1 約束
「その仕事を是非、君に頼みたい。」
一瞬、思考が止まる。
何か、答えなくては、と焦った私は
「仕事ですか?」
と単純なおうむ返しの言葉しか出てこなかった。
(仕事を頼まれるなんて初めてだ。)
なんだか、分からないが少しくすぐったい変な感じかする。
「そう。人間界へいき、その魂をここに連れてくるんだ。分かったかい?」
それが聖様が言う通り、助けることになるのなら私には断る理由は見当たらない。
「分かりました。」
(なんだかわからないがやってみるだけやってみよう。聖様がいなくてもなんとかできるだろう。)
「即答か、全く…君さっき表情を変えたのにこんなときは表情を変えないのだな…」
少し不満そうに、顔をしかめて聖様はいう。
「聖様は一体何を言っているのでしょうか。」
なぜ、顔をしかめるのか理解できず、聖様に問うてみた。
しかし、首を振り、「何でもないよ。さて行くか。」
そう言って聖様は私を促す。
「はい、聖様」
そう言うのが合図になったように目の前が白く光り、2人の天使は跡形もなくその場から消えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
白い光がやみ、聖様とともに降りた先は、真っ暗で、天界とは異なった狭い世界だった。
人間が住む場所として天界でも壁という区切りがされている区間はあるが、全く外の世界を見えないように囲まれているというこの空間に違和感を感じる。
【理由は単純である。天界では夜はなく、そこで住むものは寝るということを知らないからだ。
そして、天使も例外なくその人物の一人だった。】
(これが、人間界の夜か…)
聖様が神様に人間についてのマニュアル本なるものをもらって、私に渡してきたものを読んだ中にこの下界の生活について書かれていたので、ある程度知識は頭に入っている。真っ暗な世界というのは予想以上に視界が遮られる。実際に体験してみると予想とかなり違うのだと感じる。
さらに箱のようなものの中に聖様は入って行く。
「ここが、かの者がいる場所だ。」
入ると黒で統一されたシックな部屋、天井からシャンデリアがぶら下げられ、そしてフリフリが装飾され天蓋つきベットが黒髪の女の子を携え、枕元に可愛らしいテディベアが置かれている。
「この子がそうだ」
黒髪の女の子に近づき聖様はそういう。
(先程から、気になっていたのですが…)
先から気になっていたことを私は聖様に聞いてみることにした。
「一言申し上げても、よろしいでしょうか。聖様」
「何だい。天使?」
「なぜ、聖様もここに?」
(この仕事は、私に託されたもののはず…聖様はいなくても問題ないのではないか。)
どうしてそんなこと言うのかわからないといった疑問の笑顔を天使に向けつつ、聖様はいった。
「ん?それは君が何をすればいいかわからないと言っていたじゃないか。だからそれを教えようと思ってね」
(なるほど、確かにどうしたら、魂を届けられるか分からないしな。)
納得して聖様を見ると片目をつぶって、私に向かって何やらドヤ顔をしてくる。
(片目をつぶるなんてどこかぶつけたのだろうか?)
聖様のことが心配になり、「聖様。片目大丈夫ですか?痛いのですか?」
というと…。
「大丈夫。痛くない。これはね、Winkというんだよ」
と片目を開いたり閉じたり、まばたきを繰り返している聖様。
「Wing?全く翼とは関係ないように見えるのですが?」
「ぶふぁっふっははは…ひーふぁははははっ」
言った途端に声をあげ笑い始める聖様。なぜ笑うのでしょうか?
何とか、笑いが治まった聖様は、説明する。
「…WingじゃなくてWinkね。顔の表情表現方法の一つだよ。何か相手にメッセージを送るときにするものだよ」
「なるほど、勉強になります。」
どうやら聞き間違っていたいたようだ。納得した。
納得しているとベットから「う…うぅ…ん」
と澄んだ可愛らしい唸る声が聞こえてはっとし、声の主へと顔を向けた。
先ほどと違い、黒髪の女の子は、布団で顔が見えない上状態だったが、唸りごえとともに顔を別な方向へと向けたため、布団が落ち、顔が露わとなった。
その瞬間「…!?」
聖様がなにやら驚いた表情をして、何故か私の顔をチラチラ見てくる。
女の子の肌は白く、まつげが長く、目鼻立ちがくっきりしており、人間が作るというまるでドール人形の様に中性的な顔立ちをしていた。
ベット上の女の子は、眉を寄せ、苦しそうではあったが、思わず綺麗でついじっとその様子を眺めてしまっていた。
そして、ゆっくりと目覚めたのか眺めていた私と目があうはずはないのに目が合う。
…ぞわりっと背筋が撫でられた変な感覚がした。そして、目は赤い目でまるで見てると飲み込まれそうな感じがする。
隣で聖様がぼそりと「同じだ…」とつぶやいているのが聞こえる。
同じ?
疑問に思っていた思考は、「…あなたは…だれ…?」
といった問う澄んだ可愛らしい声でかき消される。
もしかして私たちが見えているのか。人間は天使や神が見えないはずではなかったのかと聖様に目線を向けると
聖様も信じられないというように目を見開いている。
聖様のこの自体は予想していなかったようだ。
「…迎えに…きたの?」
聖様はさっきの驚き顔がなかったかのように顔に笑みを浮かべ直し少女の前で片膝をつき、
挨拶する。天界で一般的な挨拶だ。
「私の名は聖・エル。娘よ。…私のことが見えているのか?」
「ええ、そう…聖…様…」
「君に問いたい。君は人間か?」
思わず驚いて「聖様何を、おっしゃっているのですか?」
と言ってしまった。どう見ても人間なはずなのに。
聖様は私の方に顔を寄せると「それは、後で理由を話そう」
と小声で囁いた。驚いた…今までは理由を問えばすぐ答えを話してくれていた。
普段と違う聖様の様子に違和感を覚える。
聖様は続けて「あなたがいうように私はあなたを迎えにきたのだ。受け入れてもらえるか?」と少女に問う。
女の子は嬉しいそうに笑みを浮かべた。
「…えぇ。聖…様。私はあなたがそう言うなら…受け入れます…しかし…」
女の子はふと暗い顔をした。
「わた…し…私…助け……ない…と」
その途端、女の子が苦しそうに咳き込見始める。
女の子の周りに黒い瘴気が溢れ出て、うっぐっ苦しい。
聖様も苦しそうに顔を歪め、汗をかいている。が、負けじと笑顔を保ったまま
「誰をだい?何を助ければいい?」
そう絞り出すように言う。
「知…恵を…求めた…ものを…助けて…」
聖様は私をずいっと前に突き出す。
「君の願いは聞き届けた。君の願いは、この者が叶えるよ。」
もろに瘴気にあたる、苦しさは倍になり、目が開けていられずに薄目しか開けていられない。
(というか、聖様。さっきなんておっしゃいました⁉︎)
「…本当?」
驚くが、女の子にそう言ってしまうともっと不安定なりこれ以上悪化する可能性もある。
ここは冷静に返さなくては
「…はい。安心してお休みください」
落ち着けるようにゆっくりとそういうと瘴気は収まり、女の子は意識を失うように倒れ瘴気がふとなくなると体から魂が抜け出てきた。
その魂は、女の子の髪と同じ黒い魂だった。
「ふぅ……本当に彼女がまだ人間でいたのが不思議なくらいだよ。」
聖様がぼそっとそう呟く。
「どういうことなのですか?」
「あぁ、後で、それは話すよ。とりあえず、私は彼女を天界へ連れて行くよ。」
そういうと、女の子の魂に手を触れ、私に触れて聖様は唄を紡ぎ出す。
天使が能力を使う時、想いを乗せやすいよう歌に想いを込め歌う。ずっと天使になってから親しんできた曲の一曲だ。
聖様の声は澄んでいてきき惚れる。彼女の中に吸い込まれるような感覚とともに私は意識を失った。
約束したと言っても、完全に上司である聖に押し付けられる形で約束することになってしまった
天使…。次回、天使人間になるw
>>文章、変更しました。内容が少し変わっています。
後、聖様の性格がダメなやつになってます。←いや、もともとかw