不良にござるっ!
――昼休み――
ふと見上げた、青空は案の定青色だった。
「・・・・。」
重ねていっておきたいんだけど、拙者の外見はバンダナ、眼鏡の長髪、古風で由緒あるヲタクスタイルを常に守っているような男だ。
「はぁ。」
だからさ、目の前にあるこんな光景も当然、予想はしていたわけなのでござる・・・。
「おい、ガン無視決めてんじゃねえぞ!」
不良の一人が声を荒げる。
拙者がこんな人たちに絡まれている理由。
「だからさぁ、今日転校してきた外国人、俺にくれって言ってんの。」
つまりは、そういうことなのでござる。
まあ、こうなるのも見え透いたというかなんというかという感じなのだけど・・・
というのも、くだんの転校生、ヲルビダさんは、誰とも打ち解けようとする意志がみられなかった。つまり、拙者の隣に来て、拙者としか会話しようとしないのである。
おそらーく、周りからは拙者たちかなり不審に思われていたのではないだろうか?突然やってきた謎の超美少女転校生。そしてその隣には、学年一冴えないヲタクの男子生徒。
ちなみに拙者以外とは、
「・・・はあ。」
とか、
「・・・そうですか。」
とか、完全に会話のキャッチボールの仕方を忘れている悪魔さん。正直、何を考えているのか、全く分からないのでござる!
「ねぇ、ヲルビダさん・・・?」
「なんでしょう・・・・?」
「俺以外の人とは、会話しないの?」
「興味ありませんので・・・」
「・・・さいですか・・・。」
さっきから、クラス全員の視線がこちらを向いている。
ひそひそと会話が漏れてくるのだけど、概ねどうして、あんなオタクと、あんな美人が常に一緒にいるのか・・・そんな会話だった。
「・・・はぁ。」
「どうしたのですか、ご主人様?」
「何というか・・・これから来るであろう修羅場展開を想像するとね・・・気が滅入るのだよ・・・ワトソン君。」
「・・・。」
ヲルビダさんは不思議そうに首を傾げた。
―今に還る―
「別に俺とヲルビダさんは付き合ってるわけじゃないけど・・・。」
本当のことを言うのだけど、
「うるせぇ!」
がんと、ものにあたる不良のリーダーらしき人物。
「お前が一言、転校生を否定すれば、すむ話だろうガァ!!」
拙者がヲルビダさんを否定したところで、話は好転しないんじゃないかなぁと拙者は思ったりするのだけど・・・。
(うーん、どうしたものか・・・。)
いっそ、全てを大っぴらにしゃべるのもありかとも思うけど、多分信じてくれないだろうなぁ。
「ノブトさん、こいつ口で言ってもダメっすよ。」
なだめるように、手下っぽい人がそう言うのだけど、瞬間にやりと笑みをこちらへと向かってきた。
おっ、この人なかなか友好的そうだなと思いこちらも精一杯にこにこと笑うのでござるが、それもつかの間、ペッと拙者の足元に唾を飛ばしてきて思いっきり笑みともがんともとれるような・・・なんというかピカソの絵みたいな表情を浮かべてくるのでござった。
どうやらへなへなと友好的な笑みを浮かべているだけでは、彼らの印象は良くならないようでござる・・・難しいものでござるな!
「おい、てめぇ頭下げねぇならどうなっても知らねぇからな。」
そう言って指をぽきぽきさせる。
よく思うのでござるが、どうして不良たちはこうも、指をぽきぽき鳴らすのが好きなのでござろうか?はた目から見てみると、ラジオ体操でもしたほうが、もっと効果的に準備ができるよっ!なんて助言をしてみたい衝動に駆られるのでござるが、そんなことを言おうが言うまいが、目の前の御仁の、とても好戦的な目に変化を与えることなどできるわけでもなく、拙者は必死にちっぽけな頭をフル回転させて、どうやってこの状況を乗り切るべきかと考えるのでござる。
う~む、土下座でもした方が良いのか・・・。
まあ、一介のスーパー地味オタクが目を疑うような美女とずっといるのでござるから・・・そりゃ、地味オタクが悪いってものでござろう。拙者には、そんな高嶺の花、似合いはしないのでござる。
だから、仕方がないことなのでござる。よく見るとにやけた笑顔で、こちらを見下したような目を向けられても、それは仕方のないことなのでござる。
彼らはきっと、驕っているのでござろう。
俺は、目の前のこの男よりも格上で、
今日転校してきた女の子を奪い取ることができると。
(ま、間違ってないんだけどさ。)
男の一人が腕を振り上げる。そこにためらいの意志はありそうになかった。
振り下ろされるこぶし、
瞳の端に映る、こちらを見下してるあの視線。
拙者はあえてよけなかった。よけられそうになかったのではなく、よけなかったのでござる。なぜならば、背後にあの人の気配を感じていたから。
――パシッ――
人を殴ったにしてはやけに軽い音が校舎裏に響いた。
「なっ!!」
男たちが驚愕に目を見開いている。
「大丈夫ですか、ご主人様?」
その悪魔は、涼しげな顔して、そう聞いてきたのでござる。
拙者にぶつかるはずだったこぶしは、きれいすっぽり悪魔に受け止められてしまっている。
綺麗な顔して、そんなことを聞いてくるのでござるが、正直その声音にはこちらを心配しているような雰囲気が全くないのが、残念なところでござる。
一方顔面蒼白になっているのはこちら、くだんの不良グループさんたちである。
こともあろうに、奪い取ろうと思って振り上げたそのこぶしを意中の相手に受け止められてしまったのだ。しかも、相当のブサイク顔に顔がゆがめられておいでであるから、かのこぶしは現在進行形で、相当の握力で握りつぶされているのではないだろうか?
「あの・・・ヲルビダさん?」
「心得ております。この世界で殺生は致しません。」
彼女はこんな時も無表情だった。
普通こういったシーンだと三下っぽい人が三下っぽいことを言った後にボコボコにされるというのがセオリーかななんて思うのに対し、この悪魔さん、そんなセオリーを守る気さえ無いようで、三下が口を開こうとした、その瞬間には彼女は姿を消しており、次の瞬間にはポコポコポコポコとかわいらしいSEを爆産させたかと思うと、頭にそれはそれは見事な団子をこしらえた人たちが気絶した状態で、バベルの塔のごとくそこにに積み上げられていたのでござった。
「・・・・。」
拙者は、オタクとして、この現状に対し一体どんなリアクションをとればいいのかと考えるのだけれど、
「・・・・ま、いっか。。。」
とりあえず、考えるのをやめた。
そして、この塔を作り上げてしまった張本人はというと、どこかむなしそうにこちらを向いて、
「この世界は本当に平和なのですね。」
・・・そう突然言った。空しそうに・・・いや、どこか恨めしそうに・・・
「人を殴った後にそんなセリフを吐く人、初めて見たよ。」
よく見ると、彼女は、寂しそうに微笑んでいた。
お日様の逆行でその表情はきちんと見えなかったのだけど・・・
「私たちに許されていたのは、生きるか死ぬか・・・それだけでしたから・・・」
一拍
「この者たちの目に殺意、それどころか誰かと対峙しているという意思すらありませんでした。・・・この者たち、いやこの世界の人々は自分の命を懸けるようなこと、一度たりとも経験などしてこなかったのでしょうね。」
なんだか悲しそう、いや自虐的な笑みだろうか?でも何だか、その笑顔が不自然なほど、彼女には板について・・・
「世界は平和だからね。」
彼女は見つめる、寂しそうな表情で、まっすぐに俺を・・・。
「だからこちらの世界は、こんなにも空っぽなのでしょうか・・・」
何かを答えてほしいかのように・・・
「何事にも命を燃やすことなく、ただ漠然とその日を過ごしていく。本当にそれは、生きているといえるのでしょうか?」
何だか、その視線は不自然なほど心臓の奥側をぐさりと突き刺していて・・・
「ヲルビダさんは、この世界は嫌い?」
俺は答えることを拒否した。
「・・・・・・・・・・・。」
一拍
「よく分かりません。好きだとか、嫌いだとかではなく、・・・おそらくそれ以前なのだと思います。」
一拍
「この世界は、綺麗で優しくて・・・なんだか嘘っぽい。」
「だからご主人様も、自分を偽っておいでなのでしょ?」
「・・・・・。」
だって、どうしようもないだろ?
この情熱を失ってしまった国で・・・じゃあ俺たちはどうすればよいというのか。
誰かが、その問いに答えに答えてくれるはずもない。
満たされすぎてしまった心を、それでも燃やし続けるなんてできるわけないのに、
それでも、今日という一日は無情に過ぎていく。
――続く――