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1962年初夏(1/3)

 うちはこの春、仕事は辞めた。課長に結婚が決まったがしばらく働き続けたいと言ったけど「内規だから結婚式までに辞めてくれ」と直球で言われた。


 千裕さんはそういう市役所の旧弊なところを嫌っていたから上に文句をぶちまけると言い出して怒っていたけど止めてもらった。


「千裕さん、こういう慣習は私たちの子どもや孫の代はともかく今どうにかなる話じゃないしこんな職場、辞めてくれと言われて続けたいとは思っとらんしあの課長の顔を見ないで済むならもういいです。あなたが私と一緒に怒ってくれた事で充分ですから」


 結婚式はせず地区の集会所を借りて親しい人だけ招いて小さなパーティーを開く事にした。

最近、海軍さん時代の料亭が結婚披露の宴会場なんてやってると聞いたけど、千裕さんもうちも質素に内輪の会でやろうという事で意見は一致していた。


 役所を辞める前に市役所時代の友人として横手さんにも招待状を渡した。


「チセ先輩、嘘つきですよねえ」


これがあの子の第一声だった。なんというかこの子がこんな怒った顔初めて見た気がするわ。


「いや、何言ってんのよ、あんたは」

「だって付き合ってないとかデートじゃないとか散々私に言ってたじゃないですか!」


すごくまくし立てられた。実際、そういう気になったのはあの灰ケ峰での出来事だから嘘じゃないけど、そんな事をこの子にしゃべったら千裕さんにあらぬ尾鰭の付いた話を振りまかれる。それは困る。


「別に嘘ついてないわよ。あんたが私に探りいれていた時ってそういう話は影も形もなかったんだからさ」

「本当です?」


じっと私の目をのぞき込んでくる横手さん。

……うーん、実際の所はどうだろう。

うちが自分自身の好きだという気持ちに気付いてなかったのかもしれない。

そういう気持ちに名前を付けられてなかったなとは思う。


「本当よ」


あの子にはとりあえず断言しておく。これも嘘ではない。

でもそれが本当かと言われたらわかんないや、うちには。


横手さんはここで追究をやめて怒り顔を解いた。


「ん、もう。……こういう祝い事だからこれ以上は言いません。それにチセ先輩に古城さんはお似合いです。私の見立てが合っていてチセ先輩が気付いてなかっただけ」


エッヘンっていう顔をしてくれた。

思わず吹き出してしまった。横手さんも笑い出した。


「おめでとうございます。チセ先輩。私もいい人探して後に続きます」

「ありがとうね。横手さんにもいい人はきっといるわ。その時は思いっきりお祝いしてあげるから」

「じゃあ、チセ先輩、ボーイフレンド候補紹介して下さい!」


それは無理かなあ。そもそも千裕さんとの出会いが偶然ゆえの奇跡だもの。あの騒動で知りあわなかったら普通に課長に嫌み言われながらも仕事を続けていたと思う。


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