せんぱいにござるっ!
「で、・・・そいつはなんじゃ?」
昼間の不良たちは、どうやら前座試合でしかなかったらしく、拙者たちは今まさに最後のラスボスと対峙しているところでござった。
表札も何も掲げられていない空き教室、どこからどう見ても小学生にしか見えない風貌の少女、もとい俺の先輩で、貴重なヲタク仲間であるせんぱいが不審なものを見るようにそう言う。
「ええっと、・・・・・何と説明したらよいのか・・・」
「ありのままを話したらよいのでは?」
「・・・いいの?」
「私は別に、私の正体を知られても困りは致しません。翼と角を隠しているのは単純に人の視線が集まるのが不快だからです。」
「隠してても目立ってるけどね。」
「コホン・・・」
一拍
「たとえ知られて、不都合になったならば、全員の記憶を消せば済む話ですから。」
「強引だっ!。」
一拍
「まあ、それならお言葉に甘えまして、実はせんぱい、かくかくしかじかで・・・・」
「ふむふむ・・・。」
――十分後――
「つまり同志は・・・そいつが悪魔であると・・・そう言いたいのか?」
明らかにその声音は・・・こちらのことを信じているものではなかった。
「お前、熱でもあるのか?」
せんぱいは、本気で心配したそぶりを見せている。
「目を覚ませ、同志、私だって二次元の世界が現実になったら嬉しいさ、じゃがな、フィクションはフィクション、現実になどなれない。」
せんぱいは、目を潤ませてそんなことを言ってくる。
「せんぱい、中学二年の時の担任みたいなこと言わないで下さい。」
「じゃがな、同志よ・・・・お主が異世界で魔王をしているなど、どう考えてもおかしいじゃろ。」
確かに・・・・
「私は、一応本物の悪魔なのですが・・・」
あの~とでもいうかのように悪魔は言うのだが・・・
はぁとせんぱいは一人静かにため息をついた。
「じゃあ、証拠を見せてくれ。」
その目はインチキ宗教家を目前にしているかのような・・・そんな目をしていた。
「そうですね・・・。」
ヲルビダさんは、特に気にした様子もなく、思案顔である。
「魔法で何かしてほしいことはございますか?」
「ふむ・・・」(思案顔)
一拍
「じゃあ・・・」(何か思いついた御様子)
一拍
「おっぱいを大きくしてくれ‼」
「なっ⁉」
なんてことを言い出すんだ!このせんぱいは・・・
もちろん、身長もじゃ!とあせりながらせんぱいが言っているが、その言葉すら頭に入ってこない。
「せんぱい、そんなことをしてしまっては、せんぱいのステータスだだ下がりになっちゃうじゃないですか!」
「いや、体格大きい方がステータスたかそうじゃが・・・」
「この世には隠しステータスというものがあるんです‼」
「そんなに大声上げんでも・・・」
一拍
「まあ、なんにせよ、どうせそやつのいうことなぞ嘘なのだから、どちらでもよいか・・・」
フンッと鼻をならす。
ヲルビダさん、これまた気にした様子もなく、小声で何かを唱え始めた。
ヲルビダさんの周囲が青白いオーラで包まれていき、時折、紫色のスパークがほとばしる。
尋常ならざる光景に気づくものがあったのだろう、一筋汗を垂らしながら、ごくりとせんぱいがつばを飲み込んだ。
「なに・・・これ。」
まずい・・・このままでは、せんぱいが先輩になってしまう!
なんとかせねばと思った。だが、時、すでに遅く・・・
ヲルビダさんがせんぱいに腕を振りかざした。
――瞬間――
「なんじゃ⁉体が・・・熱い・・・」
せんぱいの驚愕と共に、その体が光に包まれる。
そんな・・・
「せんぱーい!」
拙者はあふれ出てくる涙をぬぐうことさえ忘れて、大声をあげて先輩に手を伸ばした。あの人が俺の知らない場所に行ってしまわぬように・・・その姿は映画のラストシーンさながらであった。
だが・・・
光の先には驚きを隠し通せていない顔のせんぱいが・・・
「おっぱいが・・・」
せんぱいが・・・
「おっぱいが・・・」
せんぱいが・・・
「「大きく・・・・なってる・・・・!」」
・・・・・なんていうことだ・・・・・。
「この世の・・・・・・・・・・おしまいだぁ・・・」
拙者は膝をついて愕然とした。目をそらしたい現実が、そこにはあったのだ。
そこには、見目麗しい、拙者たちにとってまったくもって無価値な美女が立っていたのだ。
「同志!」
「・・・・・なんでしょう・・・?」
「こいつは・・・間違いなく悪魔じゃ!」
だから最初からそう言ってるだろうが・・・、拙者は心中投げやりに言葉を返す。
「満足しましたか?」
「ああ、大満足じゃ(超笑顔)ふっふっふ、これで今までちびだと馬鹿にしてきたやつらを見返すことができる(超超笑顔)!」
「せんぱい・・・。」
この人は、なんて邪悪なことを・・・
せんぱいは変わってしまった。強大な力を得てしまった先輩は、その力と引き換えに、己の人間性、過去に持っていた優しさを、忘れてしまったのだ。
「ふっふっふ、アハハハハ、アーハッハッハッハ」
高らかに笑う先輩。
もう・・・ダメなのか?あの人は、もう・・・
「お願いです、先輩、あの頃の優しかったせんぱいに戻ってください。」
拙者は、涙ぐんで懇願した。
「・・・・・もう無理だよ。私も、この世界も・・・変わってしまったから。」
「・・・そんな・・・。」
どうして・・・こんな結末に・・・
「もう・・・戻れないのですか・・・あの日の、優しかったせんぱいに・・・」
「そうだ。でも・・・・」
涙をぬぐって過去一番の笑顔で笑う先輩。
「君のことだけは、決して忘れない―――」
「あ、ちなみにあと数秒もしないうちに体格は元に戻りますので――」
「・・・・・・は?」
先ぱいがハルマゲドン勃発直前の人類みたいな顔をして聞き返す、
「ヲルビダさん・・・・」
拙者の目には、今だけこの悪魔が天使のように見えた。
なんと空気の読める悪魔なのか(後光が差しておるわい)!
「待って、私にはまだやらなければならないことが・・・こんなところで、こんなところで・・・」
せん輩の頬を伝う涙、走馬灯のように、幾多の記憶がセンパイの頭をよぎった。
「こんなところで・・・」
先ぱいはどこへともなく駆けだす。今までの雪辱を果たすべく・・・・でも、
――その瞬間にも――
せんぱいの体を光が包んだ。
「まってぇ、私のナイスバディ・・・ナイスバディ・・・ナイスバディ・・・ナイスバディ・・・ナイスバディ・・・ナイスバディ・・・ナイスバディ・・・(やまびこ風)」
そんな、何とも声のかけづらい最後の言葉を残して、先輩はこの世を去ったのだった(完)
「お帰り、俺たちの・・・せんぱい・・・(涙)」
俺はにっこりと笑う。まるで、バトルアニメの最終回のようである!
「シクシク。」
「やっぱり、せんぱいは、ロリでろりろりしてる方がいいですよ。」
「シクシク。」
完全にこちらの声が聞こえてないご様子。
――一時間後――
夕日が空を染め上げている。オレンジ色の光は、あしたのジョー(ラストシーン)みたくなっているせんぱいを、それでも優しく包んでいた。
「そろそろ帰る時間ですよ、せんぱい。」
「シクシク。」
あーあ、だめだこりゃ・・・。
拙者は、助けを求めるようにロズウェルさんを見たのだが、案の定、この人は我関せずという体を保っているようだった。
仕方ない、最終手段だ。
「せんぱい、そろそろ立ち直ってくださいよ。ほら、今日は『ラストエリクサー(誰か私を使ってあげて!)』の発売日じゃないですか。一緒に買いに行きましょ。」
――瞬間――
せんぱいの耳がピクリと動く。
「そうだ・・・。」
光が・・・
「そうだった・・・」
せんぱいの目に・・・
「なぜ気づかなかった・・・」
その目に光がともった。
「私たちには・・・二次元がある・・・私たちには・・・二次元という居場所がまだ残っているではないか・・・!」
ぱっと起き上がるせんぱい
「そうだな・・・同志?」
「そのとおりです・・・せんぱい。」
やっと・・・気づいてくれた。拙者はそっと、ほほを伝わる涙をぬぐった。
拙者たちははがっちりと手を組合す。そして、前へと向き直る、無限の可能性を秘めた未来(二次元)を求めて。
俺たちの戦いは、これからも続く
(完)
――続く――