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伝説騎士リベルタード  作者: ハイパーユリカ
第一部「ウィメンズ・パーティーの乱」
4/95

第一話「悲劇の誕生(水曜の夕方、午後6時)」の三(ここは絶対、日本じゃない)

「ん?」


 馬車に乗せられた二人の人間のうち、馬車の揺れで、先に目を覚ましたのは池川サトシの方だった。


「お目覚めのようね、伝説騎士さん」


 そんなサトシに話しかけたのは当然、馬車内に座っているアカリだった。

 馬車の座席はいわゆるボックスシートで、彼女は進行方向とは反対の席、御者台にいるミズキと背中合わせになる席に座っていて、その向かいにサトシと、もう一人が座らされていた。


「へ? 伝説騎士?」


 当然サトシには何がなんだかさっぱりわかりはしなかった。

 目の前にいる金髪の女性が誰なのかわからなかったし、そもそも自分がどこにいるのかさえわからなかった。

 揺れや車輪の音から自分が何かの乗り物に乗せられていることはわかったが、その乗り物が何かまではわからなかった。

 とりあえず自分のほっぺたをつねるベタなやつをやって痛みを感じたので、自分が生きているということだけはわかった。決して死後の世界とかではないようだ。


「まあ、細かいことはあとでじーっくりお話ししてあげるから、今は大人しく座っていなさいな」


 アカリのその言葉を聞いて、サトシはますます混乱した。

 目の前にいる金髪ロングヘアーの女性は、明らかに幼女だった。小さかった。誰がどう見ても、高学年の小学生にしか見えなかった。なのに口調は上から目線で偉そうだ。

 サトシは幼女に生意気な口を利かれてイラっとしたので、その少女を無視し、自分の右隣に座っているのが誰なのかを確認した。そこに座っていたのは、国司ナナだった。


「ナナ! 無事だったのか! よかった……」

「え? サ、サトシ?」


 自分の隣にナナを見つけて安堵したサトシが大きな声を出したことにより、ナナも目を覚ました。


「よかった。私たち二人とも無事だったんだね。生きてるんだね」


 そう言ったナナは満面の笑みを浮かべていたが、目には涙がたまっていた。


「それでここはどこなの? 車の中?」

「いや、それが……」

「ここがどこなのかはあとでじーっくりお話ししてあげるから、今は大人しく座ってなさい。伝説騎士のお二人さん」


 サトシがナナの質問に答えようとした矢先、アカリが先程サトシに言ったのとほぼ同じセリフを再び言ってサトシの言葉をさえぎってしまった。

 ナナと話すチャンスを逸してしまったサトシはアカリに何か言おうとしたがやっぱりやめて、馬車の窓から外を眺めてみた。


「外は見渡す限りの大平原。ビルの一つもありゃあしない。コンクリートの道路もないし、線路もない。ここはいったいどこなんだ?」


 馬車はすでに森を抜けて、広い街道を走っていた。

 街道の脇には平屋建ての民家がちらほらあるだけで、大きな建物はもちろん、防府ならば当然見えるはずのコンクリートの道路や線路、山や海も見当たらない。


「ここ、絶対防府じゃないよね……」

「うん、防府どころか日本ですらないだろうな」

「いったいどこなのかな、ここ」

「わからない」


 ナナの問いに、サトシは曖昧な答えしかすることができなかった。


「そもそも俺たちが乗っているのは車じゃないし、電車でもないよな」

「うん、違うと思う」

「もうすぐ日が暮れるわね。夜になる前に二人を見つけることができてよかったわ」


 アカリは窓の外を眺めて夕陽を見たのち、ニコニコ笑いながら二人に話しかけたが、事態を呑み込めていない二人は黙っていた。


「そんな警戒しなくてもいいじゃない。別にあなたたちのことを取って食おうとしてるってわけじゃないんだから。私はあなたたちの味方なのよ」


 アカリはやはり満面の笑みだが、サトシとナナはやはり黙っていた。


「ま、別にいいけど」


 アカリはそう言うと、再び窓の外を眺めて、しゃべらなくなった。

 無言の三人を乗せたまま、馬車は夕暮れの街道を疾走していた。




「おい、サング! もう日が暮れる。今日のところはそろそろ撤退するとしようぜ」


 夜が近くなったので、前線から後退してサングの部隊に合流したソングは馬上から、やはり馬に乗っているサングにそう話しかけた。


「うん、お(ねえ)。そうしたいのはやまやまなんだけど…」

「どうした? 何か支障があるのか?」

「パーラーがいないんだよ」

「いない? どうして?」

「お姉も見ただろ。戦ってる途中で突然空が曇って、人間が二人、あの森に落ちてきたのを」

「え? そんなことあったの?」

「気づかなかったのかよ」

「いやぁ、曇ったのにはさすがに気づいたけど、敵を討ち取るのに夢中で空なんか見てなかったよ」

「お姉……」


 馬上で照れて、兜の後頭部に右手を置いたソングを見て、サングは呆れたような表情を浮かべた。


「それで? 空が曇ったのとパーラーがいないのとなんの関係があるんだ?」

「それを見たパーラーが一目散に森に駆けて行って、それから戻ってこないんだよ。多分、落ちてきた人間を探しに行ったんだと思うけど……」

「なんで?」

「わかんないよ、そんなの。とりあえずパーラーの部下に森に行って、パーラーを探してこいって言ったんだけど……」

「部下も帰ってきてないのか」

「そうなんだよ。どうする? お姉」

「どうするって言われてもなぁ……めんどくさいからさっさと帰ろうぜ」

「いや、お姉。私たちだけ先に帰ったらサーちゃんが……」

「ソング様! サング様! パーラー様が見つかりました!」


 おそろいの赤い甲冑を着て、同じ顔をした双子の姉妹が話し込んでいた時、パーラーの部下たちが森の中から戻ってきた。

 森の中で変わり果てた姿になっていたパーラーを見つけた部下たちは、パーラーをタンカに乗せて森から運び出し、輸送部隊の荷車に乗せ換えようとしているところだった。


「ど、どうした、パーラー。誰にやられたんだ?」

「うう……」


 ミズキに鼻を折られて、別人のような顔になっていたパーラーを見たサングは驚いて声をかけたが、まだ意識のはっきりしないパーラーはうめくことしかできなかった。


「どうした? パーラー死んだのか?」

「いや、生きてるよ、お姉。息してるし、動いてるもん」


 サングの後ろからパーラーの乗った荷車をのぞき込んだソングは呑気な声で話しかけた。

 サングはそんな姉に呆れたような口調で返事をした。


「うわっ、なんだこの顔。いったい誰にやられたんだよ」

「わかりません。私たちが見つけた時には、もうこの顔で、森の中で倒れていました」


 変わり果てたパーラーの顔を見て驚きの声を上げたソングの言葉に答えたのはパーラーの部下だった。しゃべれない主君の代わりに状況を報告したのだ。


「そうか。まあ誰にやられたとかは別にどうでもいっか。パーラー見つかったんだし、今日のところはさっさと帰ろうぜ。もう腹が減って、腹が減って、しょうがないんだよ」

「お姉。少しはパーラーのこと心配してやれよ……」


 サングは豪放磊落(ごうほうらいらく)な姉の言葉にまたしても呆れてしまったが、すでに日没間近だったので撤退することには同意した。

 そしてソングの号令により、赤い騎馬部隊とピンクの騎馬部隊は戦場から撤退して、本陣に帰っていった。

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