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1962年初夏・新婚旅行(3/5)

 この新婚旅行で神戸と京都を見て回る事にしていた。神戸は千裕さんの生まれ故郷だった。

千裕さんの両親とお姉さんにうちとの結婚を報告するという意味もあった。

その場所として芦屋の山の上の方を千裕さんは選んでいた。


 国鉄芦屋駅で電車を降りて駅の北側で花屋さんをさがして入ると千裕さんは花束を注文した。


「お墓参り用ですか?」

「いや、人にプレゼントするので普通に洋風の花で見繕ってくれますか」

「ご予算は?」

「300円ぐらいあれば豪華なもの作れますか?」

「大丈夫ですよ」


お店の人は華やかな花をいろいろと見繕って花束を一つ作ってくれた。


 駅前に戻ってタクシーをつかまえると千裕さんは運転手の人に行き先を伝えた。


「芦有ドライブウェイって新しく有料道路が出来たと思うんじゃが、そこの展望台って分かりますか?」


運転手の人はにっこり笑った。


「新しい観光名所ですからな。大丈夫ですよ」


そういうとうちら二人を乗せて川沿いの道路を山の奥へと向かった。

夕暮れの中をタクシーは山道を飛ばしていく。

料金所を通りさらに標高を上がっていくと展望台のある駐車場が見えてきた。


「あそこでちょっと風景眺めたいから停めてもらえますか」


運転手は頷くと展望台駐車場に車を入れて停めてくれた。

しばらくこのまま待って欲しいと伝えて千裕さんとうちはタクシーを降りた。


「お墓なあ。戦争の後は気にしなくなったな。あそこにはみんなはおらん。そういう確信だけはあるわ」


展望台で神戸の夜景を見ながら千裕さんは言った。


「チセさんには神戸の夜景も見て欲しいと思ったし、わしの両親や姉の事も知って欲しいから、おいおい話すけど……お墓はなあ。両親も姉も敗戦の年の大空襲で行方知れず。形だけの墓標があっても意味がないと思っている。だからここで手向けて結婚の報告できればいいと思った」


そう千裕さんは言うと展望台の縁石の上に持ってきた花束を置いた。


「父さん、母さん、悠樹はるき姉さん。今度わしなんかとうっかり一緒になってくれたチセさんじゃ。呉で二人で生きていくから見守っていて下さい」


千裕さんはそういうと目をそっと閉じた。うちも目を閉じると心の中でお義父さん、お義母さんと義姉の悠樹はるきさんに挨拶をした。気のせいか誰かに微笑まれたような気がした。

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