第三章
第三章
「紀本亮平。はさっき言った通り。伯父さんが道場やってるだけでなく、お父さんが刀剣研磨師っていって、刀を研ぐ人なんだね。なんていうか……剣に染まってる人だね。しかも一瞬見ただけだったけど、無表情で目が怖かった、この人!
塚原隼斗。県立一宮の一年。去年の暮れに柔道の県大会で優勝している。昔のデータはないから、最近実力をつけてきた選手なんじゃないかな。なんか画像で見る限り、茶髪でチャラい感じだね。
静守曜子。星心女子学園一年。町の古い道場で、幼いころからずっと弓道をやってるぽくて、大会でも数々の賞をとってる。現在二段で、部活ではエースだね。てかすんごい美人! この黒髪ロングの艶とか、羨ましすぎる……。
湊陽壱。翠陵高校一年。帰宅部。……小学校のころに全国模試に国語で名前が一回載ったことを除いて、特に実績はなし、と」
椅子に座りながらスマホをいじっていた日枝薫は、くすくすと笑って言った。
「ほっといてくれよ」
俺はそんな彼女を横目で見ながら、扉の向こう側のようすを小窓から確認する。
「西野由香理。宮上学園高等学校一年。……この子も何か実績があるわけじゃないね。……あ、読書コンクールで何回か賞をとってるか」
「いまいち選ばれた基準がわからないな」
廊下には人の気配はなく、俺は少し扉から離れて日枝薫の方に近づいた。
「国原創。……この人、一番不思議。ネット上に全く情報が落ちてないね」
「へえ。おれ以上に取柄のない奴、いるんだな」
俺は日枝薫の手元を見ながらぼそっと呟いた。
しかし彼女の反応は冷たい。眼を細めたままスマホの画面を素早く操作し、抑揚のない声で答える。
「ネット上にデータがない学生なんているのかな。どこの学校かぐらいは絶対分かると思ったんだけど。関連画像も全くないね」
彼女は少し眉をひそめると、不満そうにスマホの画面を消し、立ち上がった。
「ま、いいか! そろそろ行こ!」
そういいながら扉の方に近づいてくる日枝薫の表情は、また明るく無邪気な様子に戻っていた。
「行こうって、どこへ」
思わずそう返してしまった俺に対し、日枝薫はわざとらしく溜息をつくと、再びスマホの画面を開いた。
「ん、それは?」
そこに出ていたのは何かの見取り図。状況から察するに、それは……。
「ひひ。ここの学校の地図だよ~」
「なんでそんな物を!」
思わず身を乗り出す俺をみてニヤリと笑みを浮かべると、彼女はいくつかページをめくる。するとそこには別の階の見取り図が現れる。
「もちろん、自分で調べながら作ったんだよ」
「すごいな……」
あまりパソコンなんかに詳しくない俺は、素直に感嘆するばかりだ。
科学技術の発展? 恐るべしである。
「でもまだ全然未完成なんだよね。ってことで!」
彼女はびしっと指を立てると、やや張った声で言った。
「まずはこの学校の地図を作るところから始めましょう! 情報を制するものは世界を制す! だよ!」
「おお。なるほど」
あまりに温度差のある俺に対しやや冷たい目を向けるも、彼女は意気揚々と歩き始めた。そして、ぴたっと俺の後ろに立つ。
「じゃあ、お願いね」
「へ?」
「先導して安全を確保するのがキミの仕事!」
まあ……そういうもんかもな。
たしかに軍師は後方で指揮をとるものだ。近代戦争でも情報部は優先的に守らないと行けないし、前線で戦うのは特に取柄もない奴の役目ですよね。
俺は心の中でそんなことを考えながら、扉の向こうを覗き込む。
そして誰もいないことを確認すると、静かにドアを開けた。
どうやらこの階は特殊教室ばかりのようで、学生が授業を受ける校舎とはまた別の建物の様だ。
「ここは管理棟。三階建てで、一階が職員室と保健室、事務室。そして二階が今いる階。三階はまだ未踏破なので……さ、いきましょ!」
そういうと、日枝薫は少し背伸びをする様にして、俺の肩をぽんと叩いた。
この子とチームを組んだのは実際かなりラッキーだったかもしれない。校舎内でランダムに戦うと考えると、建物の構造を把握しておくことはかなり大事なことだろう。
俺は慎重に歩を進めると、壁にぴたりと身体を寄せて階段の方を警戒する。
そして少し腰を落としながら向こうを窺って、誰もいないことを確認してから、さっと曲がる。
「よし。誰もいないな」
日枝薫に対して、上階に進むことを促す意味も込めて、小さく呟く俺。
そんな俺の動きを見ながら、日枝薫はゆっくりとニコニコしながら後ろを付いてくる。
「キミが居てくれると、かなり頼もしいね」
そりゃ、誰かと遭遇したら、まずやられるの俺だしな。
そんなことを思いはしたが口には出さず、苦笑いだけを浮かべておいた。
しかしチームって、一人に比べるとどうしても、音、を出してしまうよな。
これって奇襲戦だと敵に居場所を教えてしまって、すごく不利な気がする……。
三階に上った俺たちは、まず左右の部屋の配置を確認し、それから日枝薫の指示で先に進む。
三階にあるのは音楽室。その隣に美術室。そして多目的教室とかかれた広い教室。なのだが……。
「ここ、変わってるね」
多目的教室の扉を最初に開けた俺たちの前にあったのは、椅子だけが壁際に積まれた、普通の教室の倍ぐらいのサイズの空間。そして部屋の中央にある……『岩』。
「明らかにこれだけ浮いてるもんなあ」
俺は一見なんの変哲もない自然石を、ぺたぺたと触りながら言う。両手を回せばギリギリ届くぐらいで、それほど大きい物ではないが、少し押したぐらいでは動く様子もない。
「……おそらくはこのゲームの開催者側の何かなんだろうけど、今の段階ではわかりっこないわね」
日枝薫は岩を軽く叩いてみたり、周囲を回って画像を撮ったりしながら呟く。
「まあ、それもそうか」
俺もこの岩の意味を色々と考えてはみたが、これといった考えも浮かばず、ぶらぶらと部屋の中をうろついていた。
「あ」
ふと窓の外に目をやって、俺はあることに気付いた。
「どうかした?」
俺が突然声を発したので、当然日枝薫は尋ねてくる。
まだ確証があったわけではなかったので少しためらいはしたが、俺はたった今思いついたことを口にした。
「ここ、神社の裏山だ」
「うそ!」
あまりに突拍子もない俺の言葉に、日枝薫は目を丸くして言う。
だが、俺は漠然と景色を眺めながらも徐々に確信を強めていた。
俺がここにくるきっかけになった須上神社は、『石凪山』というそれほど高くない山の麓に建てられていて……俺はその山に子供のころからよく登っていた。
「いや本当。山頂から見おろす町の景色、ここと同じだ」
「ほんとに~~?」
日枝薫はローファーをこつこつと鳴らしながら俺の横に並び、窓の外に向かって目を細めた。そしておもむろにスマホでその写真を撮る。
「神社の裏山には学校なんてもちろんなかったけど、でもこの景色には見覚えがある」
素早い動きでスマホの画面を操作している日枝薫を横目に、俺は窓にぴったりとくっついた。
「……確かに、GPSの位置情報的には同じ座標みたいね」
「そんなことまでわかるのか!」
俺は日枝薫の情報処理能力に驚きつつも、そのコメントの内容自体には、やはりという印象を受けた。
「こうやって色々分かってくると、改めてこのゲームが今現実に起こってることなんだって、再確認させられるね」
日枝薫は窓から入る光に眼鏡を反射させつつ、微かに笑みを浮かべた。
「ん?」
彼女の方から視線を窓の方に戻した俺は、再びあるものに気付く。
「今度は何?」
日枝薫は再び近づいて来て、俺の目線を追う。
俺が見ていたのは、見下ろす町の景色よりずっと手前。角度的にはほとんど真下に見える、体育館の渡り廊下だ。
「あの茶髪。塚原ってやつかな」
そこにはさっき静守曜子をかばった俺を倒した男子生徒、塚原隼斗の歩く姿が見えていた。
「ホントだ。……画像で見る感じ、間違いないね」
「なんとかしてうまく倒せないだろうか」
やや興奮する俺の横で、日枝薫は冷静に言う。
「遠すぎるね。今から下に降りても途中で見失ってしまうなら意味ない。勝手に動きを予想するのは、ランダムにエンカウントするより危険だと思うよ」
「それもそうか……」
「けど、この状況、無意味でもないかも」
そういうと、日枝薫はおもむろに窓を開け、顔を外に出した。そして。
「おーーーい! ここだよーー!」
「え、ちょ! 何を!」
突然大声で叫び始めた日枝薫を見て、俺は思わず彼女を部屋の中に引きずり込む。
「何ー? もう~。急に引っ張らないでよ~」
「いやいやいや。せっかくばれてないのに、なんでわざわざ居場所を教える様な事を!」
「ああ、そんなことか。まあ見ててよ」
そう言うと。日枝薫は俺の制止を聞くこともなく再び窓の外に身を乗り出し、塚原隼斗に向かって手を振り始めた。
呆然とその様子を見守っていた俺は、しばらくしてようやくこちらに振り向いた彼女をじっと見据え、次の言葉を待つ。
俺のそんな態度をにやにやと受け流して、彼女は意地悪そうな顔を作って言った。
「ひっひっひ。こうすれば相手の動きを操作することが出来るでしょ?」
「へ?」
「ほらさ、ただ上から目で追ってても、何処か建物に入ってしまえばその後の動きは予想不能でしょ。けどこうやって一つ情報を与えてあげれば、彼は何らかの方法でこちらにアプローチしようとするよね?」
そう話す彼女はすごく楽しそうで、口元には屈託のない笑みを浮かべている。
「もしかしたら隣の湊くんも見えてたかもしれないから、直接登ってはこないかもしれない。だとすると、下で待ち伏せするか、遠い方の階段から様子を窺いながら上ってくるか……。どちらにせよ、予想を絞りやすくなるよね」
無邪気にそう笑う日枝薫。その可愛らしい笑顔と戦略的思考のギャップに、俺はおもわず言葉に詰まる。
「私、こういう戦術ゲーム、大好きなんだよね」
そう言って意地悪そうにニヤニヤする彼女の顔には、特徴的な赤い眼鏡フレームがきらりと光っている。
「どちらにしろこの部屋にずっといるのはまずいよな。こっちもある程度準備しないと」
俺がそう言って、窓から離れようとした瞬間だった。
「声が……大きかったから」
不意に背後から聞いたことのない少女の声がし、俺はまるで心臓をぎゅっと握られたかのように、固まった。
しかしそれは恐怖や警戒心ではなく、動揺だ。
そしてゆっくりと振り返り、そこから徐々に鼓動が速くなる。
「あちゃー。失敗したなあ」
横で日枝薫が、刑事に銃を突きつけられた犯人のように、両手を上げる。
俺の前。正確には多目的ルームの扉の所に立っていたのは、いつもバス停で見ていたあの少女。静守曜子だった。
彼女の手には引き絞られた弓が握られていて、その矢の先はこちらへ向けられている。
何も言葉を発さない俺に対し、眉をよせて堅い表情を作っていた彼女だったが、やがてふと力を緩め、矢の先を下におろした。
「あ。えーっと……」
「おやー? ラッキー」
ようやく声を出した俺と日枝薫に対し、静守曜子はまだ少し強張った表情のまま言った。
「……ここではあんなことは起こらないと思ってた」
「あんなこと?」
静守曜子の言葉に、日枝薫が素早く反応し、俺の方に顔を向けてくる。
「あー……。さっき、やられそうになってるのを助けた」
事の経過を知りたがる日枝薫に、俺はやや躊躇いつつも説明を行う。
「へ? 助けた? それで?」
「代わりに俺がやられたっていう」
「ぷぷっ! やっぱりキミ、そういう人なんだね!」
俺の言葉に対し、日枝薫は口元を押さえて含み笑いをする。
その様子をみていた静守曜子は、ほんの少しだけ表情を緩めて、再び言った。
「でも、もうあんな事、しない方がいいと思う」
「え?」
思わず静守曜子の目を見つめる俺。
物音に反応するネコのように、日枝薫もぴくっと顔を上げる。
「だって、貴方にだって叶えたい願いがあるのでしょう? けれど、最終的に選ばれるのは一人だけ。だったら……」
「もしかして、わざわざお礼と忠告を言いに来たってこと?」
突然、日枝薫が意地悪そうな笑顔を作り、言った。
「え? いや、そんなつもりでは……」
そう言いながら、少し目を泳がせる静守曜子。
「でも結果的にはそうなってるよね~」
静守曜子の反応に、日枝薫はニヤニヤしながら目を細めている。
ずっと緊張状態で何も言えなくなっていた俺は、そこでようやく言葉を発した。
「どう……いたしまして?」
最後を疑問形にしてしまうところに、ダサさが垣間見える。
俺がそのセリフを言ってしまったので、彼女は少し目を伏せながらも、小さく呟くしかない。
「う……ありがとう……」
「何なのキミたち。もしかして元々知り合い?」
相変わらずニヤニヤしながら、日枝薫が俺と静守曜子を交互に見比べる。
しかし、静守曜子はすぐに真顔になって、言った。
「いえ。初対面……じゃなかった。まだ二回目ね」
うぐ。毎朝見かけて覚えてるのは俺の方だけで、向こうはやっぱり覚えていないのか。
だがそんなことは想定済みだ。俺はあえて何も言わず、彼女の意見を尊重することにした。
「まあ、そんな感じだな……」
きっぱりと言い切る彼女と、やや消沈して呟く俺。
双方を見比べている日枝薫は、それをどう感じたのか。
だが鋭敏な頭脳をもった彼女のことである。なんとなくお互いの思考や立場を見抜いているのではないだろうか。しばし上目づかいで考え込むようなしぐさをとると、やがてぽんっと手を打ち、人差し指を立てた。
そして言い放つ。
「じゃ、曜子ちゃんも一緒に行こっか」
『え!?』
日枝薫の言葉に同時に声が出る、俺と静守曜子。
「だって、チームは数が多い方がいいでしょ?」
屈託のない笑顔を浮かべる日枝薫。
「まあ、そりゃそうだが……」
「弱い者同士が協力し、強い人を倒す。合理的でしょ」
日枝薫の言葉に、静守曜子は眉をひそめる。
「急にそんな事を言われても、私は……」
その当然の反応に、俺は思わずごくりと唾を飲む。
心の中で何かを期待してはいるが、かといってそれを強く推すこともできないという、複雑な感情だ。
「曜子ちゃんにだって、何か大事な願い事があるんじゃないの? だったら勝つために協力し合うのは悪くないんじゃない?」
「それは、そうなのかもしれないけど……。でも皆にもそれはあって、そうすると最後には仲間同士で戦う事に……」
「いいじゃない。強い人をみんなで倒して、最後はチーム内で正々堂々とルールを決めて戦う。その方が優勝できる確率は高くなると思うよ?」
理に叶っている。と、横で聞いていて思う。
しかも、あのにこやかな雰囲気と、無邪気な笑顔でそれを説明するから、つい受け入れてしまう。
なんとなくだが、俺には日枝薫がこの戦いに選ばれた理由が分かってきた気がする。
「信じて、いいのかな」
静守曜子はひとり言のように呟いた。
その言葉を聞いて、俺の心臓は大きく脈打つ。
改めて考えてみれば、彼女の武器は弓矢。遠くの敵を倒すにはよいが、近くの敵とは戦えない。そのためには仲間との信頼関係は重要だ。
己の心を律し、遠くの的を射る。弓道という道、弓矢という道具は、彼女の心のありようを、そのまま表しているかのようだった。
「だーいじょうぶ! 湊くんの性格は曜子ちゃんもみたでしょ? そして私と湊くんが今のところ何とかなってることは……心配いらないと思わない?」
眉をひそめて目を伏せていた静守曜子に対し、日枝薫はにこやかにそう問いかける。
それを聞いて顔を上げた彼女だが、その表情はまだ不安げである。
そんな彼女に対し、俺は思わず言った。
「俺なら、信じてくれていいけど」
「えー? 私だって大丈夫だよ!」
日枝薫が不満そうに言うのを尻目に、俺は数歩、前に出た。
一瞬弓矢を持った手がぴくっと動くも、静守曜子は意を決したように体勢を変えない。
――今、行かないと。
自らを勇気づけると、俺はそのまま彼女の前まで進んだ。
これだけ近くで静守曜子の顔を見たのは始めてだ。こんな形でこの子と出会うことになるとは。
頭の中ではぐるぐると色んなセリフが回っていたが、その中から俺が選んだ言葉は……。
「本当は三回目だけどね。会ったの」
「え? あ……もしかして、最初に私が射った男の子って……」
「だな。ここにきていきなりだったから、かなり驚いた」
「あの時は、そうするしかないんだと思って……」
「ほらほら! そこで話し込む前にやることがあるよ!」
俺と静守曜子がぽつぽつと話をしていると、後ろから近づいてきた日枝薫が、笑いながら言った。そして、俺より先に右手を彼女に向かって差し出す。
「よろしくね、曜子ちゃん。私、日枝 薫。カオルって呼び捨てでいいよ! で、彼がミナト、湊ヨーイチくん」
「あ……うん。その、なんで日枝さんは私の名前を……?」
静守曜子は恐る恐る右手をのばしながら、控えめに言った。
日枝薫はその手をぱっと取り上げると、両手で包みこみ、にやりと笑う。
「みんなの名前は『どぐ丸』に教えてもらってるでしょ? そこから調べたんだよ」
そう言いながら日枝薫はスマホの画面を開く。
そこには俺の和紙の様に、参加者全員の名前と数字が浮かんでいた。
皆が全く同じものを貰ってるというわけでもないんだな。
静守曜子はブレザーのポケットから刺繍の付いた手帳を取り出し、俺は学ランのポケットから折れ目がついてややよれよれになっている和紙を取り出す。
どう考えても俺のだけチャチくないか。
紀本 亮平 四 三
日枝 薫 三
塚原 隼斗 二 一
西野 由香理 四
静守 曜子 四 一
湊 陽壱 二
国原 創 四
「あれから変わってはないね。西野さんと国原……くんかな? は、どうも動いている様子がないのよね~。塚原君は積極的に動いてるけどイマイチうまくいってないイメージ。圧倒的に強いのが紀本亮平。そして曜子ちゃん、私、湊くんの同盟が現在成立しました、と」
「まずは紀本亮平を倒すのが先決なんかな、やっぱ」
「そんな状況なんだ、今……」
スマホを覗き込みながらふてぶてしい笑みを浮かべ嬉々としている日枝薫。しばらく考え込んだ後、ぱっと顔を上げると、俺と静守曜子の顔を順番にみつめ、言い放った。
「次は塚原隼斗を同盟に引き込むよ!」
『え!?』
相変わらず予想もしないことを急に言い出す日枝薫に、俺と静守曜子は思わず驚きの声を上げる。
「俺を殺した奴と同盟って、気まずいな」
「とかいって、曜子ちゃんにも最初に殺されかけたんでしょ? じゃあなんとかなるなる!」
「う、ごめんなさい……」
横で話を聞いているだけだった静守曜子は、突然自分の名前が出てきて恐縮しきりだ。
「積極的に行動してない人はともかく、不確定要素は野放しにはできないからね。まずは彼も同盟に引き込み、打倒、紀本亮平!」
「なるほどなあ。たしかにまずは連合して強い奴から倒すべきだよなあ」
「なんだか紀本君に悪い気もするけど、薫ちゃんの言ってることは正しいよね、きっと」
自分でも思うぐらい頼りなさ過ぎる俺の意見と、まだ状況が完全には呑みこめてない静守曜子の言葉に、ますます日枝薫のテンションはあがる。
「そんなんじゃこのゲーム勝ちぬいていけないよ! あ、あと! 湊くんのことはヨーイチ。曜子ちゃんのことは曜子ちゃん。私はカオル! これからお互いそう呼ぶようにしましょう!」
『え!』
「だってチームに連帯感は必要でしょ? それに、名前は咄嗟に呼びあえた方がいいし」
そこまで言い終わると、日枝薫はヒヒヒと意地悪そうに笑った。
「いきなりそれは……抵抗あるなあ」
女子を下の名前で呼んだことのない俺は、明らかに挙動不審になる。
「じゃあ、日枝さんのことは薫ちゃんって呼ぶね。けど……湊君は湊くんで、いいかな」
それに対し静守曜子は少しだけ歩み寄りを見せていた。
……俺に対しては、まだまだ大きな壁があるようだが。
「しかたないなあ二人とも。最初は抵抗あっても、ようは慣れだからね、慣れ。まあいいや。そろそろ塚原隼斗は校舎の中に入ってくる頃だと思うし、さっそく作戦を練りましょ」
「まあ、俺もとりあえずは、日枝さん、静守さんって呼ぶわ」
「私も……頑張ってはみるけど、とりあえず最初は呼びやすいように呼ぶと思います。なので……よろしくね。湊くん、薫ちゃん」
「まあ、いいんじゃないかな。こちらこそよろしくね!」
なんだかずっと日枝薫のペースだったように思うが、とりあえず俺たちは同盟を組んで行動することになった。
一番大きな変化は……静守さんと行動を共にするようになったことだ。
最初はとんでもないことに巻き込まれたと思ったが、こんなことになるなら、どぐ丸には感謝しないとな。
そんなことを考えながら、俺たちは多目的教室を後にした。




