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1952年春 プロローグ

 あれはうちが高校生だった時だったか。うちは呉の市街地にある新制高校に進学していた。戦争が終わって時代は変わったんだなあという実感の一つは男女共学の高校だったな。


 夕方、学校から帰ろうとバス停に向かって歩いていた。通りに面した商店もそろそろ閉めようかとお店のおばさんが箒を持って通りを掃除したりしていた。


 すると後ろで何か騒ぎが起きているのが聞こえた。振り向くと何かから逃げているワイシャツ姿の中年の男性を長身の背広を着た男性が追って走ってきた。後ろの人が何事か言っている。その後ろの方には市電が停車していて人が降りて騒乱状態になっていた。


「そ…つに近…くな」

 後の人が何かそんな事を言ってる。どうやら何か悪い事をした人が逃げていて後の人が追っているらしい。ちょっと危ういかもしれない。痴漢かスリか。その犯人が市電が止まった時に逃げ出したっぽい。でもうちの想像って当たってなかったら。うーん。困ったな。


 追ってきた人の声がちゃんと聞こえた。

「そこのセーラー服の子とお店の人、危ないからそいつを避けて、逃げて!」


どうやら追手の人の言葉を信じてよさそう。うちの隣で商店のおばさんが箒を持って呆気にとられて立ちつくしていた。うちは通学鞄をそっと地面に置いた。


ほうき、お借りします」

そういってうちは箒をその人の手からもぎ取った。


「おばさんは離れて」

慌てておばさんがお店の方に寄った。


前を走ってきた中年の男が「どけえ」と叫んでいた。

はい、はい。どきます、どきます、どきますよ。でもね。……うちは脇に一歩避けるとさっとその男の足下に箒をしっかり叩き込んだ。


 足がほうきにあたりスッテンコロリンとその男は転んだ。ここまではうちの計算通り。

「何をしやがる!」

怒鳴る中年男。怒ってる、怒ってる。念のため箒でひっぱたけるように構えた。

そこに追いかけてきた20歳代後半らしい背広服の人が取り押さえようとして、何故か転んだ。


 え、なんで?どうして?うちのせい?

その人は転げながらも闘志を持って中年男性に飛びかかって押え込んだ。

あちゃー。今のはうちのせいじゃないですよねえ、ね?


 中年の男がなお逃れようと暴れたけど、追いかけてきた人はそこまではドジではなくしっかり腕をねじ上げて取り押さえた。市電の方からも他の人達が追いかけてきて男を取り囲んで逃げられないようにした。

取り押さえた男性が大きめの声を響かせた。息が荒い。


「警察、呼んで!」


ドジだけどいい人かなと思った。お店のおばさんが反応した。


「交番が近くにありますから電話します」


どうやら商店で仕事用の電話があるらしい。おばさんは店内に駆け込んで「警察を!」と電話しているのが聞こえた。


 うちがいなくても大丈夫そうだし、バスの時刻もあったので箒をお店の壁に立てかけると通学鞄を持ってそっとその場を離れた。だから、こんな事はすっかり忘れていた。


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