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アデルフィアの方針 ★

「ここだよね?」

「んーっと、マーガレットさんの地図、読みやすいですし、この井戸で間違いないと思います」


 帝都を訪れているエルストとベルは頷きあった。帽子含むアギ一式はベルが背負うナップサックの中である。なお、ホウキは前回と同じく隠れ家に置いてきた。


 ほの暗い雰囲気が体じゅうにまとわりつく気がするのは曇天のせいだけではないだろう。厚い雲の覆う帝都は相変わらず物々しい。あちらこちらで鎧と剣のこすれる音が聞こえてくる。帝国兵のものである。帝都民の姿はかろうじて両手で数えられるほど見つけたが、どこの家屋も窓を閉め切っており、生活感を匂わせない様子だ。エルストはあえてシャツ姿になって都内に進入することを選んだ。そのほうが、人の中にまぎれやすいと思ったからである。携帯する武器も最小限におさえ、いまシャツの中に隠しているのはナイフだけである。


 帝都へとワープしてきたあと、マーガレットが描いてくれた地図を頼りに、アデルフィアの基地への入り口らしき井戸へとたどり着いたふたりであったが、いざ例の井戸を前にし、飛び込む勇気を出せずにいるのもまたこのふたりであった。


「エルスト様、いいですよ、お先に」


 ベルがエルストを肘で小突いた。ええっ、と言ったエルストは顔をしかめている。


「そりゃずるいよベル。ほんとはきみもコワいんでしょ? もしこの井戸じゃなかったら確実に頭打って死んじゃうから。もしくは溺死。ただの飛び込み損だから」

「そんな、またまた~」

「しかもスゴい汗だよ、自分で気づいてないの? だけどわかった。こないだスペシャルレッスンしてくれたお礼に、ここは僕から飛び込む」

「よっしゃ。よっ、エルスト様、世界一!」

「今の『よっしゃ』ってセリフ死んでも忘れないからな。絶対忘れないからな。じゃ、お先に……よっ」


 エルストは石造りの井戸縁に手をかけ、ひとおもいに飛び込んだ。


「うわあぁぁ~ッ」


 というエルストの叫びに、ベルは真剣に耳を傾けていた。なにかがぶつかるような音はしない。ただエルストの声が、だんだんと小さくなっていくため、井戸は間違いなくどこかへ続いているものだとベルは確信する。そして兵士の目から免れている隙に、ベルもまた井戸へと飛び込んだ。



「うぎゃあああああああああああーっ! チョチョちょっとなにこれェー! ぐっひゃあああああああああおあっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ」


 というのはベルの笑いまじりの悲鳴である。それをエルストは、ぼんやりとしたたいまつのもと悠長に聞いていた。

 井戸に飛び降りてまず、そこはなんと螺旋状のひどいすべりだいになっていた。ところどころ苔が生えていたものの、危惧していた水はまるでない、ただ土のトンネルだったのである。そうしてエルストが立つ場所へとつながっているトンネルは、今はベルが滑走中だ。


「うっはー! め、目が、まわ、うへぇ、まわ、まわる……あっ、エルスト様だ……あひゃー……ぐふっ」


 エルストはよろめきながら登場したベルを抱きとめた。

 土まみれのトンネルを一気に滑走してきたため、ふたりは全身が泥だらけになっている。


「大丈夫?」


 ベルが地下に到着したころにはすっかり気分が落ち着いていたエルストは平然としている。


「だ、だいじょぶだいじょぶ……すみません、ちょっと目がまわりました……はあ」


 ベルはなんとか自力で立ち上がった。


「これだけビックリさせられたんですから、ここがアデルフィアの基地じゃないと怒りますよ、私。って、ん?」


 ベルは数回まばたきをした。小さなドーム状になった空間に人間がいる。エルストとベル以外の人間だ。壁に設置されたたいまつのそばにいるその人間は中年男性のようだ。マントのようなものを羽織っている。


「きみが殿下の宮廷魔法使いか?」


 中年男性はベルに確認した。殿下というのが誰を指しているのかしばし考えたベルは、そうです、と答えた。


「俺はレック。アデルフィアのサブリーダーをつとめるひとりだ」


 そう名乗った中年男性は仏頂面をたずさえ、エルストとベルの頭からつま先までをしげしげと見た。


「マーガレットの紹介だそうだし、いいだろう、お通しする」


 レックの背後には木製の扉があった。エルストとベルは顔を見合わせ、レックのあとに続きアデルフィアの基地へと入った。



 扉の先もまたトンネルであった。ただし先ほど滑走してきたような螺旋状のトンネルではなく、道として作られたトンネルであった。レックは細い杖の先から明かりを生み出している。


 ほどなくして大部屋に通された。ここが基地の要所であるらしい。ずいぶんと広い部屋だ。ソファー、テーブルセットなどもあるが、どれも人が使い古した代物のようだ。オイルランプが、部屋の中心にあるテーブルに置かれているのが見えた。


 どこかの部屋から赤ん坊の泣き声が複数聞こえてくる。

 人影がいくつかある中で、奥まった場所に設置されたソファーに腰かける女性がレックのほうを振り向いた。


「その者たちは誰?」


 涼やかな声だった。エルストには、その声に聞きおぼえがある。


挿絵(By みてみん)


「ミズリン姉様?」


 いずれ兄と結婚する女性であることから、エルストはかねがね、その女性のことをそう呼んでいた。


「え?」


 戸惑った女性の声が聞こえる。ソファーから立ち上がりエルストらのもとへ歩み寄ってきた女性は、右肩にドラゴンの頭が乗った水色のマントを羽織り、ベージュ色の髪を後頭部でひとつ結びにまとめている。そして髪の毛と同じ色の瞳をエルストへと向けた。


「エルスト殿下?」


 女性は、信じられない、といった顔である。


「生きておいででしたのね」

「やっぱり本当にミズリン姉様だったんだね。姉様こそ、よく生きていてくれたよ!」


 エルストは興奮冷めやらぬ声でミズリンと手を取り合った。ベルは居心地が悪そうに、目の前の再会を静観している。


「ここにはどうして? その左目は?」

「左目は、ちょっとね。ここについてはマーガレットが教えてくれたんだ、姉様。きっと僕らを歓迎してくれるって」

「僕ら?」


 そこで初めてミズリンの目にベルの姿が映った。エルストがベルの腕を引く。


「僕の宮廷魔法使いだよ」

「ベル・テンっていいます。よろしくお願いします、ミズリン様」


 エルストにつられて自己紹介したベルに、ミズリンは首をかしげた。


「ベル? ベル・テン? あなたもしかして……」

「へ? 私のことをご存じで?」


 それからしばしのあいだ、ミズリンは無表情のままベルを見つめていた。しかし首を振り、こう言う。


「いえ、今はいいわ。それよりも殿下、どうして今さらこの都に。殿下のお命はテレーマに狙われています。すぐにお逃げください」


 その声は厳しいものだった。え、とエルストは頬を強ばらせる。


「マーガレットが何を言ったのか知りませんが、私たちが殿下にしてさしあげられることはありません。お引き取りください」

「ちょっと待ってよ! 姉様たちはテレーマに反感を持ってるって……」

「反感?」


 ミズリンは眉根を寄せた。


「そうね、たしかにテレーマに対する反感は捨てるほど持っています。けれど……」


 そしてこう続ける。


「だから?」


 そのミズリンの問いかけに、エルストはおろかベルでさえも凍りついた。


「ぼ、僕ら、帝都に来たのはテレーマを殺すためなんだ。そして王国を復興する。姉様たちは帝都の事情に詳しいんでしょ? だから僕らに協力してほしい!」


 エルストは思いの丈を吐露した。テレーマのことはもちろん、サルバとサルバ率いるサード・エンダーズのこと、サムが死に、現在はベルの隠れ家で生活していることなどだ。


「そのサード・エンダーズとやらはテレーマとなにか関係が?」


 レックが口を挟んだ。


「同志だって言ってた。僕を殺すという目的が一緒だって」

「殿下を殺す……」


 ミズリンはレックと視線を交わし、エルストらに、場所を変えようと提案した。どうにもここでは、ちらほらといる仲間の目が気になるらしい。すでにエルストの存在を気にかけ始めている人影が見えていた。



 通された部屋は大部屋の半分ほどの広さがある部屋だった。寝台がふたつ、それぞれ壁際に置かれている。片方のベッド上には、クッションの上ですやすやと眠る赤ん坊がいた。ミズリンは赤ん坊のそばに腰かける。もうひとつの寝台にエルストが座った。ベルとレックはベッドのそばに佇んでいる。


「ぷはーっ! あー息苦しかった。けど会話はバッチリ聞こえてたで!」

「しっ。アギ、赤ちゃん寝てるから、静かにしててね」


 ここでは加工済みドラゴンを装備していてもテレーマに見つからないということで、ベルは頭にアギをかぶせている。ミズリンはアギを見るなり「ヘンテコなドラゴンだこと」と呟いていた。


「それで、テレーマを殺すということですけれど」


 ほかの部屋から相変わらず赤ん坊の声がさかんに聞こえている。そんな中で、ミズリンが話題を切り出した。


「殿下、本気でおっしゃっているのですか?」

「本気だよ」


 ミズリンは顔をしかめ、赤ん坊の腹を撫でる。そして改めてこう述べた。


「お引き取りください。私たちがおちからになれることはありません」

「姉様。姉様は帝都の事情に詳しいんでしょ? 僕ら、なるべく怪我しないような、それでいてテレーマを確実に葬る作戦を立てたいんだ。たとえばテレーマがひとりになる時間とか、兵士の数とか、そういう情報がほしいんだ」

「『なるべく怪我しないような』?」


 ミズリンの声が震えたのがわかった。その意図がわからず、エルストは戸惑いながらも膝をさすりながら、うん、と頷いた。


「迷惑です」


 次の瞬間、ミズリンはきっぱりと断言したのだった。エルストやベル、アギは驚く。


「魔法もお使いにならない殿下を守らなくちゃいけないのは私たちの役目ということになるのでしょう? そんなの、私たちの魔力が惜しいに決まっています」

「ちょっとミズリン様、失礼じゃないですか。それにエルスト様は私が守ります」

「せやせや、ベルの言うとおりやッ」

「お願いだから理解してちょうだい」


 対してミズリンはベルとアギに懇願するような表情を見せた。


「私たちにはゆとりがないの。あなたたちはその隠れ家とやらで一生テレーマの目をやり過ごしていればいい。私たちに、勝手に義務を背負わせないで」

「僕らがゆとりを作るさ」


 エルストが己の胸に手をあてた。


「テレーマを殺すって決めたんだ。サルバもだ。だけど姉様はこの現状を維持していくつもりなのか、この先もずっと? 変えようとは思わないのか? それでいいのか?」

「私たちの方針を勝手に変えようとしないで。維持していくのではない。維持するにも必死なのです!」


 とうとうミズリンが声を荒げた。


「それしかできない私たちアデルフィアを悪だなんて思わないでください。テレーマは……テレーマは二年前のあの夜から、王都の民を……」


 ミズリンがそう言いかけたとき、突如部屋にまばゆい光が到来した。その場にいる誰もが目をふさぎ、そのあと見開くと、ここにいてはいけない人物が部屋の中央に立っていた。


「——ギャンギャンギャンギャンうるせー女だな。帝都の地下が腐っちまう」


 その人物とは渦中のテレーマその人だった。黒髪をたらし、ミズリンを見下ろしている。エルストらは目を疑っている。なぜ奴がここにいるのか、理解できずにいるのだ。


「テレーマ! その子を放して!」


 ミズリンの視線の先にはテレーマに抱かれた、つい今しがたまでベッドで眠っていた赤ん坊がいる。しかもテレーマは赤ん坊の喉もとに刃物を突き付けているではないか。その刃物とは、エルストが懐にしまっておいたはずのナイフであった。エルストは胸もとをまさぐる。いつナイフが抜き取られたのか、いつ赤ん坊を奪われたのかさえ、彼にはわからなかった。


「どうしておまえがここに!」


 レックが叫んだ。


「ここに忍び込んだ者がいると聞いてな。それがただの人間なら放っておいてもよかったんだが、王族となると話は別だからな。参上させてもらったぜ」


 テレーマの鋭い目がエルストを見る。

 赤ん坊を人質にとられている以上、誰もテレーマに手出しはできない。テレーマ自身、それをわかった上で、ごく愉快そうに話を進める。


「よーし、暇つぶしに取り引きだ! ここにいる全員がそこの王子を黙って俺に差し出せば、『貢ぎもの』は五十日免除してやる。どうだ、ん?」

「貢ぎもの? なんの話だ?」


 エルストはテレーマを凝視している。


「そこの水色の女魔法使い、教えてやれ」


 テレーマが指名したのは、はがゆそうにうつむくミズリンだった。彼女は感情をなくした声でこう述べる。


「『我々民間人は、七日にひとりずつ、誰かの命と体を皇帝陛下に献上する』。これを破られたときは皆殺し。世界から……人間がいなくなる」

「ハアーッ? どーゆーこっちゃ!」


 アギが大きく疑問を呈した。しかしテレーマは、上出来だ、と言いながら満足そうにしている。


「どうだ王子、わかったか?」


 テレーマのまなざしを受けたエルストは、口角を震わせながらこう問いただした。


「おまえはそうやってひとりずつ、国民の魔力を奪っていってるのか?」

「え!」


 口もとに手をあてて驚いたのはベルだった。彼女とアギもようやく気づいたらしい。エルストらが〝おぞましい〟としていることを、テレーマはいとも簡単におこなっているのではないか。


「そういうことだ。ふん。王子もバカじゃあねーようだな」


 テレーマはエルストの言葉を否定しなかった。


「ちょ、ちょちょちょちょっと! なによそれ、アンタそんなことやってなにがしたいの!?」


 ベルはテレーマを攻撃できないもどかしさを言葉にしてぶつける。


「アタマおかしいんじゃないの!? なにが皇帝よ! 好き勝手に国民の命をもてあそんでるだけじゃんか!」

「アタマおかしいっつうならこの女魔法使いにも言ってやれよ」

「は?」


 テレーマがミズリンを顎で指したので、エルストとベルは首をかしげた。テレーマはこう告げる。


「俺が皇帝として城で初めて献上されたのは、こいつの父親だぜ。次にその妻を献上された。この女は立て続けに自分の両親を俺に献上したんだぜ。この女が自ら仕切ってな」

「姉様、本当なの? あなたの両親を……」


 喫驚したエルストが尋ねると、ミズリンはたしかに頷いた。


「献上の取り決めがなされたのは国王陛下やコネリー王太子殿下たちが殺された三日後のことだった。たった三日でこの男は王都を占拠したのです、反抗した大勢の民を殺して。そのとき、残った民は悟りました。この男に逆らえばすぐに殺される。だけど逆らわずともいつかは殺される。だから私たちは、せめてひとりひとりが少しでも生き長らえるため、新しく子どもを作り、この男に差し出す命が『途絶えないように』しようと決めました。だってそれが、人間が滅ぶよりマシだと思ったから。それを今のアデルフィアの面々、ひいては民全員に理解させるため、まず私が両親をすすんで献上いたしました」


 ミズリンは平静を失った顔でぎこちなく言った。


「信じられない……」

「ははは! 現実ってのは酷だよなあ!」


 ミズリンが言った『維持していくにも必死』とはこのことだったのだ。そして絶え間ない赤ん坊の泣き声も、そういうことだったのだ。聞こえてくる泣き声に耳をふさぎながら、そんなことあってはなるものか、とうなだれるエルストの頭上でテレーマが豪快に笑う。その様子を、ミズリンはうらめしそうに見ていた。


「おまえはさぞ楽しいのでしょうね、テレーマ。たとえ民が都の外に逃げても、おまえは配下のドラゴンを使い、すぐに捕まえてくるのだから」

「そうだな。俺にかかれば世界じゅうの人間を全滅させることも不可能ではない。だがそうしないのは、てめーらに情けをかけてやってるだけにすぎない」

「どうせ、ただの暇つぶしのくせに! 仲間にはとても言えないけれど知っているわ、おまえは献上された者を『食べて』、寿命を延ばしてるんだってことを!」

「はっはっはっ。ああそうだ、それが悪いか、りっぱな女魔法使い殿?」

「おまえ、よくもそんな悪魔のようなことが言えるわね」

「俺が人の命を奪ってなにが悪い? なあ? 生きものが生きものの命を奪って! 食べて! なにが悪いってんだ!?」


 テレーマはナイフの刃をひらひらと泳がせる。


「こいつ、本気なのか?」


 エルストはテレーマを見上げる。テレーマはいかにも本気であるかのような調子だが、エルストはますます困惑するばかりだ。


「ねえベル、こいつが悪いんだよね? こいつが正真正銘の『悪』なんだよね? 人の命を奪うって……考えがマヒしてきた。悪いって……」


 その語尾はだんだんとしぼんでいく。


「ベル。人の命を奪うってさ、悪いことなんだっけ? 僕がやろうとしてることは……」

「エルスト様?」


 人の命を奪うことは悪だ。そう言いきってしまえば、エルストが今後おこなわんとしている『母を食べる』、『テレーマを殺す』、『サルバを殺す』はいったい善悪どちらだと判別すればよいのだろうか。エルストは数々の目的を前に混乱している。

 ベルも最初こそ拍子抜けしたようだったが、すぐにふだんの強気を取り戻し、眉尻をつり上げてこう言う。


「そんなの、『悪い』に決まってます!」

「ベル……」

「悪くなかったら、私たちはここにはいなくて、今ごろ復讐なんて考えずにどこかで幸せに暮らしてる。だけど私たちは決めたんだから。そうでしょ、エルスト様、私たちは人殺しなんて悪いことしたこいつらを殺すって決めたんでしょ! しっかりして!」

「せやで! ここでこのテレーマとかいうやつに惑わされたらアカン! せや、王子がゲロったときの感覚を思い出しや! アレがいま王子に必要な正しい感覚や!」


 アギもまた吠えたのだった。


「ははっ。威勢がいいよなあ、てめーらは。さてアデルフィアとかいう慈善団体はこの王子をどうする? さっき言った取り引きに応じるか?」


 テレーマは彼女をひどく侮辱した目でミズリンを見る。


「待て、テレーマ」


 そこへ割って入ったのはエルストだった。その顔は、先ほどまで語尾をしぼませていたエルストのそれとは一変していた。


「お望みどおり、僕はおまえの城に行って殺されてやる」

「……ん? え? エルスト様、なに言ってるんです!」

「また出たか、王子の無謀グセ! ワシなんか変なアドバイスしてしもたかな?」


 すかさず止めたのはベルだ。アギも反対の意を目で訴えている。だが、動揺するベルらを、エルストは片手で制した。


「だけど一晩だけ待ってくれ、テレーマ。僕は必ず明日の朝、おまえのもとに首を差し出しにいく。必ずだ。だからその貢ぎものとやらは、おまえの言ったとおり免除しろ」

「ほー。条件か」


 テレーマはナイフの刃を己の肩にとんとんとあてた。


「いいだろう。たった一晩だ。約束だぜ」


 そしてナイフを床に投げ出し、赤ん坊を宙に放した。ミズリンが悲鳴をあげながら赤ん坊を抱きとめる。赤ん坊は無事だ。


「じゃあな。また明日。せいぜい最後の晩餐でもたらふく食っとけ」


 いやな笑みを残し、テレーマはどこかへとワープしていった。

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