テレーマ・ラミナ・ターグ ★
夜を迎えたアデルフィアの基地では、メンバーらがランプを灯し、晩食をとろうとしていた。
「神エオニオとドラゴンの恵み、命の恵みに感謝し、いただきます」
ミズリンやレックを除くメンバーらはそろって合掌した。その様子を尻目に、ミズリンとレックは大部屋を出ていく。
「相変わらずあの合掌がお嫌いなんですね、ミズリン様」
赤ん坊の待つ部屋へと来たレックは、目の前で幼い子を抱きかかえるミズリンに言う。
「お嫌いになられたのは、たしか十七歳のときでしたかな。あなたは本当は敬虔な『宮廷魔法使い』であったと聞きます。コネリー王太子殿下との仲も睦まじく……」
「過去のことについては言わない約束よ、レック」
「おっと」
冷ややかな声を浴びせられたレックは肩をすくめた。
「私はもう、あなたとのあいだに生まれた、この子の母親なのだから」
「そうですな。そういえば、エルスト殿下たちを結局ここから追い出してしまいましたが……」
「いいのよ。それよりも紙を用意してちょうだい。送るべきことができたわ」
「はい」
レックは退室していった。我が子をだいじそうにあやすミズリンの人差し指を、赤ん坊がきゅっと握った。
◇
翌朝、エルストはひとり登城していた。シャツ姿の懐にはナイフをしまったままだが、帝国兵はとくにエルストの体を調べもしなかった。
石造りの城の入り口である門扉をくぐり、エントランスホールへ入場すると、まず目に入ったのが三層の吹き抜け部分に垂れ下がった幕であった。エルストがここに住んでいたときには見かけなかった品である。たいそうな織物であるが、エルストが興味を示したのはその技法などではない。大きく描かれた、ルナノワの町で見たものとまったく同じシンボルマークである。ツノがある、りっぱなドラゴンの絵だ。
「ねえ、きみ。あの絵って、なに?」
エルストは城外の門から己を連行してきている兵士にたずねた。エルストに声をかけられたことに若干の戸惑いを見せながらも、兵士は鎧兜の下から、
「テレーマ皇帝陛下の先祖の絵だ、とのことです」
と答えた。
「先祖?」
エルストは立ち止まったままふたたびマークを見上げる。どう見ても、あれはドラゴンだ。エルストがルナノワの町で長老から聞いた話と照らし合わせてみる。まず帝国の名に用いられている『イスヒス』というのは、ルナノワの町の住民やテレーマの始祖が名乗っていた名前とのことだった。テレーマはルナノワの町で育ったのである。そしてあのドラゴンを模したマークは、もとはルナノワの町におけるシンボルマークという話だ。そこへ「テレーマの先祖の絵だ」という話が加わった。先祖の絵、というのが具体的にどういう意味であるのかはわからない。
「きみやここにいる兵士は二年以上前からずっとテレーマに仕えてるの?」
となりに立つ兵士に、エルストはついでに訊いてみた。兵士は意外にも素直に応答する。
「じ、自分は一年前に徴兵されました。全員が二年前以降、新たに奉公を始めた者ばかりです」
「そういえば、テレーマってどんなふうに現れたの? いきなり王都にやってきたの?」
「そ、そうですね。二年前、王都が何者かの手によって壊滅したすぐあとに、いきなり飛来して……」
「飛来?」
首をかしげたエルストが兵士に向かってさらに聞きだそうとしたが、その直後、三階のバルコニーから声が降り注いできたため、質問はかなわなかった。
「ぐずぐずくっちゃべってねーで、さっさと上にのぼってこい。我が家だったんだから道くらいわかんだろ、元王子様」
横暴な口調はテレーマのものである。エルストが目を凝らすと、陽光がぼんやりと射し込むバルコニーで何かを食べているテレーマの姿が見えた。これから殺すと約束されているためか、すぐにエルストを襲う気配はない。
「おめーもだ、下っ端。使えねえ部下は死刑だッつってるよな、日ごろから」
「ひいっ! す、すぐに連れてまいります!」
「ふん」
テレーマの威圧に身をすくめた兵士へと鼻を鳴らすと、テレーマは食べくずをエルストめがけて放り投げた。小気味のいい音を立てながら石床に落ちてきたのは、肉がついていたであろう白い骨だった。
◇
城内の、ある広間にエルストは通された。すると、そこでは意外な人物がテレーマとともにエルストを待ち構えていた。
「マーガレット!」
エルストはひどく驚いた。広間の奥で、ソファーにふてぶてしく座っているテレーマのそばに、隠れ家にいるはずのマーガレットが佇んでいたのである。
「ごきげんよう、エルストさん」
黄色いストールをまとうマーガレットはやや青ざめた面持ちだ。エルストは頬をひきつらせる。
「テレーマ! おまえ、マーガレットまで殺そうっていうのか! 無理やり連れてきたのか!? どうやって!?」
「勘違いすんなよ。この女は、最初から俺の手下だ」
「は?」
エルストは頭が真っ白になった。テレーマは今、マーガレットを指して「手下だ」と言った。マーガレットは、エルストらにウソをついていたのである。
「僕たちを裏切ってたっていうのか、マーガレット?」
「マーガレットはそこらの兵士より優秀だったぜ。てめーが介入してくるようにわざと兵士にぶたれ、てめーを城に導き、てめーらが隠れてた家の場所すら伝えてくれた。そして昨日、てめーらがアデルフィアの基地に向かうよう仕向けた……そしててめーは俺の思惑どおり、ここに、殺されにやってきてくれたというわけだ。はは!」
テレーマの高笑いが広間に反響する。エルストは頭を抱えた。
「じゃあ、本当に最初っから……」
「それだけじゃあない。てめえと出会う前までは、帝都から国民が逃げ出すたびにそれを俺に知らせてくれていた。だからこそ俺は、ひとりも逃がさず、今日まで人間を食えているってこった。なあ、マーガレット」
「そのとおりでございます、陛下」
マーガレットは抑揚のない声で頷いた。ならば彼女は、アデルフィアの仲間すら裏切っていたということか。
「いったいどうして!」
いくらエルストが怒鳴ろうとも、マーガレットはなにひとつ答えない。彼女に冷徹な面があるなどとエルストは思ってもみなかった。だからこそ、エルストはもはや言う言葉が見つからなくなり、血の気の走った目でマーガレットの姿を眺めるしかなかった。
やがてエルストの両脇に、剣や槍、鎧兜など武装した兵士がぞろぞろとやってきた。エルストが抵抗しないための見張り役ということらしい。しかし今のエルストには抵抗する気力すらない。マーガレットに欺かれていたという事実が、エルストが思う以上に、エルストの肩に重くのしかかっている。
「で、だ」
エルストの心情など知ったことではないと言わんばかりにテレーマが両手を打ち鳴らした。
「てめえを殺すにはどこがいいか考えたんだが、やっぱりてめえは家族とおんなじ場所で死にたいかなと思ってよ。だからここを選んだ。ま、座れよ」
縄も枷もつけられていないエルストは、ずいぶんとなめられているようだ。忘れもしない二年前のあの夜、家族から誕生日を祝われた部屋で、エルストは促されるままテレーマの向かいにあるソファーに腰かけた。テレーマとマーガレットの背後にある大きな窓からは——二年前、サルバが侵入してきた場所だ——朝の光が舞い込んでいる。脱力しきったエルストだったが、ふと家族のにおいを思い出すと、どこかに父や兄の血痕がないか、と無意識に床を眺めまわし始めた。すると、点々とした赤黒いしみがいくつか確認できた。きっと家族のものだ。エルストは目の奥を熱くさせる。
「僕の家族がここで殺されたことを、どうしておまえが知ってる?」
エルストの声は震えていた。テレーマは笑いながら、サイドテーブルに置かれたグラスを手にとった。マーガレットが酒を注ぐ。エルストのぶんも用意されているようだが、エルストはとても口をつける気になどなれない。
「あの夜、国王とその息子の死体は、俺がここから外に放り投げたんだ。オブジェにするにも不細工だったからよ」
そう言ってテレーマは己の背後にある窓を親指でさしたのだった。エルストは奥歯を噛みしめる。
「お? 泣くか? おいおい、いつまで乳くせー坊っちゃんのままでいるんだよ!」
右目からうっすらと涙を流しだしたエルストを、テレーマは無情にも笑い飛ばした。
「おまえには絶対に流すことのできない涙だ」
あの夜と同じように、エルストは己の手の甲で涙をぬぐいあげた。
「だがわからないことが僕にもたくさんある」
「あん?」
テレーマはグラスをかたむけたまま片眉をあげた。
「おまえはどうしてそんなに残酷でいられるんだ? 魔力を通貨にしているルナノワの町で育ったからか?」
「へえ、ルナノワの町に行ったのか?」
「ゾイの花で作られた秘薬を探しにね」
「ははははは! ああ、ゾイの花! で、秘薬の味はどうだったよ?」
「とってもまずかったよ」
エルストは吐き捨てるように答えたのだった。
「ハッ。人間らしい感想だな、つくづくつまんねえ。俺はあの花はウマイと思うんだが、咲くまで時間がかかるのがめんどうなんだよな」
そう述べると、テレーマはグラスをあおった。マーガレットは次の酒を用意している。エルストはその様子からきつく目をそらした。マーガレットがなぜ『そう』しているのか、エルストは知りたい気持ちと、知りたくもない気持ちを抱えている。
「なあ、テレーマ。これは僕の憶測なんだが」
その胸に渦巻く気持ちをおさえ、エルストはこう切り出す。
「おまえはドラゴンじゃないのか?」
テレーマの切れ長の瞳が大きく開かれたのを、エルストはちらりと見ることができた。
「どうしてそう思う?」
テレーマはエルストの言動をおもしろがるような態度でソファーに背を預けた。
「人間が人間を食べるなんて僕は人間のおこないだなんて思えない」
エルストはそう言い切った。テレーマは笑う。
「おいおい。じゃあゾイの花から作られたあの秘薬はなんだってんだ?」
「そうだね。とても人間が飲んでいい薬なんかじゃない。あんな秘薬を飲むだなんてむごいこと、人間がやっていい行為ではないが、これが『ドラゴンがおこなっていること』だと考えれば納得ができる」
「どういうこった?」
そのときテレーマの表情から一切の笑みが消えた。
「むごい行為をするのはドラゴンだけだって言いたいのか? 人間はそんなうすぎたないマネはしねえと?」
「そうではない。だって僕も、母親に僕の体を食べられた可能性がある」
王国上がりの兵士たちがどよめいた。
「だからてめえは魔法が使えないのか。へえ」
「たぶんね。それをたしかめるつもりもあって僕は帝都に来たんだけど、そのまえにおまえに見つかってしまったよ。だけど、そういう魔法があることはプロトポロが教えてくれた」
「プロトポロ、ね」
その名前を聞き、テレーマは頬をひきつらせながらグラスをテーブル上に置いた。やはり彼はプロトポロのことが気に入らないらしい。
「僕が言いたいのはつまり、魔力を通貨にできうるだけの長い寿命がある存在なら、あんな秘薬を飲む習慣があってもおかしくないんじゃないかってこと」
「それが、俺がドラゴンであるという証拠か?」
「それだけじゃない。おまえの先祖の絵があのドラゴンだって話だ。おまけにおまえと初めて会って、僕がプロトポロに助けられたとき、おまえは『セカンド・エンドのうらみを忘れたわけじゃない』と言った。セカンド・エンドっていうのは、五百年前、初代国王エオニオが終わらせた戦争のことだ。いいか、五百年前だぞ」
エルストは続ける。
「おまえはドラゴンで、ただ人間の姿に化けているだけなんじゃないのか? 五百年も生きてる人間がいないだろ? おまえだけじゃなく、ひょっとするとルナノワの町の住民もそうなんじゃないか?」
するとテレーマは、ぷはっ、と吹き出した。
「自分の観点だけで物事を決めつけるなんてよくないクセだぜ」
「かもしれない。おまえの言うとおりだ。僕だって知らないことはまだまだある……だが聞いておきたいと思ったんだ、おまえに。二年前、おまえは王都に飛来してきたって言うじゃないか」
「魔法を使ったことのないてめえにはわからないかもしれねーが、人間、空を飛ぶなんてことフツーに可能だぜ」
「だったらはっきり言ってくれ。『俺はふつうの人間だ』って胸を張って言ってくれ」
エルストは語気を強めた。いや、荒げたと言ったほうが最適かもしれない。とにかくエルストは胸の内に激しいざわつきを感じている。
「これから死ぬってのに、てめえ、なにをそんなに心配してるんだ?」
テレーマは立ち上がる。ゆっくりエルストを見下ろすと、あー、と、なにかを察したようだった。
「なんとなくわかったぞ。てめえ今、『ひょっとしてサルバのやつがドラゴンだったら』なんて考えてるんだろ。ははあ、そうだろう? ドラゴンは『不死』だから死にようがないもんなあ、コワいよなあ!」
そのとおりだった。エルストは、まさしくそれを気にしているのだ。エルストは、「サルバは殺せない」というベルの言葉を忘れたわけではないのだ。
「いかにもサルバを殺したがってるツラしてるもんな、てめえ。だが今から殺されるやつに、そんなこと関係ないだろ?」
テレーマはエルストの頭上で腕を組む。
「いいから答えろよ!」
「ははははは! いいぜ、おまえが望むとおりのことを答えてやる。いいか」
足や腕が震え始めていることを自覚しながらも、エルストは、高笑いしたテレーマをじっくりと見上げ、次の言葉を待った。
「俺もサルバも、ドラゴンだ」
その瞬間、エルストの青い右目が絶望を捕捉した。
「さあ死ね」
組んでいた腕をほどき、テレーマは右腕を大きく振り上げる。その腕は、皮膚を蛇のように変貌し、指先はまるで巨大な猫爪のようになった。テレーマはその爪でエルストの肉体を引き裂くつもりなのだ。マーガレットが両手で口を覆う。
「きゃあッ!」
そしてマーガレットの悲鳴が響き渡ったとき、エルストは、テレーマの爪をナイフで受け止めていた。しかし小さなナイフではその爪すべてを防ぎきれることなどあるはずもなく、ナイフでおさえられている以外の爪が、エルストの肩や腕を浅く傷つけた。
「殺されてやるって……言ったよな?」
あざけりも憤りも失った、ごくごく冷徹な声でテレーマが言った。顔も無表情である。
「ごめんね……ウソついた。僕にはおまえに殺されてやる気なんてさらさらないよ!」
エルストはそう言い放った。
「ウソはよくねーよなぁ、元王子様」
「ああ。だが、それも相手によるってことを僕はおまえを見て知ったよ。とくに相手が、僕が許せないことを平気でやってるヤツだったらなおさらね」
「人間はいちいちこざかしいんだよッ! エオニオもてめえも! 自分が否定してきたことを、いざ命の危機を感じればあっという間にひっくり返しちまう! てめえらには信念ってモンがねえのかよ!」
テレーマの爪とエルストのナイフがぎちぎちと小刻みに音を立て始める。
「ああ、そうそう」
エルストは汗水をたらしながら言う。
「セカンド・エンドでエオニオ王が倒した相手の名前、ターグっていうんだっけ」
そう述べるエルストの脳裏に浮かぶのは、兄とともに母から王国の歴史について教わっていたときの記憶である。王族には、初代国王エオニオは邪悪なる敵ターグを打ち倒し、王国を建国したのだと伝えられている。それこそがセカンド・エンドである。
「奇遇だよね。おまえの名前、テレーマ・ラミナ・ターグっていうんだろ? いい名前だよね」
睨みあうテレーマのこめかみに青い血管が浮き上がった。エルストは、これ以上の抑制は困難と思い、テレーマの爪を押し返した。床に打ちつけられた爪が固い床材を突き破る。エルストは背筋を凍らせながらもソファーから離れ、一歩、二歩と後退し、身構えながらテレーマと対立する。
「で、おまえの信念ってヤツはどうなんだよ? そこまで大層に言うんなら、さぞかしりっぱなものを持ってるんだろうね。人間を食べてでも貫きたい信念ってヤツがさ!」
エルストは挑発的な態度を崩さない。
「ああ、持ってるさ。五百年、いや、それよりずっと前から掲げてる信念……」
テレーマは床に強打された腕をあげ、エルストが座っていたソファーを蹴とばした。マーガレットは広間の奥で縮こまっている。兵士たちも動揺しきっており、もはやエルストを捕らえようなどとは考えついてもいないようだ。
「それはドラゴンの圧倒的な優位。その確立を成し遂げるってな!」
エルストが訊き返す暇もなく、テレーマはエルストに向かってワープ魔法を使った。背後か、左右か、それとも正面か、エルストはテレーマが来るであろう方角を考える。考えたすえ、エルストは一歩踏み出し、
「ぐッ」
テレーマの心臓にナイフを突き立てることに成功した。
「てめえ!」
耳もとでテレーマの声を聞いた。テレーマの体内で、ナイフが骨に接触している。これが、エルストが人を刺した瞬間であった。
テレーマが襲いかかってきたのはエルストの正面だった。エルストはそれを見越したかのように、テレーマの懐に潜りこむように前進したのである。
「圧倒的優位って言うからには卑怯な手は使わないだろうっていう自分の勘を信じてよかったよ。おまえ、意外に愚直そうだしね」
エルストは息を乱しながら言う。その間にも、ナイフをさらに深く刺しこみ続ける。
「まあ、魔法が使えない人間に対してワープ魔法使うなんて、じゅうぶん卑怯なんだけど」
エルストは吐き捨てた。
「エエぞー、王子! いつになくかっちょええで!」
「ん? アギ!?」
とつぜん背後からアギの声が聞こえ、エルストは思わず振り返った。
「うわあッ! うぐっ」
その隙をテレーマが見逃すはずもなく、エルストはテレーマに一蹴された。吹き飛ばされたエルストの体は広間の中央に放り投げられる。そうして転がったエルストに、テレーマはつい今しがた心臓から抜き取ったナイフを刺してやろうとした。それを阻んだのは——帝国兵に扮したベルだった。
アギをかぶったまま兜を装着していたらしく、それを脱いだベルは息苦しそうに片手でアギをかぶりなおしている。首から下は相変わらず帝国兵の姿だが、もう一方の手は、杖をふるい、拘束魔法でテレーマの動きを封じている最中だ。
「ベル、アギ。ゆうべ話し合ったとおりに潜入に成功してたんなら、もうちょっと早く助けてよ。あとアギ、急にうしろから話しかけないでよね」
エルストはテレーマに蹴られた腹部を押さえながら、己の前に庇い立っているベルの後ろ姿を見上げる。
「スマンスマン、王子!」
アギは本当に申し訳なさそうに謝った。
「エルスト様、ごめんなさい。なんだか興味深いお話だったから、うっかり聞き入っちゃってて、えへへ。……だがテレーマぁッ!」
ベルは眉尻をつり上げ、テレーマに向けて人差し指を突き出す。マーガレットがベルの登場に驚いている中、テレーマは顔色ひとつ変えていない。
「も〜う話は聞き飽きたっ! これ以上おまえの好きにはさせないぞ、極悪狂ドラゴン・テレーマめ!」
「せやせや! これ以上好きにはさせへんでぇ!」
好き勝手言うふたりのうしろで、エルストも立ち上がる。
「そういうことだ、テレーマ! 覚悟しろ!」
ベルのとなりに立ったエルストは、ベルよろしく人差し指を突き出した。




