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1962年夏(5/5)

 学校の指導員、検定員は警察官あがりの人が多くて威圧感があったけど丁寧な対応していてここの学校は流行っていた。これは経営者の松代さんご夫妻の経営手腕による所が大きかった。


 うちは機械は得意な方ではなかったけど「古城さん、その操作は怖いがなあ」とか言われながらも、徐々にクラッチやシフトなど覚えて車を思うままに動かせるようになり仕組みも見えてきた。

どういう仕組みか分かると通じ合えるような感じはある。


 寝る前に枕元に卓上スタンドを置いて図書館で借りてきた車の仕組みの本とかむさぼり読んだ。

分かってくると面白いからついつい調べたくなる。

千裕さんはというと、じゃあわしも読むかと思うのか経済関係の本とか読むようになっていた。


 通い始めて当初、千裕さんにはあまり教習所の話はしなかった。

妻がそういう外の話をする事を嫌うかなあと思っていた。

学校の同級生の子たちに言わせればそういうのが普通よって言われる。

でもうちの場合、彼の方からいろいろと聞かれた。

「教官の人達は警察官だった人が多いのか。これは知らなかったなあ」

とかそんな感じで千裕さんは聞いてくれる。

そういう外の社会とつながりを持つうちの事を千裕さんは好いてくれているらしいと分かってきた。


 学校で事務の仕事をするようになってから、本数があるとはとても言えない峠方面のバスに千裕さんと一緒に乗って帰る事が多くなった。

30分〜1時間に一本しか走ってないので自ずとバス停で会う事が多かったのだ。

そういう時は1本遅らせて二人で買い物して帰ったりもしたなあ。


 教習で苦手だったのは縦列駐車とか後進運転だった。どうも車両感覚が今一つ狂う。


「うち、どうも車を後ろに動かす時、車両感覚が合わない。うまく所定位置に停められないのなんでかなあ」


そう千裕さんに愚痴った。


「チセさん、視力は良かったよね」


うちは頷いた。


「左右とも1.2ありますけど」

「じゃあ左右の目を片方ずつ手でおさえてみて。まずは左目から」

「こうですか?」

「そう、それでいい。……そうだなあ。あのカレンダーの見え方はどうか教えて」


変な事をいうなあと思いながら部屋の壁に掛けてあるカレンダーを見た。

そして右目に変えて見てみた。


「ありゃ。ちょっと左目が見えにくいかも」

「やっぱりそうか。左目の視力が少し落ちたんだろうね。夜の読書、食卓で明るくしてやった方がいいかな。一応眼科に言って診て貰って。眼鏡を作りなさいって言われるかもしれんなあ」

「えー。うちが眼鏡つけるんですか」

「いやあ。チセさんなら眼鏡掛けてもきれいだしかわいいと思うから大丈夫」


よくそんな恥ずかしい事を臆面おくめんもなく言ってくれるわ、この人。

そして、この人しかいないところで言われて良かった。

うちの顔は多分サクランボのようになっていたと思うし。


 結局、眼鏡を作る事になったので賢そうに見える細めの形の眼鏡を作った。

この眼鏡のおかげで車両感覚も良くなって車庫入れとか縦列駐車でもさっと後進ギアを入れて停める事が出来るようになった。


「ほお。古城の奥さん、急に運転が上手くなった。これなら技能検定も大丈夫じゃろう。良かった、良かった」

とはよくうちの教習の担当をしてくれた教官の先生のお褒めのお言葉だった。


 千裕さんはうちの眼鏡姿をみて「惚れ直した」と言い出した。

ほんと、この人は恥ずかしい事をさらりと言うなあと思ったから

「あなたも男ぶりが上がって見えるから不思議」

と言い返しておいた。


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