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09 水着 アンド スイーツ

百合の園に男なんていらない

 髪を撫でる、ちょっぴり涼しげな風。路端に萌える若草や野花。ひらひらと舞う蝶たちは、穏かな日差しにきらきら閃いていた。

 それは、神によって祝福された日々の連続。寒さから目覚めた生命たちは地上を覆い、世界に彩りを与えた。その時、文字通り世界は輝いていた。

 しかし、あの麗しい日々は既に過去の記憶。まるですべてが水泡のような儚い夢であったかのように、世界はがらりと変わってしまった。

「あ゛~つ゛~い゛~」

 居間にて、扇風機の前を陣取るハルちゃんがぐったりしながら言った。

 梅雨が明けてからというもの、暑さは日に日に増すばかり。もう7月になったけれど、それは留まるとこを知らぬかのよう。外に出れば日差しに焼かれ、家に篭れば蒸し風呂状態。窓を開けたところで吹き込むのは湿気を孕んだ熱風ばかり。仕方ないので、わたしたちはこうして家に篭り、扇風機をガンガン回して涼をとっているのだ。え? そんなに暑いなら、どうしてエアコンをつけないのかって? 何を隠そう、我が家にはエアコンが導入されていないのだ。

「あ゛~つ゛~い゛~」

 そして、ハルちゃんはさっきからずぅっとこの調子。あぁ、遂に暑さで頭がやられてしまったか。

 現時刻は12時を回っている。まあ、長時間この暑さの中にいたら、誰でもそうなっちゃうよね。でも、それを言葉にされるのは困る。

「もぅ、暑い暑い言うのやめてよね……。もっと暑くなる」

 一方のわたしは半ば放心状態になりながら、ソファに体を預けてテレビを眺めている。画面に映し出されているのは、どこかの海水浴場。誰も彼もが水着という名の半裸状態になり、ギラギラした太陽の下ではしゃいでいる。まったく、あれのどこが良いのか全然理解できない。あんなの、日差しと砂浜で全身を焼くだけの拷問じゃないか。

 そういえば、前に恵理子ちゃんたちとプールに行ったことを思い出す。そんなに日は経っていないはずなのに、あの出来事が遥か昔のことのよう。あぁ、あの日はあの日で楽しかったなぁ。

「そうだ!!」

 思い出に浸っていると、ハルちゃんが弾かれたように立ち上がった。あまり反応を返す元気のないわたしは、視線だけをハルちゃんへ向ける。

「どうしたの……?」

 訊くと、さっきまでのぐったりした彼女はどこえやら、ハルちゃんは目をキラキラさせながらこちらに振り向く。

「海だよ! 海!」

「……海?」

 ハルちゃんはテレビを指差しながら、わたしに顔を寄せてきた。

「そう! 海だよ! 暑いからって家に篭りっきりじゃ勿体無いよ! だから! 海に行こう!」

 急に大声を出すものだから、部屋の室温が一気に3度くらい上がった気がする。あぁ、暑い暑い。

 わたしはうちわを仰ぎながら小さくため息をついた。

「はぁ……正直外には出たくないなぁ……ただでさえこんなに暑いのに、しかも屋外だなんて」

 すると、ハルちゃんがあからさまにふくれてみせた。

「ぶー、リンちゃんのケチー」

 ちょっとだけ、かわいいと思ってしまう。ハルちゃんは続ける。

「いいよね、リンちゃんは。お友達とプールに行って、もうそれで夏を満喫しちゃったんだ。でも、わたしは全然夏を楽しんでない! 毎日毎日暑いばっかで」

 そして、ハルちゃんが若干の上目遣いでこちらを見る。

「だから、お願い。一緒に海に行こ?」

 ハルちゃんはきっと知っている。そうやってお願いすれば絶対わたしはOKすることを。ハルちゃんの頼みの前に、わたしはいつだって無力であることを。

 そういえば、去年も一昨年も、ハルちゃんとプールに行ったことはあっても海に行ったことは無かったな。そっかぁ、海かぁ。暑い砂浜に、弾ける海水。そして、その中を元気に駆け回る水着姿のハルちゃん。水着姿の……。

「わかった。行こっか、海」

 気が付けば、わたしは首を縦に振っていた。

「やったぁ! 大好きだよ! リンちゃん!」

 そして、ハルちゃんが急に抱きついてきた。押し付けられる弾力と汗の匂いに、わたしは一瞬クラっとしてしまう。

「ちょっ、離れて! 暑いから!」

「あっ、ごめんね。つい、嬉しくて」

 その感触を惜しみながらも、なんとか彼女を引き剥がす。それでもハルちゃんはニコニコ顔のまま。きっと相当海が楽しみなんだ。

「じゃあ、早速行くよ!」

 そして、ハルちゃんはテキパキと外出の準備を始めた。わたしは少し動揺してしまう。

「行くって、まさか今から海行くの!?」

「まさか!」

 ハルちゃんは笑ってこっちを振り向く。

「水着を買いに行くの。もちろん、リンちゃんのもね」




 水着とは、何故こうも魅惑的なのだろうか。

 たったの布切れ一枚。一度それを捲れば瞬く間に秘部が露出してしまう。防御性能皆無なそれは、ほぼ下着同然ではないか。

『下着じゃないから恥ずかしくない』と人は言うかもしれない。実際わたしも、水着になってプールで遊んだときはそれほど恥ずかしくはなかった。だから、着ている人にとっては、ちゃんとした服を着ているのと同じ感覚なんだろう。

 でもそれは、あくまで当人の感覚であり、見ている側は全く違う感情を覚えているはずだ。そう、今のわたしのように。

 家からバスで十数分の所に建つ立派なデパート。その中のとあるお店の一画に設けられた水着コーナーにわたしたちは来ていた。

 周りを赤、黄、青と色鮮やかな水着たちに囲まれる中、わたしは一人、試着室の前で立っていた。唇を引き結び、今か今かとその時を待つ。そして、

「じゃじゃ~ん! どう? 似合う?」

 突然試着室のカーテンが開かれると、現れたのは赤い水着を纏ったハルちゃんだ。彼女は両手を後ろに回し、あごを引いてこちらを真っ直ぐ見つめてくる。それは、わたしに何か期待するときの眼差しと同じだった。

「えっと……」

 心臓をドキドキさせながら、わたしは彼女の水着姿をまじまじと見る。水着はビキニタイプだった。赤い布には白や黄色といった小さな花が咲き乱れ、黒い紐が布全体を縁取っている。さらには胸と腰の両サイドには黒い紐の結び目があった。

 勿論、お腹や二の腕、太ももは晒されたまま。おっぱいもお尻も、この薄い布一枚隔てた先にある。そして、その布も結び目の紐をちょいと引けばすぐにめくれ、大事な所が見えてしまうのか。あぁ! なんてけしからん!

 これ以上見てはいけない。もし見続けたら、きっと鼻血を吹いて倒れてしまう。自分の身の気険を感じたわたしは、斜め右下に視線を移した。

「あぁ、その……良いと思うよ、とっても……」

 言った瞬間、わたしは後悔した。この言い方じゃ、まるでそう無理矢理言わされているみたいじゃないか。そんなことはない。実際ハルちゃんの水着姿はとってもきれいだから、もっといい褒め言葉があったはずなのに。でも、まさか「鼻血が出るくらいかわいいよ」なんて言えないし……。

「もぉ~、どうしてそっぽ向くの? ほら、ちゃんと見て?」

「むにゅ!?」

 すると、突然ハルちゃんがわたしの前に立ち、わたしの顔を両手で挟んで無理矢理自分の方へ向かせてきた。眼前に広がる白く、きめ細かく、そしてやわらかそうな肌。歩くだけでたゆんと揺れるほど大きいおっぱいと、すっとカーブを描くくびれ、そしてその下の魅力的なお尻の横では、黒い紐が解いて欲しそうに小さく揺れていた。

 げ、限界だ!

 わたしは彼女の手を払い、目をぎゅっと瞑って下を向いた。

「に、似合ってる! すっごくかわいいよ! だからこれにしよう! さっ! 早く着替えて!」

 今のわたしに、お店の中で思わず大声を出してしまったことを恥じる余裕はなかった。

 下を向いたまま、彼女の返事を待つ。見なくてもわかる、今ハルちゃんは笑ってる。

「そっかぁ、かわいい、かぁ。うふふ、嬉しい」

 そして、ひたひたと足音がしたかと思うと、シャラシャラとカーテンの閉まる音がした。やっとこの幸せな地獄が終わる。そう思い、わたしはほっと息をついて顔を上げる。

 しばらくして、再びカーテンが開かれる。そして、その先に立つハルちゃんの姿を見て、わたしの心臓はまたもや天を突くかのごとく跳ねた。

「じゃじゃ~ん! こっちの水着はどう? 似合う?」

「――」

 今度のハルちゃんは、黒い水着を纏っていた。布面積はさっきのよりも若干小さく、より際どい。そして、水着の黒がハルちゃんの肌の白さをより際立たせている。更には、黒という大人のイメージを醸す色を子供っぽいハルちゃんが身に纏うことで、何とも言えない倒錯的な感情がわたしの中で芽生えそうだ。

 それはまさに、革命的な姿だった。

「ふんッ!」

 わたしは思い切り試着室のカーテンを閉め、二度と開かぬように抑える。だめだ、あれを世に放ってはいけない。もしそうすれば、いったい何人が萌え死ぬかわかったもんじゃない。少なくともわたしが死ぬ。なんとしてもここで押さえ込まなければ。

「ちょ、ちょっとぉ! 何で閉めるの!? ちゃんと見て感想聞かせてよぉ!」

 ハルちゃんがカーテンの隙間から顔だけ覗かせる。よかった、体は見えない。

「なんでって……もうさっきのにしよ? すっごくかわいかったから」

「だめだよ。まだ試着したい水着がたくさんあるんだから。全部リンちゃんに見てもらって、一番かわいいって言ってくれたやつにするの」

 たくさんって、一体何着持ち込んだんだ!? とにかく無理だ。そんなハルちゃんの水着姿見続けたら、きっとわたし、心臓が破裂する!

 ハルちゃんを見上げ、訴えかけるようにわたしは口を開く。

「どうして? どうしてわたしの意見が欲しいの? ハルちゃんの好きな水着を選べばいいじゃない!」

「……だって」

 その瞬間、ハルちゃんは淡く頬を染めて、わたしに微笑みかけた。その笑顔は、どこか儚げで、それがまた、わたしの鼓動を加速させた。

「だって、大好きな人が、一番かわいいよって言ってくれたものにしたいから」

「……」

 沈黙が降りた。それが数秒だったのか、数分だったのか、わたしには分からなかった。わたしはただ何も言えず、彼女の目を真っ直ぐに見つめ返すことしかできなかった。

 そして、

「だから、お願い。わたしね、鈴に選んで欲しいの」

 大好きな人。それがハルちゃんの中で一体どういう人を意味するのかは分からない。けれど、どの道わたしに選択肢は残されてはいなかった。

「わ、わかった……」

 遂に自分の寿命を削る覚悟を決めたわたしは、小さく答え、そして頷いた。



 店に入って約一時間後、わたしたちは一個の紙袋を下げて店を出た。ハルちゃんが提げるそれには、ハルちゃんとわたしの新しい水着が入っている。ハルちゃんの水着は、初めに試着した赤いビキニタイプに、同じく赤いパレオ。わたしは上下白のフリル付きのビキニタイプだ。因みに、わたしの水着はハルちゃんが選んでくれた。

「ん~ッ、結構時間掛かっちゃったねぇ」

 ハルちゃんが上に伸びをしながら言った。そんな彼女を横目に、わたしは先ほどまでのことを思い出す。

『ねぇねぇ! これなんかリンちゃんに似合うんじゃない!?』

『あッ! これもカワイイ! リンちゃん、着てみてよ!』

『あぁ! どのリンちゃんもカワイイなぁ! どれにしよっかなぁ』

 ハルちゃんの水着を選び終わったと思ったら、気付けばわたしはハルちゃんの着せ替え人形になっていた。次々と持ち込まれる水着を試着しては、ハルちゃんにその姿を晒し、これはこーだあれはどーだと評価を下されていった。そして、最終的に勝ち残ったのが、今ハルちゃんの提げる紙袋に入っている水着というわけだ。

 それにしても、

「ほんとに……疲れたぁ」

 水着を試着しては、ハルちゃんにその姿を見てもらう。しかし、水着を着ているとはいえ見た目的には半裸の状態だ。それをハルちゃんに見られることは、精神的に結構来るものがある。今のわたしは肉体的には勿論、精神的に疲弊しきっていた。あぁ、思い出しただけで恥ずかしい。

 でも、ようやくそれも終わった。わたしは、ハルちゃんの水着姿を見て、さらに自分の水着姿をハルちゃんに見られるという幸せな苦行を乗り越えたのだ。

 今のわたしには、達成感と開放感が満ちていた。さぁ、後は帰ってゆっくりするだけだ。

「さぁ、早いとこ帰ろう」

 そう言ってハルちゃんの手を引こうとした。が、ハルちゃんは動かない。どうしたのかとわたしは振り返った。

「どうしたの? ハルちゃん」

 すると、ハルちゃんは見ている先を指差し、

「ねぇリンちゃん! 折角だからケーキ食べてこ? ケーキ」

 と弾んだ声で言った。彼女の指差す方へ目を向けると、一軒のケーキ屋さんが。入り口の上部はきらびやかに装飾され、店先のショーケースには様々な種類のおいしそうなケーキがきれいに並べられていた。

 ごくり、と唾を飲み込んだ。ちらりと腕時計を見ると、丁度時間は三時を回ったあたりだった。

「うん、賛成」

 頷くと、ハルちゃんはにっこりとわたしに微笑みかけた。



 お洒落なピアノの音色が流れる店内。その奥の二人席にわたしたちは向かい合って座っていた。

 わたしの前にはチョコ生ショートケーキ、ハルちゃんの前にはイチゴのタルト。それぞれ一つずつ選んだ結果だった。う~ん、どちらもおいしそう。

「じゃあ、食べよっか」

 ハルちゃんの言葉に頷き、二人揃っていただきますをした。

 ではいざ、と手に持ったフォークでショートケーキを一口サイズに切り分け、そっと口へと運ぶ。すると、ケーキを口に含んだ瞬間、甘さが口いっぱいに広がった。チョコクリームはとても滑らかで、スポンジはふわふわ。う~ん、これがお店の味と食感かぁ。

 下手な脳内食レポをしつつ、ケーキのおいしさに息を漏らす。あぁ、もしこんなにおいしいケーキとかスイーツとかを家で作れたら、ハルちゃん、きっと喜んでくれるだろうなぁ。そして一口、また一口とケーキを食べ進めていると、

「ねぇ、リンちゃん」

「ん?」

 フォークを咥えたまま顔を上げると、ハルちゃんがゆったりとした笑顔を浮かべていた。そして、彼女のイチゴ色の唇がそっと言葉を紡ぐ。

「ケーキ、一口ずつ交換しない?」

 言われ、わたしははっと気付く。それもそうだ、折角二つの種類のケーキを頼んだんだ。分け合ったほうがいろんな味を楽しめるじゃないか。

「うん、いいよ。折角二種類頼んだんだもんね」

 迷うことなく返事を返す。その言葉に、ハルちゃんはそっと目を細めた。

「じゃあ、わたしから。はい、あ~ん」

「えッ――!?」

 わたしはてっきり、自分でお互いのケーキを切り分けて食べるものだと思っていた。しかし、ハルちゃんはなんと、自分でイチゴのタルトを切り分け、それをフォークに刺してわたしの前に差し出してきたのだ。

 これはつまり、そういうことなのか!? 間接キッスとか、そういう……

「どうしたの? ほぉら、口を開けて?」

「あ、えっと……うぅ……」

 わたしを急かすように、ハルちゃんはフォークをより突き出してくる。わたしは何も言えず、キョロキョロと辺りを見回した。席はまばらに埋まり、若い夫婦や女子高生たち、そしていかにも付き合ってそうな男女たちが座っていた。

 出来ない! 出来るはずがない! こんな恥ずかしいことを公衆の面前でだなんて!

「だ、大丈夫だよ。自分で食べるから……」

 ハルちゃんから目を逸らし、自分でハルちゃんのケーキを切り分けようと腕を伸ばす。すると、

「恥ずかしがらなくても大丈夫よ。他の人たちなんて、わたしたちのこと見てないから」

「そ、そんなの分からないでしょ?」

 ちらりとハルちゃんの顔を窺うと、口を尖がらせてムスっとしていた。

「もしかして、わたしとこういうことするの、イヤ?」

 ピタリと、わたしのフォークを持つ腕が止まる。

 ハルちゃんとの間接キスがイヤだって!? まさか! むしろお願いしたいくらいだ! だけど、わたしの羞恥心がそれを拒んでいる。ここがもし家だったら、あ~んさせてもらう結果になるだろう。けど、ここは外。他人の目に晒される場所。衆人環視の中であ~んするだなんて、一体どんな羞恥プレイなのさ!

 揺れ動く心のまま、もう一度ハルちゃんの顔を覗き込む。ハルちゃんは悲しそうに目を伏せ、そっかぁ、と呟くように漏らしていた。

 あぁ、だめだ。その顔は販反則だよ。そんな悲しそうな顔されたら絶対に断れない。少なくともわたしは。

「わかった! わかったから! そんな顔しないで?」

 言うと、ハルちゃんはゆっくり顔を上げた。その目には光が宿っている。

「じゃ、じゃあ、あ~んさせてくれる?」

「もちろん! させてあげるし、してあげる!」

「やったぁ! じゃあ、はい、あ~ん」

 さっきまでとは打って変わり、ハルちゃんはキラキラした笑顔を浮かべ、タルトの刺さったフォークを差し出してくる。わたしは腹を括り、口を雛鳥のするように開けた。

「あ~ん」

 そして、親鳥ハルちゃんがわたしの口へとタルトを運ぶ。わたしはそれをゆっくりと噛み締める。

 ……甘い。甘い。甘すぎる。

 今のわたしに、タルト本来の甘さやイチゴの酸味などわからなかった。ただ単純に、ハルちゃんと食べさせあうというこの行為そのものがわたしには甘すぎた。

「どう? お味は」

「……とってもおいしい」

「ほんと? 良かったぁ」

 本当においしい。ずっと噛み締めていたいと思うほど。

「じゃあ、次はリンちゃんが食べさせてくれる番だね」

「うん、ちょっと待ってね」

 ハルちゃんに言われ、わたしは自分のチョコケーキを切り分け始めた。一口サイズに切り分けられたそれをフォークに刺し、ハルちゃんの口元へ寄せる。

 そのとき、わたしはふと気付いた。さっきまで恥らっていた自分が、すでにここにはいないということに。今のわたしには、ハルちゃんしか見えていなかった。

「はい、あ~ん」

「あ~ん」

 ハルちゃんは口を開き、躊躇うことなくチョコケーキを頬張る。

「ん~ッ、甘くておいしい」

 そして浮かべるその表情は、見ているだけで甘さを感じるほどに可愛らしかった。

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