「そうらしいですね。」
「ならば、今ある同志の状態を仮に悪魔が問題であると、にんしきしなくなる、つまりヲタク文化に好印象を持たせることでもこの問題は解決するのではないか?」
「・・・ああ・・・なるほど・・・。」
正直、その発想はなかった。
確かに、無理にこちらが相手に合わせる必要などこれっぽちもないのだ。相手がこちらに譲歩する、それでも確かにこの問題は解決する。
「私がその文化に心酔することなど、あり得るとは思えませんがね。」
ひそひそ話をしていたというのに、どうやら拙者たちはこの悪魔の能力をまだ見くびっていたようでござる。
「むー、やってみんと分からんじゃろうが。」
「まあ、悪魔だからゲームが楽しめないなんて、それこそ偏見ですからね。」
俺も、せんぱいの意志に賛同する。
「無駄だとは思いますが・・・。」
「まっ、物はためしじゃ!」
せんぱいはそう言うと、俺たちが不法占拠している教室の隣、せんぱいが完全に私物化している準備室でガサゴソと何かを探し始めた。
待つほど二分、せんぱいは今となっては見ることもなくなってしまったゲーム機器『prey station2』と、ソフトを何個かを抱えて戻ってきた。
「相変わらず、私物化してますね。」
せんぱいは、ゲームをしたくてうずうずしているのか、
「よいじゃろ、誰にも使われないというのはかわいそうじゃ。まあ、一種のゆうこー活用じゃな!」
ニカッと笑ってそういう。
「それよりも、どのソフトをやるか?」
有名なシリーズばかりがせんぱいの手の中にあるのだけど、
「やはり、ここはメタルクエストではないですか?」
やっぱりこれかなって思う。
「おお、そうじゃな!やはり王道から行くか!ふっふっふヲルビダの反応が楽しみじゃな!」
「・・・はあ。」
ヲルビダさんは興味なさげにそう言う。
実際のところ、リアルを知る者にとって、こちらのゲームはどのように見えるのだろうか?
期待と、やはりそれ以上の不安がどこか胸中で渦巻くのだった。
振り向いたその先には、案の定無表情な悪魔が一匹。
「ま、私には意味をなさないと思いますが・・・」
淡々とそう言うのでござった。
一時間後
そこにはものの見事にゲームに食らいつくように熱中している一人の悪魔が・・・いた。
「やるな、スク〇ニ。」