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1962年夏(2/5)

7月末。夕食の準備が早々に出来たので、千裕さんの帰りをバス停まで迎えに行った。

日が長くなってきていて日没後もまだ夕暮れのグラデーションが残っていた。

そんな空模様の中、山道を登ってきたバスを降りた千裕さんは何やら書類の束を抱えていた。


「ただいま。チセさん」

「お帰りなさい。千裕さん。その抱えている書類は何です?」


何故か千裕さんはニコニコしていた。


「後で話すから」


そう言うと手をつないで家に戻った。


千裕さんは浴衣に着替えて冷蔵庫からビール瓶を出してきて食卓で栓を開けた。


「チセさん、まあ一杯飲もうや」


そう言われたのでありがたくコップに注いでもらうとうちも千裕さんのコップにビールを注いだ。


「で、千裕さん。その書類の束は何です?さっきからニヤニヤしていてとっても気になります」


千裕さんはコップを食卓に置くと脇に置いていた書類の中から大型封筒を一つ抜き出してうちに渡してきた。


「チセさん、これはあくまでお願いなんだけど、自動車教習所で運転免許証取りなさい。費用はわしが持つから」

「千裕さん。一体どういう事なのか話の筋が読めないんですけど」


うちは思わず千裕さんに詰め寄ってしまった。


「悪い、悪い。最初から経緯は説明するわ」


役所の仕事で地元自動車メーカーの人と話をしていたら小型乗用車の発表について話題になったんや。

でな、わしが山の上の方に引っ越した話を知っていて免許取ったら便利なんじゃないですか、もう自家用車は夢じゃないですよって言われたから、営業所に行ってみたら車を買う事はわしの貯金からでなんとかなるなと算盤を弾いた訳だ。

車は間違いなく一家に一台ぐらいの勢いで普及する。

家の空き地もそういう事を考えての事だったけど思ったより早かったな。

問題は免許だ。チセさんもよーく分かっとるし、わしも自覚してる事だけど、わしの運動神経、運動音痴では車の運転なんてどうにもならん。

だとしたらチセさんが免許を取れば万事解決じゃと思うた。

結婚披露のパーティーに来ていた松代、神戸の旧制中学校時代の同級生が広島で運転教習所の経営しているから電話して聞いてみたらチセさんなら割引料金で大歓迎と言われたけど、おまえなら割り増しでも割に合わないから断るとも言われた。


「という訳でチセさんさえ良ければ広島市の自動車教習所へ通って取って欲しい」

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