1962年初夏・新婚旅行(4/5)
タクシーに戻ると有馬温泉へ向かってもらった。
「狐泉閣って分かりますか?」
「有名な旅館ですなあ。大丈夫です。分かります」
旅館に着いた。仲居さんに案内されて部屋に通された。仲居さんはニコリとしながら言った。
「露天風呂が付いてますから」
ひゃー。こんな部屋を予約したんですか、千裕さん。
「まあ、普段は節約生活やからたまにはな。チセさん。まずは温泉に入ろうや」
流石にお風呂をあの人と一緒にはいるのはこれが初めてだった。彼が先に脱衣所に入った。
彼が脱衣所から引き戸を開けて露天風呂に出たのが分かると続いて脱衣所に入って服を脱いだ。
ちょっとドキドキする。
ゆっくりと引き戸を開けると外気がうちの体を包んだ。
さっと桶をつかむとさっとお湯を浴びて湯船に浸かった。
お湯が濁っている泉質の温泉だった。
湯船に浸かったうちの体も全く見えない。
何をいまさらなんだけど明るいと恥ずかしいものはある。
湯船の中だと濁ったお湯のおかげでそうは気にならなかったけど。
すると千裕さんが寄ってきて何か心配そうにうちの顔を覗き込んできた。
「チセさん、顔が赤いけどのぼせてない?」
千裕さん、それは理由が違います。
だいたい、あなたがうちをまじまじ見るからじゃないですか、もう!!!




