2.逃亡者と騎士と魔物
そこは、森の中でも少し開けた場所だった。
血を流して倒れている騎士が十数人。
体の半分が存在しない騎士が約三人。
なんとか意識を保っている騎士が一人。
そして、六メートルはある地龍が二頭。
すでに一頭は倒されていたが、もう一頭は怒り狂っていた。
その怒り狂った地龍が、まだ意識がある騎士に向かって牙を剥く。
ダメ…!
私は、剣を引き抜きながら走り出した。
カァン!
金属音が鳴り響いた。
そして、地龍が騎士に喰らいつくギリギリでなんとか防ぐ。
間に合った…
でも、力で勝てるはずもなく、押し返される。
私は剣を寝かせ、力を逃した。
そこで隙が出来た地龍に攻撃をする。
キィン!
剣が弾かれる。
硬いっ…!
地龍は全身が硬い鱗で覆われている。
鱗が無いのは、腹の部分と、目の周りだけだ。
さっきの攻撃ではダメージは与えられなかったけど、地龍の意識は私に向いた。
これで、騎士に攻撃する可能性は低くなっただろう。
ちらりと騎士のほうをみると、私のことを呆然と見ていた。
私はすぐに地龍へと視線を戻し、戦いを始めた。
◎森の中 騎士視点
今日は不幸な日だった。
王都周辺の村の1つから地龍がいるとの報告があったため、アウグスト王国第三騎士団隊長である私は、二十人の騎士を引き連れて報告があった村へと向かった。
村長に話を聞き、村近くの森を探索していると、報告があった通りに、地龍を確認できた。
「ジーク隊長、地龍は現在睡眠中であり、我々の気配に気付いていないようです」
部下の一人が報告する。
「よし。今のうちに地龍を囲め。合図出したら一斉攻撃だ。魔法部隊は、魔法発動の準備!」
部下に指示を出し、地龍に気づかれないように取り囲む。
そして、合図を出し、同時に攻撃を開始する。
剣を装備した騎士が地龍を引きつけつつ攻撃し、弓を持った騎士が中距離、魔法部隊が遠距離で援護をした。
「地龍は防御力が高い!気を抜くなよ!長期戦を覚悟しろ!魔法部隊!地龍の行動を妨害し、大規模魔法を打ち込め!!」
俺の言葉で地龍に接近していた部下は離れ、魔法部隊が魔法を放った。
ズドォォオン!
地面を揺らす程の威力。
いかに地龍といえど、この攻撃は効いたはずだ。
怯んだ地龍に再度攻撃を行う。
戦闘開始から30分が経ち、漸く地龍を倒すことが出来た。
全員消耗が激しく、怪我人も多数いた。
怪我人の手当てをしていると、大きな足音とともに、木々がなぎ倒されていく。
そして、そいつは現れた。
「地龍!?もう一頭いたのか!!」
くそっ!こんなの報告になかったぞ!
それに、さっきのやつより大きい…!
勝てない、そう思った。
部下も、とてもじゃないが戦える状態じゃあない。
「何を呆けている!退却だ!今の状態では勝てない!!」
「り、了解!」
まずい!反応が遅れた!このままではっ…!
「ぐわぁぁあっ!」
地龍に追いつかれ、部下が地龍の振るった尻尾に吹き飛ばされていく。
ある者は爪で切り裂かれ、ある者は喰われた。
「ああぁぁぁあ!!」
「やめっ…ぐはぁ…!!」
「助け…て……」
「うぐぅ…!」
血の海が広がる。
状況は絶望的だった。
なんとか地龍の攻撃を避けた二人の部下に指示を飛ばす。
「応援を呼べ!確か、第四騎士団が隣の村の魔物を討伐に行っていたはずだ!」
「は、はいっ!」
部下たちが離れていく。
これで今動けるのは俺だけになった。
第四騎士団が到着すれば、たとえ戦闘自体に間に合わなくても、生き残った者達の治療が出来る。
俺は先程の戦いで、魔力をほとんど使いきってしまったため、『ヒール』が唱えられない。
だが、第四騎士団の騎士たちに『ヒール』を唱えてもらえれば、部下は助かるかもしれない。
第四騎士団が到着するまで、少しでも、時間を稼いでみせる!
地龍が来る。
腕を振りかぶり、力強く振り落とす。
それを剣で防ぐが、強力な一撃に体中が悲鳴を上げる。
くっ…!なんという力だっ!?
なんとか耐え、次に備えるが、もう既に地龍は尻尾で攻撃していた。
「ぐわぁあっ!」
腹を横から尻尾で殴られ、強く吹っ飛ばされる。
だが、吹っ飛ぶ直前に、地龍の目を片方、剣で抉ることが出来た。
「グラァアア…!グオォウ…!」
地龍は目を抉られて、怒り狂っていた。
地龍が俺を睨みつけ、迫ってくる。
大きく口開け、正に俺に喰らい付こうこっちに向かってくる。
ここまでか…。
そう思ったその時、
カァン!
誰かが、その地龍の攻撃から俺を守ったのだった。
随分と長くなってしまいました笑。
次回は地龍戦決着です!