08 真夏日ウォーターパーク
小説などを読むと、作者についていろんなことが分かると思います。拘りや性癖はもちろん、これまでの半生で培われた信条なども。無料で公開するなら尚更なのではないでしょうか。
「じゃじゃ~ん! 見てこれ! 見てこれ!」
朝のホームルームが終わるなり、恵理子ちゃんがわたしの元にやってきて、何の前触れもなく眼前に何やら紙切れを突き出してきた。おぉ、と突然のことに驚き首を後ろに引きつつ、見ればその紙切れは全部で三枚。青を基調としており、なにやら鮮やかな文字が書かれている。
「……なにこれ?」
半ば反射的に訊くと、恵理子ちゃんはその紙切れの束を高く上げ、自慢げな表情で口を開く。
「ふふん、聞いて驚け! これは、隣町のウォーターパークの無料入場券なのだ!」
「へぇ~、無料」
「そうそう、すごいでしょ!? デパートの福引で当てたんだ!」
福引で、か。それにしても、三枚とはまた微妙な数だな。と、そんなことはどうでもいい。恵理子ちゃんがわたしの前に現れてそれを見せてきたってことは、
「ということで、今週末とかどう? もし空いてるんだったら、一緒に行こうよ!」
やっぱりそういうお誘いだったか。
まあ、わたしは別にプールとか嫌いなわけじゃない。人並みには泳げるし、最近は日増しに暑くなってるから、プールに行くのもありだ。けど、正直気乗りしないな。
「う~ん、プールかぁ……週末は空いてるといえば空いてるけど……」
そんな考えが頭の中を巡り、答えあぐねていると、恵理子ちゃんが半目を開き、ニタニタした表情をわたしに向ける。
「もしかして、人前で水着になるのが恥ずかしい……? 胸が小さいの気にしてるの……?」
「そ、そんなことないよッ!」
しまった! そう思ったときにはもう遅かった。ついつい否定してしまったわたしを見て、恵理子ちゃんがニンマリとしていた。その彼女の顔を見てわたしは悟った。このプールのお誘い、端からわたしに逃れる術はないのだと。
「じゃあ一緒に行けるよね。はい、どうぞ。無くさないでね?」
そして彼女は三枚の内の一枚をわたしに差し出す。
「本当に貰っちゃっていいの……?」
それを受け取りつつ訊くと、彼女はにこやかな表情で、
「勿論だよ。鈴ちゃんにはいろいろとお世話になったし。感謝の意味を込めて、ね?」
と言った。
そんなことを言われては、ますます断るわけにはいかないじゃない。まったく、恵理子ちゃんには敵わないな。
ところで、チケットは全部で三枚だ。一枚は恵理子ちゃんで、一枚はわたし。じゃあ、残りの一枚は一体誰に?
「ところでさ、残り一枚のチケットは誰に渡すの?」
本当は答えが分かっていたのに、気付けば恵理子ちゃんに訊いていた。彼女はまたにこにこ顔で、真っ直ぐにこっちを見て、
「勿論、岸本だよ」
と答えた。
***
「う~ん……う~ん……」
今日は週末。恵理子ちゃんたちと隣町のプールに遊びに行く日だ。
万が一忘れ物があってはいけない。今は前日に用意した荷物の、何度目か分からない確認をしている最中だ。
「う~ん……う~ん……」
でも、正直すごく行きたいってわけじゃない。友達と遊ぶんだ。もちろん、楽しみなところもある。でも、正直なところ……
「初めての水着姿は、ハルちゃんに見て欲しかったなぁ……」
今シーズン初の水着。出来ることなら、初めては大好きなハルちゃんに見せたかった。それだけが心残り。まあ、人が聞けばそんなの些細な悩みだって笑うかも。けれど、そんな悩みさえ振り払えないわたしは、もやもやした気持ちを抱えたまま荷物の確認を進める。水着にタオル、日焼け止め、お金、水筒、等々。そして一番大事な入場無料チケット。よし、全部ある。
「おはよぉ~」
荷物の確認が終わったところで、居間にハルちゃんがやってきた。寝起きなようで 目元を擦っており、髪は所々はねていた。
「おはよう、ハルちゃん。朝ごはん、すぐに用意するからね」
わたしはさっさと台所へ引っ込み、あらかじめ作っておいたお味噌汁と目玉焼きを温めなおす。温まるのを待っていると、居間のほうからハルちゃんの声が聞こえた。
「リンちゃ~ん、もしかして今日、どこかお出かけするの~?」
その質問に、わたしはずっこけそうになった。
居間へ顔を覗かせ、ハルちゃんの寝ぼけた顔を半目でにらむ。
「もぉ~、一昨日も昨日も話したでしょ? プールに行くんだって」
「プール……?」
「そう、学校の友達と一緒に」
「あぁ、そっかぁ……」
ハルちゃんのしゅんとした声が耳に届いた。きっとわたしだけプールに遊びに行くのが寂しいのかもしれない。最近はめっきりと暑くなったから、誰だってプールに行きたいよね。
ごめんねハルちゃん、この埋め合わせはきっとするから。心の中で謝りながら、温め終わった朝ごはんをお盆に載せて居間へ運ぶ。ハルちゃんはすでにテーブルについていた。
「はい、お待たせ」
「ありがとぉ。いただきまぁす」
配膳すると、ハルちゃんは初めにお味噌汁を啜り始めた。しかし、まだ熱いのか、ちびちびと口をつけている。あぁ、可愛い。
そんな彼女の可愛らしさに見惚れながらちらりと時計を見ると、そろそろ出発しなければならない時間だった。
わたしは用意した荷物を掴み、玄関へ向かう。
「じゃあ、わたし行くね。お昼ごはんは、冷蔵庫に作り置きしておいたから、温めて食べてね?」
「うん、わかった~」
ハルちゃんの返事を聞き届け、わたしは居間を後にする。
玄関の扉の前で、わたしはもう一度振り返り、
「行ってきま~す!」
とハルちゃんに向かって言う。すると、ワンテンポ遅れて、
「行ってらっしゃ~い」
の声が聞こえた。
***
鬱陶しいかった梅雨が明け、カレンダー上では六月の下旬。雨と湿気に悩まされる日々が終わったかと思いきや、今度は日増しに暑さが厳しくなる毎日。
こんな日に外に出るなんてどうかしてるよ。心の中でそう叫ぶわたしは、額に汗を滲ませながら無言でバス停へ向かう。その間も、六月らしからぬ日差しがわたしの体を焼いた。
あぁ、暑い。いつしかその言葉だけが脳内にこだまするようになっていた。そんな状態になりながら、わたしはやっとのことでバス停に辿り着いた。そこには、わたしと同じようにバスを待つ人が二人ほど並んでいた。
その人たちの後ろに並んで程なくしてバスがやってきた。彼らに続いてバスへ乗り込んだその瞬間、車内の冷房がわたしを優しく抱きとめてくれた。あぁ、これが生き返るって感覚なんだ。座席に腰を落ち着かせ、水筒の氷水をごくごく飲みながら一人そんなことを考えていた。
バスに揺られることおよそ30分、目的地の最寄のバス停に到着した。そこから更に十分ほど歩き、わたしはようやく集合場所であるウォーターパーク前に着いた。
腕時計を確認すると集合時間には少し早かったので、さて、どこでみんなを待とうかと辺りをキョロキョロしていると「お~い、鈴ちゃ~ん」とわたしを呼ぶ声がした。声の方向へ振り向けば、大きなイルカの像の影の中で恵理子ちゃんと岸本くんが二人して手を振っていた。わたしは二人の元へ駆け足になった。
「おはよう、二人とも」
「おはよう、鈴ちゃん」
「おはよう、園田さん」
「さ、早速だけど皆集まったことだし行こう行こう! こんな暑いとこ一秒だっていたくない」
挨拶もそこそこに、恵理子ちゃんの先導によりわたしたちはそそくさとウォーターパークの門をくぐっていった。
受付を済ませ、更衣室に辿り着いたわたしたちは、早速水着に着替えていく。当然だけど、わたしたちの他にもお客はいるようで、所々のロッカーは埋まっていたり、今まさに着替えている最中の人も何人かいた。
「いやぁ~、それにしても、絶好のプール日和だね! 青い空、眩しい日差し!」
彼女の言う通り、その天気が人々を大胆にさせるのだろう。わたしの隣で恵理子ちゃんが清々しいほどの脱ぎっぷりを見せている。その隣で、わたしはモソモソと着替えている。同性で友達とはいえ、人に肌を見られるのは結構恥ずかしい。そんなわたしを見かねてか、下着姿の恵理子ちゃんが急にわたしに迫り、強引に服を脱がせようとしてきた。
「もぉ~何恥ずかしがってんの? ここには女しかいないんだから、ほら脱いだ脱いだ!」
「ちょッ、やめッ」
必死に抵抗するも彼女のほうが一枚上手だったようで、するすると脱がされてしまう。そして顕になる格差。ハルちゃんには遠く及ばないが、それでも彼女の胸は十分過ぎる存在感を放っていた。わたしは自分のと彼女のを見比べ、本当にわたしたちは同学年なのかと疑いたくなった。
お互いが下着姿になろうとも、恵理子ちゃんは顔色一つ変ず堂々としている。くッ、これが持つ者の余裕というものか!
そして、恵理子ちゃんは下着すらも平気な顔で脱ぎ、水着へ着替えていく。
「ほら、早くしないと岸本待たせちゃうよ」
「……はい」
そう言われ、わたしは敗北感を目一杯背負いながら水着に着替えていく。
恵理子ちゃんの水着は赤のビキニ。余計な装飾はついていないシンプルなものだけど、左胸に咲いた一輪の白い花柄がとても印象的だ。
一方のわたしは橙色のビキニ。胸元と腰周りにフリルのついたやつだ。去年もこれを着てたけど、全くキツさを感じない。それはつまり、わたしの体は全く全然成長していないということ。自分の体を見下ろすわたしを虚無感が襲った。
「着替え終わった? じゃあ、いこっか」
「あ、うん」
そんなことはお構いなしに、恵理子ちゃんがわたしの手を引いていく。わたしはただ引かれるままに、彼女の後に続いた。
パーク内は週末ということもあってか、多くの人たちで賑わっていた。親子連れ、カップル、その他。皆笑顔で水と戯れていた。
「あ、岸本いた! お~い!」
人の波の中に岸本くんを見つけるなり、恵理子ちゃんが呼びながら手を振った。その声に気付いたようで、彼はこちらに振り返った。
「お待たせ~岸本」
「お、お待たせ……」
「お、おう」
やっぱ恥ずかしい。赤の他人ならばまだしも、クラスメイト、しかも男子に水着姿を見られるのはどうもこうも慣れる気がしない。わたしは自分の露になったお腹を腕で隠しつつ、恵理子ちゃんの斜め後ろに立っていた。
「ほら、鈴ちゃん、そんな子供みたいに隠れてないで」
「あっ……」
しかし、わたしの思いを知ってか知らずか、恵理子ちゃんは無慈悲にもわたしの背中を押して自分の横に並ばせようとした。そして、無防備なわたしの肌が岸本くんの目の前に晒されてしまう。
若干の諦めを感じていると、恵理子ちゃんがわたしの肩を掴み、姿勢をかがめた。まるで、胸元を強調するように。
「どう? 岸本」
「どうって……?」
恵理子ちゃんの意図を汲み取れず、困惑する岸本くん。そんな彼に向かって、恵理子ちゃんは少し大きめのため息をついた。
「はぁ~、もぉ、岸本は鈍いなぁ。女子の水着姿を見たら、まず初めに言うことがあるでしょ?」
そう言われ、岸本くんは察したように一度大きく頷いた。
「あ、あぁ! そうだな、すごい似合ってるよ、二人とも」
「あ、あはは、ありがと」
苦笑いを浮かべるわたしと、やれやれといった表情を浮かべる恵理子ちゃん。彼の言葉は、彼女からしたら不合格のようだった。
「ちょっと岸本、耳貸して」
「あ、あぁ」
そして、恵理子ちゃんはわたしから離れ、何やら岸本くんに耳打ちをし始めた。何を言っているのか、その声はここまでは届かない。
一体何を言っているんだろう。小首を傾げながら二人の様子を見守っていると、恵理子ちゃんはやがて岸本くんの耳元から顔を離し、今度はわたしの背後に回って背中を押した。少しよろめきながら、わたしは岸本くんと向かい合う形になる。
「ほら、鈴ちゃんの水着姿はどう? 岸本は初めてでしょ? 鈴ちゃんの水着姿!」
恵理子ちゃんも見るの初めてでしょ、と心の中でツッコミを入れる。しかし、実際にそれを口にする余裕はなく、わたしは若干俯いたまま動けないでいた。そんな状態のわたしに、岸本くんは言った。
「えと、すごく可愛いよ。その……一瞬ドキッってなった」
「――ッ」
そんな台詞、ハルちゃんにだって言われたことない! あぁ、鏡を見なくても分かる。今のわたし、すっごく顔が赤いと思う。
もう既に恥ずかしさの限度を超え、居たたまれなくなったわたしは二人の手を引いて歩き出した。
「さ、さぁ! 折角のプールだよ! 早く遊ぼう遊ぼう!」
無駄に明るく元気な声なのは、この恥ずかしさを誤魔化すためだ。
このウォーターパークには室内エリアと屋外エリアの二つに分かれている。室内エリアには25メートルプールが数レーンと幼児向けの浅いプール、サウナなどがあり、屋外エリアには波の立つプールや流れるプール、ウォータースライダーなどが揃っている。
知らない人たちが集まって、みんな笑顔ではしゃいでる。なんだか異様な景色にも思えるけど、みんな楽しそうだ。波の立つプールなんて、波に揺られてみんな揉みくちゃにされている。みんな笑ってるけど、正直わたしはあの中に入りたくはないな。
この手のプールだと、わたしは流れるプールが一番好きだ。流れに逆らわず、ただのんびりと流れるままに流れていく。それがとても平和的で好きだ。一方で恵理子ちゃんはウォータースライダーが好きなようで、わたしが水面を漂っている間に何回も何回もわたしの上を滑っていたようだった。岸本くんはわたしと同じで流れるプールが好きなようで、わたしの隣で一緒になって流れてた。
そんなこんなで、時には一人で、時には三人一緒になって遊んだ後、今はプールサイドでぼんやりプールを眺めながらのんびりとくつろいでいる。背後の人工の小さな滝が涼しい音を立てている。
わたしの隣には同じように岸本くんがのんびりくつろいでいた。恵理子ちゃんは近くにはいない。きっとまたウォータースライダーに行ってることだろう。
ただ何もせず、何も言わず、岸本くんと辺りを傍観するだけ。もう慣れてしまったのか、こうして水着姿でいることへの恥ずかしさは感じなくなっていた。
「南には感謝しないとな」
隣の岸本くんがぽつりと呟いた。
「そうだね、またあとでお礼言わなくちゃ」
わたしも、ぽつりと呟くように言った。
何気ない日常の合間に挿し込まれた非日常。プールに水着、そして岸本くん。
そういえば、最近はよく岸本くんと一緒にいる気がする。あの日、保健室に運ばれたあの日からちょくちょく話すようになって、この前は一緒に勉強会を開いたし、今ではこうしてプールに来ている。こうして思い返してみれば、自分でもびっくりな展開だ。まあ、その大半には恵理子ちゃんが中心に立っていたけれど。
「あっ、恵理子ちゃんまたウォータースライダーやってる」
「ほんとだ。あいつも飽きないよなぁ」
「ふふ、そうだね。でも、とっても楽しそう」
でも、こういうのも意外と悪くない。気の許せる男友達ってのも、案外落ち着くものだ。
***
その後、パーク内のプールをあらかた遊びつくしてしまったわたしたちは、日が傾き始めた頃にパークを後にした。
二人とは乗るバスが違うのでバス停で別れ、後は一人で今日の出来事を思い返しながら帰路に着いた。
そして暗くなる頃に家に着き、ご飯やもろもろを済ませ、今はお風呂の時間。今日はたっくさん水を浴びたのに今度はお湯を被るなんて、少し不思議な気分。そんなことを考えながらシャワーを浴びていた。その最中だった。
「お邪魔しま~す」
「えぇ!?」
突然戸が開き、すっぽんぽんのハルちゃんが何のためらいもなく入って来た。思わず振り返ると彼女の裸体を直視してしまい、慌てて正面を見ると今度は鏡に映ったハルちゃんの裸を見てしまった。
ハルちゃんを直視しないように斜め下を見るも、一糸纏わぬ姿のハルちゃんが背後に立っていると思うだけでドキドキが止まらない。だめだ、このままではわたしの健康に影響が出かねない。なんとか風呂場から追い払わないと。
「ちょ、ちょっと! なんで入って来たの!?」
「え~、もしかしてダメだった?」
「ダ、ダメに決まってるでしょ!?」
「どうして?」
「どうしてって……」
だめだ! 今のハルちゃんの前ではわたしはあまりにも無力だ。正直な気持ちを話すわけにもいかず、かといって上手いいい訳も見つけられないわたしは、自分のあまりの無力さに心の中で涙した。
そんなわたしに構わず、ハルちゃんがボディタオルと石鹸を手に取った。
「まだ体洗ってないよね? 背中流してあげる。さ、座って」
「は、はい……」
言われるままにバスチェアに腰掛け、そして目を瞑る。もし目を開いてしまったら、またハルちゃんの裸体を、あんなトコやこんなトコを見てしまうから。あんな刺激に強いものをこれ以上見てしまったら、わたしはどうなってしまうかわからない。
暗闇の中、しゃかしゃかと泡立てる音だけが聞こえる。そのままじっとしていると、背中にゆっくりとタオルが押し当てられるのが分かった。やがてそれは上下にゆっくりと動き始め、優しく、かつ丁寧にわたしの背中を洗っていく。それに従い、だんだんと恥ずかしさが薄れていく。あぁ、とっても気持ち良い。まるでハルちゃんに包み込まれているかのよう。ずっとこのままでもいいとさえ思える。目は開けられないけど。
そう思った直後、背中に急に重みとやわらかすべすべな感触を覚えた。何事かと目を開くと、目の前の鏡に、背後からハルちゃんに抱きつかれている自分の姿が映っていた。ハルちゃんが鏡越しに、わたしの目を真っ直ぐに見ていた。
心臓が信じられない早さで脈打っている。
「今日ね、一日中もやもやしてたの……」
声を出せなかったわたしは、目をぱちくりとさせるばかり。
「リンちゃんがお友達と遊びに行くって……しかもプールだって……」
ハルちゃんが悲しげに目を伏せた。
「他の人がリンちゃんの水着姿を見ちゃうんだって、ずっともやもやしてた」
ハルちゃん、わたしは……
「でも……」
彼女は瞳を閉じ、わたしの首元に唇を寄せた。
「本当の鈴を見られるのは、わたしだけ……そうでしょ?」
彼女の吐息がわたしの首筋を撫で上げる。ゾクゾクした感覚が背筋を這い上がる。わたしは何も言えずに口をぱくぱくさせていた。
どれ程思考停止のままでいただろう。いきなりシャワーが湯を吐き、わたしの体を洗い流していく。はっと振り返れば、ハルちゃんが悪戯っぽく微笑みながら舌をちろっと出していた。
「なぁ~んてね。じゃあ、はい、交代」
そして、ハルちゃんはわたしにあわあわのボディタオルを手渡した。




