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しんせん   作者: うきぐも
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序章~第一章


しんせん ~神々の採れたて素材~


 序


 日本とかいて何と読むか。

 引っ張ることもなく言ってしまうが、答えは『やまと』だ。

 やまとの国には色んな祭がある。

 「今から始まるのは、かむより。お前はその一人や」

振り返ったら。そこにいたのは土偶だった。

 


 一章 


 子供の頃はよく神社に行っていた。

 家の近所には大昔からある由緒正しい神社があり、何かあるたびにそこにお参りに行った。

 俺の住んでいる町の名前、『一之宮町』は、この神社に由来している。

 今でこそ一之宮町は大きな町ではないが、この神社、『須上神社すがみじんじゃ』自体は古くからその地方一帯を守護する、鎮守の社だったと聞いている。


 一之宮町。二月。

 そういや今年は初詣に行ってないな。

何気なくそう思った俺は、須上神社の前で足を止めた。

ここの神社はよく知っているが、神さまの事などはあまり詳しくは知らない。たぶん地元の土地神様とかそんな感じだろう。ただ御神体は、神社の裏山自体らしいとは聞いたことがある。

一応この町では一番大きな神社で、毎年初詣の時にはそこそこ賑わっている。

神社は山の上に見えており、参道を進んだ先にある階段を上って行く。

社務所には誰もおらず、お金を入れて下さいというメモ書きと共に、絵馬やおみくじが置いてあった。

俺はポケットの中の小銭入れから500円玉を一枚取り出し、横に置いてあった小さな賽銭箱に投げ込んでから、絵馬を一枚手にとった。

幼い頃は目的に向かって真っ直ぐに努力するタイプだったが、歳をとるにつれ、成功する見込みがある時は行くが、その可能性が低い時は最初から行かない。そんな性格になってしまった。

 だがそんな俺にも、どうしても叶えたいと思うような事が、今でもたまにはある。

 絵馬の横に置いてあったサインペンを手に取ると、俺はおもむろに書きなぐった。

『目標を達成できますように  湊 陽壱』

 ……我ながら、人間がせこくなった。

 子供の時は具体的な目標をでかでかと絵馬に書いていた気がするが、いつのころからか他人に見られることを意識し、あいまいな事しか書かなくなった。

 とはいえ、目標自体は頭の中に明確に存在しているのだが。

 今年はあの。

「節分も過ぎたのに、今ごろ初詣か」

「へっ?」

 不意に背後から声をかけられ、俺は思わず飛び退きながら振り返った。

「……どぐ丸?」

 振り返った先に立っていたもの。それは『どぐ丸』だった。

 どぐ丸というのは、俺の住んでいる町、一之宮町の『ゆるキャラ』だ。

町で発見された遺跡から出土した『土偶』がモデルの、見た目はまったくゆるくないシュールなキャラクターだが、カテゴリー的にはゆるキャラという事になっている。

「てか……なんで?」

 ここにゆるキャラが? ローカル放送の撮影?

 俺は、自分でもびっくりするぐらい怪訝な表情を浮かべていたと思う。

「陽壱か。いいね」

「なんで俺の名前……?」

「さっき絵馬に書いてたでしょ。みなと 陽壱よういちって。」

 やや困惑している俺の事をまったく気にする様子もなく、土偶ならではの虚ろな目(黒く塗りつぶされてるだけだが)をしたそいつは、無表情のまま言った。

 当たり前のことだが、どぐ丸はスポンジの様な生地でできた着ぐるみなので、言葉は中の方から聞こえてきていて、外側の顔はまったく動かない。

 さっぱりわけが分からず、何か言おうと一歩踏み出した瞬間。どぐ丸は俺の方にぐいっと迫りつつ、ニヤッと笑った。ような気がした。

「身長、体重ふつう。特に運動能力に優れるわけでもない。だけど……うん。まあ、アレだな。最後の一人はお前にしよう」

「へ。俺? 俺が何?」

「ある祭に参加してもらう。お前達の言うゲームみたいなもん。お前と同じ、十七歳ばかりで闘ってもらって、その代表者を決めるんだ」

「いや、おれまだ十六だけど。てかゲーム?」

「数え歳ってやつ。今年で生まれて十七年目ってこと。ゲームというか、大会かな。毎年、神無月に出雲で行われる神々のサミットの余興で、各地の優秀な人間同士が力を競い合う大会があるんだ。その予選やね」

 疑問は山ほどあるが、とりあえず咄嗟に口から出る質問に対し、どぐ丸は抑揚のない声で答え続ける。

「予選……」

「これで勝ったら県大会。次に地区大会。そこでも勝ち進めば本番、出雲やね」

「一体、なんの競技……? さっぱり話が……」

「競技というかなんというか。他の人間のライフを0にすれば勝ちっていう、何でもありの『戦い』やね」

「ライフ……?」

「うん。選手は各自四つのライフを持っている。人にはもともと御霊みたまが四つあるからな。だから三回は死んでも大丈夫」

 矢継ぎ早に質問を繰り返す俺に、淡々と答えを返し続けるどぐ丸。

 ある程度の疑問を口にし終えた俺は、そこで一呼吸だけ間をおくと、少しだけ声のトーンを落として尋ねた。

「……。この大会で勝ったからって、何か得があるのか?」

「勝った者の願いは、確実に叶えられる」

「え。本当か! ……というか、普段神社でしてる願いは叶えられてないってことかよ」

 一瞬声をあげて興奮した俺だったが、同時に浮かんださりげない疑問をふと口にすると、どぐ丸は少しだけ首を横に向け、やや遠い目をしながら言い放つ。

「その辺はまあ、気にするな。とりあえず神選に参加できることは、ラッキーだと思えばいい。陽壱もワレも」

 ゲームとか、ライフとか、一人称が今時ワレ、等、深く追求すればまだまだ疑問は尽きないはずなのだが、こいつの話にはそれを上回る妙な吸引力と、有無を言わせない強制力があった。

「その大会は、いつどこで……」

 俺がそう言いかけた時だった。

「あ、ちなみに陽壱に選択する権利はないんだ。そして、その質問の答えは、今だ」

 あたりが薄暗くなった。

「……あれ?」

 確かに陽が落ちるのは早いけど、まだそんな時間でもないだろ。太陽が雲に隠れた?

 きょろきょろする俺に対し、どぐ丸は一枚の和紙の様なものを差し出した。

「これ、見といて」

 どこが指なのかよくわからない手からそれを受け取ると、そこには何やら毛筆で描かれたような、いびつな文字が縦書きで並んでいた。

「……名前か、これ」

湊陽壱という、自分の名前が載っていることからも、これが参加者の名簿であることは想像に難くない。


紀本 亮平  四

日枝 薫   四

塚原 隼斗  四

西野 由香理 四

静守 曜子  四

湊 陽壱   四

国原 創   四


「この四ってのは?」

「御霊がまだ四つ健在ってこと。減ったら数字も変わる」

反射的に呟いた俺に対し、どぐ丸の返答は周囲に響くような音で聞こえた。

「え?」

咄嗟に顔を上げた俺の前にすでにどぐ丸の姿はなく、そこは四方を鳥居で囲まれた妙な場所。

「え? ここって……?」

 神社の中のどこかであろうという雰囲気こそあるのだが、思い当たる場所は記憶にはない。

そして急に周囲の景色が変わって動揺しないはずがない。

そんな俺に対し、どぐ丸は相変わらず抑揚のない声でさらっと言った。

「その鳥居をくぐったらゲーム開始ね。どれに入るかは、初期位置だけの問題だから気にしなくていい」

「そんないきなり?!」

 右往左往している俺をよそに、それっきりどぐ丸の声はしなくなった。

「一体なんなんだ……」

よくわからんけど、とりあえず適当に行ってみるしかないか。

 そう考えると、俺は自分の正面に立っていた鳥居に、少しだけ早足で入ってみた。



気がつくと、そこは薄暗い学校の中。

といってもいつも自分が通っている校舎ではない。しかし、長く延びる廊下や等間隔で二つずつ並んでいる扉などが、ここがどこかの学校の中だということを確信させている。

俺は全く人気のない建物の中を、ゆっくりと歩き始めた。

学校というものは、どこもある程度似たような構造である。

視界の左右には、廊下を挟んで窓と教室。さらに長い廊下の両端には階段がある。

窓の外に目をやると、どことなく見覚えのある風景。今いる場所までは分からないが、自分の住んでいる街のどこか。そんな気がした。 

校舎内から人の気配は全くしない。

余りにも周囲に音がないために多少の恐怖が付きまとうが、現状を把握するためにはやむを得ない。そう考え、俺はゆっくりと教室のドアを引く。

「ん?」

 建てつけの悪いドアを開けると、中には散乱したロッカーが一つ倒れているだけで、椅子や机はひとつもなかった。

「……」

 何か現在地の情報がないかと思っていたが、少なくともここには何もないようだ。

 もしかして、どこかの廃校になった校舎とかなのか?

色々と考えてはみるものの、すぐには思いつかない。

とりあえずここには誰もいる様子がないし、まずは外に出てみよう。そう思い、階段に向かおうとした瞬間だった。

小さく風を切り裂く音とともに、後ろから飛んできた何かが横をかすめ、乾いた音と共に目の前の壁に突き刺さった。

「へっ?」

恐る恐る近づいて、壁に刺さった何かに目をやる。

そこにあったのは……たぶんカーボン製? の矢だ。

「これって……」

俺が小さく唾を呑みこむのと、再び風を切る音が耳元に迫ったのとは、ほとんど同時。

 身動きも取れない一瞬のうちに、新たな矢は張られていたポスターごしに壁に突き刺さった。

「……!」

 俺は言葉を発する余裕もなく咄嗟に廊下の角を曲がり、階段の方に飛び退った。

 い、今のは……。

 階段のすぐ前で片膝をつきながら、壁に刺さっている矢の方を凝視する。

 耳を澄まして周囲の様子を探ろうとするが、自分の心臓の鼓動が大きすぎて、それもままならない。

 数分は経っただろうか。

 何も起きる気配がないので、地面を這うように移動し、今さっきまで自分が通ってきた廊下にそーっと目をやった。

「うっ!」

 一瞬にして迫ってきた矢が地面でバウンドし、壁に当たって乾いた音を響かせた。

 ――狙われてる。

 仰け反ってそれをかわした後、俺は階段まで転がるようにして辿りつき、生唾を飲み込んだ。

 ほんのコンマ数秒。はっきりではなかったが、見えた。

 廊下の向こう側に、制服姿の女子生徒らしき人影が、弓に矢をつがえている姿が。

 ……まさかこんなことになるとは。

 再び廊下の方に戻ることはできそうにない。

 俺は少しずつ気配を窺いながら、階段を下に降りて行くことにした。

 

足音を立てないように踊り場まで辿りつくと、少し姿勢を落として下の階の様子を窺う。

……とくに変わったことはなし、か。

少なくとも見える範囲には誰もいないことを確認し、さらに下へと歩を進める。

階段を下まで降り切り、廊下に足を着いたその瞬間。

遠くからガラスが割れる様な音が響いた。

 今のは……。

 反響しすぎてどこから聞こえてきたのかは分からなかったが、おそらくは今自分が居る階のどこかだろう。ガラスの音と混じっていろいろな物音が混ざっていた気もする。

 進むべきか戻るべきか……?

 音からして、誰かがガラスを割ったのは間違いない。しかしそれが何かの理由でガラスを故意に割ったのか、それとも誰かが他人と接触してそのいざこざの中で割れたのか、そのへんははっきりしない。

 ただ言えることは、この建物の中には自分以外の人間が何人かは確実に存在しているということだ。

 そして、最初にどぐ丸の話をきいた限りでは、自分以外の6人を全員倒さなければ、このゲームは終わらないようだった。

 強引に話が進んでいたのでその時は考える暇がなかったが、これはとてつもなく大変な状況なんじゃないだろうか。

 仮にゲームだとしても、どうやってライフを奪うのか。全部奪われたらどうなるのか。途中で棄権できないのか。そもそもこれは一体何なのか! などなど……多くの疑問が浮かび上がってくる。

 手がかりになりそうなものといえば……。 

 そう思いつつ、俺はどぐ丸にもらった和紙を学ランの横のポケットから取り出し、開いてみた。


紀本 亮平  四 一

日枝 薫   四

塚原 隼斗  三 休

西野 由香理 四

静守 曜子  四

湊 陽壱   四

国原 創   四


 数字が変わってる。

 これは、どう考えても紀本ってやつが、塚原ってやつを一回倒したってことだよな?

 てことはさっきの音はこの戦いの音ってことか?

 そんなことを考えていると、背中を一筋の汗が伝い、だんだんと心臓の音が大きくなってくるのが分かる。

 さっきの音は廊下よりも更に遠くの方から聞こえてきた気がする。しかし、あの音が二人の接触により生じた音だとすれば、塚原を倒した紀本はまだこの階をうろうろしてる可能性が高いわけで……。

 何やら嫌な予感がしてハッと顔を上げると、俺はすぐに階段を上に向かおうとした。

 その時だった。

「!?」

 頭に焼ける様な痛みと、強烈な衝撃を感じた俺は、そのまま意識を失った。


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