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方程式にござるっ!

ヲルビダさんがこの世界にやってきて、今日で二日目。この悪魔、一見するとまるで初めからこの世界で生きていたかのように、この世界になじんでいるのであるけれど、やっぱり異世界の人間なんだなと感じさせられるワンシーンというものがあるのでござる。

 今日も、数学の授業で、


「ご主人様、あの黒板には、何がかかれているのですか?」


その黒板には、たしか方程式に関して書かれていたと思う(ちなみに、ヲルビダさんが拙者の隣の席に座っているのでござるが、それは、朝急遽行われた席替えにおいて、本当に偶然ヲルビダさんが、拙者の席の隣を引き当てたからそうなっているのでござる・・・深くは追求しまい・・・)。

「えーっと、ヲルビダさん・・・もしかして、数学はできない・・・?」


「馬鹿にしないで下さい。足し算と引き算くらいできます。」


「あー、察した。」

「なんだか、物凄く馬鹿にされているような気がするのですが。」

「まっ、ファンタジーの世界に数学なんて、必要ないよね?」

「なんだか、物凄く見下されているような気がするのですが。」


――と、その時――


「じゃあ、この問題を・・・ヲルビダ君、解いてみなさい。」

運の悪いことに、ジャストタイミングでヲルビダさんに指名が下った。

 拙者は、まずいなぁと思うのだけれど、ヲルビダさんはまったく気にしたそぶりもせずに起立する。

 一瞬、訝し気に黒板を眺めているのだけど(珍しい表情だ!)ふっと笑ったかと思うと(きっと解くのを諦めたのだ!)・・・・

 小声で何かをつぶやき始めた。


――すると――


「この問題は、両辺を・・・3で割って、yを・・・し、・・・・すると答えが出ます。」


(あっ・・・・・。)


拙者、察してしまったでござる。

「よろしい着席しなさい。」

「ヲルビダさん。」

ジト目で見る。

「なんでしょう?」

しれッと返す悪魔。

「魔法・・・使っただろ?」


「てへぺろ。」


いや、そんな無表情で言われてもなぁ。

「この世界に、魔法を使ってはならないという法律はないですよね?」

「・・・確かに・・・。」

「ちなみに、今の私は、あの教師と同じくらい数学ができます。」

「せこっ!」


とまぁ、時たまヲルビダさんが異世界の住人であることを痛感させられる一コマがあるのだけれど、そんなものもチート能力によって粉砕させられてしまうのだとさ。


 


—―時間は、経過し自宅—―


拙者たちは家に帰ってきた。

 家には、親が気を利かせたのだろうか、家族の分プラス一個分の食事が並んでいる。

 こんな風にヲルビダさんの食事がすでに用意されているあたり、そんな部分もこの悪魔がこの世界に順応しきってしまっているような感覚を拙者に与えてしまうのだった。


 拙者は、じゃあ食べようかといって、席に着き合掌をし箸を取るのだけど、その箸がぴたりと止まってしまった。なぜかというと、目の前の悪魔、ヲルビダさんは席に着くわけでもなく、ただ直立不動のまま、拙者の食事風景を眺めていたからだ。


「おなか・・・すいてないの?」


「いえ・・・そういうわけではありませんが。」


「どうして・・・食べないの・・・?」


一瞬、ヲルビダさんがこちらに遠慮して食べてこないのではないかと思ったりもしたのでござるが、登場シーンでいきなり拙者の寝床に侵入しているあたり、おそらくその予想は外れているでござろう。


「私も、ご主人様と一緒にお食事をしてもよろしいのでしょうか?」


「そりゃ、もちろん・・・あちらの世界では、一緒に食事しなかったの?」


一瞬ヲルビダさんが言葉に詰まる。


「・・・あちらは、ご主人様が思う以上に、殺伐としているのでしょうね・・・。無防備になる食事を誰かと一緒に取ることなど、今はなくなってしまいました。ましてや、私のようなものが魔王様と一緒に食事をとるなど・・・もう・・・できはしなかったのです。」


「・・・・。」


引っかかりを覚える。ヲルビダさんは宴の席で拙者の存在を知ったといっていた。でも、そもそもそんな世界で本当に宴など開けたのだろうか。

 ヲルビダさんは、ちょこんと椅子に座ると、料理に手を付けることなく、こちらを見ていた。その目はなんだか・・・寂しそうだった。


 かと思うと、少しづつ料理に箸をつけ始める。


 箸の進み具合から、もしかして料理がおいしくなかったのかなとも思ったのだけれど、どうやらそうでもないようで・・・

 ヲルビダさんは、またこちらを向くと・・・


「今度、私がご主人様に料理を作ってもよろしいでしょうか・・・?」


そう聞いてきた。


「ヲルビダさん、料理できるんだ・・・。」

「ええ、きっと・・・あなたの味覚に合うと思います。」


――だって、料理を教えてくれたのは、あなたなのだから――


最後に小声でそうつぶやいたのだけれど、その声はあまりにも小さく、拙者の耳には届かなかった。

もう一度ヲルビダさんの顔を見ると、驚いたことに彼女は少し微笑んでいた。


――続く――

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