第四話「復活のリベルタード」の四(幽霊がしゃべった)
作者より
「わたくし、先週末は、この小説の最終回の舞台になる予定の、とある場所に、取材しに行っておりまして、そこで意を強くいたしました。『この小説、どんなに時間がかかっても、必ず完結させる』と。いかんせん、天神さまや安徳帝に、この小説を必ず完結させると誓ってしまったものですから、完結させないとバチが当たってしまいますわ。そもそも三日も書くのを休んでしまうと、書きたいという欲望をどうしてもおさえることができず……(以下、長いので省略)」
隠し通路もやはり一本道で、特に迷うようなことはなかった。
ミズキももう諦めたのか、はたまた疲れたのか、先程までのように絶叫することもなく、静かに歩いていた。
一本道を、淡々と歩を進めるサトシはふと、自分の右側にドアがあるのを見つけ、立ち止まった。通路はまだ続いているが、ここにも部屋があるらしい。
「入るの?」
サトシが立ち止まったので、同じく立ち止まったナナもドアを見つけて、サトシに問う。
「入らないわけがないだろう」
「そうよね、入るわよね」
「ううう、そうですよね、入るんですよね……」
サトシの言葉に、ナナの返事は勇ましかったが、ミズキの返事は不満げだった。
「開けたら、中にドラゴンとかいたりしてな」
ドアノブに右手をかけたサトシが半分冗談のつもりでそう言った。
「もしいたら、三人仲良く、炎で丸焦げね」
サトシの冗談に、ナナも冗談で返したが、
「ま、丸焦げ……」
ミズキは冗談だと思わなかったのか、顔面蒼白になっていた。
「ハハハ、冗談だよ。この国にはモンスターはいないって、アカリおばちゃんが言ってたんだから、ドラゴンもいないでしょ。それじゃあ、開けるよ」
そんなミズキを見て、かわいそうになったサトシは、ミズキを安心させるようなことを言ってから、ドアノブを回した。
ドアは何事もなく開いたが、さびついていたのかなんなのか、開いた時に大きな金属音が響き渡り、
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
それを幽霊か何かの声だと早合点したらしい、ミズキの絶叫がまたしてもイテ・フブキの墓の中に響き渡ることとなった。
ナナはまたミズキに抱きつかれると面倒だと思ったので、サトシを押しのけて、さっさと部屋に入ってしまった。サトシもそれに続いて、部屋の中に入り、暗闇を取り残されたくないミズキも、あわてて部屋の中に入った。
その部屋には、先程入った部屋のようにろうそくが置いてあるわけではなく、たいまつの明かりのみで、部屋に何があるかを確認しなければならなかった。
サトシがたいまつで照らしてみるに、この部屋にあるのは本棚だけのようだった。まるで学校の図書室のように、所狭しと、たくさんの本棚が並んでいた。その本棚にはたくさんの本がびっしり入れられていて、隙間はまったくなかった。
サトシがそのうちの一冊を手に取ってみたら、その本は大変に古い紙でできていて、強く触っただけで破れてしまいそうだったし、たいまつの火が燃え移ったら、一瞬で灰になってしまいそうだった。
サトシはその本の中身に興味を抱きはしたが、たいまつを持ちながら、この本を片手で読むのはとても難しそうだった。
「サトシ、この部屋なんなの?」
「まあ、この本の多さを考えれば書庫なんだろうな」
ナナの問いに、サトシが答える。
「書庫? なんでこんなところに? 隠し通路の向こうに隠さなきゃいけない本って、どんな本なのよ?」
「そんなの俺にわかるわけないだろ。それに、こんな暗いところで、たいまつ片手じゃあ、本を立ち読みするのも難しいし、なんとなく、ここには求めている物はないような気がするんだ。だから、さっさと先に進もうぜ」
「そうね。本しかないんじゃあ、ここにいてもしょうがないわよね、どうせ私たちには読めない文字で書いてあるんだろうし」
サトシとナナはそう結論づけて、さっさと部屋の外に出てしまった。ミズキは何か言いたげだったが、サトシたちがさっさと部屋の外に出てしまったので、大人しく着いていくしかなかった。
書庫を通過してからの道もやはり一本道で、迷うことはまったくなかった。時計がないので、正確に何分歩いたのかは不明だが、おそらく五分ぐらい歩いた時、再び目の前にドアが現れた。
もう、いちいち開けるかどうかの確認を取るのもめんどくさくなっていたサトシは、ためらうことなく、すぐにドアを開けた。
その部屋はやはり殺風景な部屋で、椅子と四角いテーブルのセットが三台、正三角形に置かれていて、そのセットの後方にシングルベッドが三台置いてあった。それ以外は何もなかった。
「ここが最終目的地なの?」
ナナのつぶやきに対して、サトシは何も言わず、正三角形の上の位置にあるテーブルに近寄った。
サトシがテーブルだと思っていたそれには、なぜかボタンが一つだけついていた。
「押すの?」
サトシについてきて、やはりボタンを見つけたナナが、サトシに問う。
「俺が押さない男に見えるか?」
「見えないわね」
「もちろん押すよ、ポチッとな!!」
サトシがボタンを押すと、何かが起動するような音が聞こえて、一瞬にして部屋の中が明るくなった。サトシが驚いて天井を見つめると、そこには蛍光灯があった。
「け、蛍光灯だと!?」
突然、ラブノウ王国には存在し得ない物を目撃してしまったサトシは驚いて、叫んでしまった。
「どういうこと?」
「な、なんですか!? なんで急に明るくなったんですかぁっ!?」
ナナとミズキも驚きの声をあげる。
サトシはとりあえず、部屋が明るくなって用なしになった、たいまつを振って火を消してから床に置き、テーブルを見て、再び仰天した。テーブルだと思っていたそれはモニターであり、そこにはこういう文字が表示されていた。
「PINを入力してください」
「PIN? パソコンか?」
サトシは混乱した。中世ヨーロッパぐらいの技術力や文化度しかないと思っていたラブノウ王国で、突然コンピューター用語が出てきたのである。
「どうしたの?」
ナナが、混乱しているサトシの後ろからモニターをのぞき込んで、サトシにたずねる。
「いや、いきなりPINを入力しろと言われてな」
「PIN? PINってパソコンのやつ?」
「そうだと思う。そうだと思うけど、数字がわからない。まさか0000から9999まで全部入力するわけにもいかないし……」
「とりあえず、なんか入力してみたら?」
「そうは言われてもねぇ、俺、イテ・フブキの誕生日とか知らねぇし……」
サトシはタッチパネルになっているモニターに、なんとなく自分の誕生日の数字である「0920」を入力してみた。しかし、もちろん
「PINが正しくありません」
という言葉が出てきた。
次にナナの誕生日である「1107」を入力してみた。しかし、もちろん
「PINが正しくありません」
と、一蹴された。
「やっぱりダメか。当てずっぽうじゃあ、当たんないよなぁ」
「でも他にすることもないし、どうせこのまま帰っても、ただゴロゴロして、退屈を持て余すだけだよ。もう行っちゃおうよ、0000から全部」
ナナはサトシを焚き付けたが、
「でも、全部入力してる途中で、ロックとかかかったら最悪じゃん」
サトシは冷静だった。ミズキはサトシたちが何をしているのか理解できないらしく、ただ棒立ちしているだけだった。
「それもそうね。じゃあ、どうするの?」
「なんとかして、イテ・フブキに関係のありそうな数字を思い浮かべるしか……」
サトシはそう言って、腕組みして、しばらく考え続けた。ラブノウ王国に来て最初の晩にミズキが朗読してくれた「ラブノウ秘史イテ・フブキ伝」を必死になって思い出し続けたが、覚えているのは「イテ・フブキは西暦3000年の人物」というくだりだけだった。
「ええい! もうこれでいいわい!! これでダメなら諦める!!! でやぁっ!!!!」
サトシは必殺技を放つ巨大ヒーローのような声をあげながら、「3000」と入力した。
すると突然、「ようこそ、イテ・フブキ様」という文字が出てきて、さらに「LIBERTAD」という文字が出てきた。
「解除できたの?」
驚いたナナがサトシにたずねる。
「うん、3000って入力したら、解除できた」
サトシはサトシで、まさかイテ・フブキが本当に、そんな単純な数字をPINに設定しているとは思いもよらず、驚いて、腰を抜かしてしまったのか、床に座り込んでいた。
しかし、さらに驚いたのはそれからだった。
「お久しぶりですね、イテ・フブキ様。二百五十一年ぶりでしょうか?」
突然、どこからともなく、ナナのものでも、ミズキのものでもない、女性の声が聞こえたのだ。それは本当なら、全部カタカナで表記した方がふさわしそうな、機械的な電子音だった。(作者「さすがに全部カタカナ表記だと読者が読むの大変だろうと思って、普通に表記させていただいております。ご了承ください」)
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!! 幽霊が!! 幽霊がしゃべったぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ミズキは当然、それをお化けの声か何かと勘違いして絶叫し、頭を抱えながら、文字通り右往左往し始めたが、今のサトシたちに、そんなミズキの相手をしているヒマはなかった。




