1日目 act.2
潔という字がKIYOSHIと読めた時
私は 夢だと思ってたことが現実だと実感する。
そう。
目覚まし時計が電池切れしていたことも 携帯電話も電池切れしていたことも
ファンデーション切れしたり 傘を取り忘れで また部屋に戻ったり
4羽のカラスを見たり 黒猫の死体を見たり 乗るはずのバスが目の前を通過したり
とにかく ついてない日々が現実にあったことを実感した。
そして 私に天使が現れて 彼氏を作ってくれたことも。
しかも その彼氏が その彼氏が!!
「私の彼氏 KIYOSHIなんだよ!」
ケータイを水戸黄門の印籠のように持ち(もちろん 画面に映っているのはKIYOSHIからのメール) 校舎へ向かう虎之助に見せた。
「はぁ?」
虎之助は 大きく欠伸をして 少し瞳を潤ませていた。
そして虎之助の右腕には 今にも折れそうな細い腕が絡まっていた。
そうだった。
虎之助には彼女がいたんだった。これも現実だったのだ。
「おはようございます。朝から元気ですね。」
虎之助の彼女となった相模は ウフフと笑いながら私を見た。
ずっとつきたかったポジションに立てなかった私は ニヘっと無理に笑い 相模を見る。
相模め。私が何十年も前から予約していたポジョションを とりやがって…
いやいや。今 相模を恨んでいる場合じゃない。
「だから 私の彼氏がKIYOSHIなの!」
虎之助に見せていたケータイ画面を自分に向けて 確認する。
あの後のメールのやり取りだ。
【おはよう キヨシ。
仕事OFFなの?超うれしい。
私も 今日は講義なしなんだよ。
でもちょっと用事あるから 大学に行ってから会おう。
エミ】
【そうなの?じゃぁ大学まで迎えにいくわ。
潔】
【本当?じゃぁ 大学で待ってるね。
エミ】
頭がグルグルしていて てんぱっていたのに こんなメールをしっかりと送れるとは
自分の応用力の良さに自信がつく。
「お前さぁ 昨日から変だよね。」
ケータイ画面を見つめ ウフフと笑う私を見て 虎之助は顔を少し青くする。
「昨日 朝会っただけで帰っちゃたし 夜も連絡つかなかったし 何してたの?」
「いやぁ それが記憶全くなくて。気付いたら今日?みたいな?」
「オレ 結構心配したんだぜ。絵美 ちょっと元気なかったし。」
虎之助 気づいてくれたんだ。
私のテンションの低さ。
でも気づいてくれないんだね。なぜ 私がテンション低かったか。
優しいんだか 優しくないんだか 虎之助の優しさはいつもフワフワと浮遊している。
綿菓子みたい 甘いんだけど掴んだら溶けちゃうみたいな感じ。
だから触らずにいたのに そしたら違う子に取られたよ。
私は相模を睨む。相模は 私の視線に全く気付かず 虎之助をうっとりと見つめている。
相模め。私が何十年も前から予約していたポジションを とりやがって…
「だいたい KIYOSHIが彼氏って 何そのバレバレのウソ?」
何度も繰り返される思考に虎之助がストップをかける。
「ウソって…ウソじゃないし 本当だよ!」
私はもう一度ケータイの画面を虎之助に見せる。
しかし 虎之助はプィっと顔を横に動かした。
「そんなメールいくらでもウソつけるだろう。だいたい 何で絵美とKIYOSHIが付き合えるんだよ?
告白がどうしてできるんだよ?そもそも 絵美とKIYOSHIの接点は?」
いや なんか昨日天使が来てさぁ 付き合わせてくれるって言ったんだよね。本当 驚きだよね?
なんてことを言える訳がなく 私の口はチャックを閉めたように しっかりと閉じた。
言葉が出なくなると 虎之助はプイッとした顔を元に戻し 私を見て笑う。
「あまりくだらないこと言うなよな。」
そして相模の顔を見つめ 早く学校行こう 講義始まるな。と言い
校舎へ向かっていく。
相模は ウフフと笑いながら 私のことも名前で呼んでほしいなぁと甘えている。
相模め。私が何十年も前から…
お決まりになりそうな台詞を頭に浮かべながら 私は門の前で2人のラブラブっぷりを見つめている。
虎之助 本当に彼女できたんだ。
腕組んじゃってさ。私なんて アルコール飲んで酔って やっと虎之助の肩触れられる程度なのに。
私はケータイ画面をもう一度確認する。
虎之助の言う通りじゃん。
こんなメール 私がメルアド知らない人が送ってKIYOSHIになりすませば できるじゃん。
でもさぁ。虎之助 少しくらい驚いたりしても良かったじゃん。
KIYOSHIと付き合ってることにではなくて 私に彼氏が出来たことに
ちょっと驚いて ちょっと嫉妬したりしてくれたらいいに。
あんなにもきっぱりとウソと言い しかも笑われて 彼女と腕組んじゃって
ジンワリと瞳に涙が生まれ始める。
なんだよ。
なんで 私がこんな目に会わなきゃいけないの。
ケータイ画面がぼやけて見える。
そもそもさぁ 誰だよ。こんなKIYOSHIになりすました奴はさぁ?
って あいつしかいないじゃん。あの僕は天使って言ってた奴。
あいつなんだよ。この最初のメールで エミちゃんって呼ばれている時点で気づけよ。
なんだよ!慣れ慣れしく「エミちゃん」って言ってさ。
私の名前を言って良い男は 虎之助だけなんだから。
他の男には 絶対名前で呼ばせてなかったんだから。
それなのに慣れ慣れしく「エミちゃん」って呼びやがって 今度呼んだらビンタだ ビンタ!!
「エミちゃん!」
背後から 早速聞こえる。
来やがった自称天使。
やってやるわ ビンタ!
私は勢いよく 180度回転する。
昨日のついてなさや 私をからかったこと なによりも虎之助に彼女が出来たこと
いろんな怒りを 自称天使にビンタすることで納めようとした。
でも ビンタするつもりなのに 右手はグーになっていた。
あっ このままだと私 自称天使にパンチするわ。
そう思いながらも グーをパーにするつもりはなく 私は声がした顔に向かって右手をのばす。
しかし 殴るギリギリになって手が止まる。
もう 寸止め。ピタっと動きを止めた。
「おいおい どうしたんだよ?エミちゃん怖い。」
自称天使ではなかった。
肌チョコ色だし 髪の毛茶色でちょっとパーマかけてるし
口にタバコなんて加えてるし 目が切れ目でこっち睨んで 少し怖いし
明らかに 私よりひと回り年上の35前後の男が 私の名を呼んでいる。
あなたは誰?
自称天使がいたんだ。あの自称天使とは対称的だから…
「あなたは自称悪魔?」
男は口に入れていたタバコをポロリと落とした。
そして切れ目を一の字にして 瞳だけで笑みを作った。
「あぁ。エミちゃんを誘惑してる悪魔です。」
この2日間で 天使と悪魔にあったよ。どちらも自称だけど。
もう 頭がこんがらがってグチョグチョになってる中
登校していた学生が大声で叫んだ。
「きゃー KIYOSHIが来てるよ!!」
やべ。
私 KIYOSHIと付き合いたいって言ったけど
KIYOSHIの顔って一度も見たことがなかったんだ。
とりあえず KIYOSHIの車に乗せてもらった。黒色のピカピカの車。
「とりあえず どこ行こうか?」
じゃぁ とりあえずCDショップへ。
CDショップ行って とりあえずCDを探す。
もちろん探しているのは KIYOSHIのCDだ。
そしてKIYOSHIの写真を見る。
肌の色も髪の長さも同じだ。でも髪の色は ちょっとジャケットに映っているほうが明るい。
けれど 間違いなくKIYOSHIだ。
とりあえず確認したらCDショップを出て KIYOSHIがいる車へと向かう。
「あれ メルセデスベンツじゃん。超すげぇ。」
まじで この黒色ピカピカ車ベンツなの?
私 何気にベンツに乗ってたの?すごいじゃん 自分。
いやいや すごいのはベンツだけじゃない。
私の彼氏は やっぱりKIYOSHIなのだ。
しかも 自称天使…ではなく 天使に叶えてもらったのだ。
典型的かも知れないが 私は思いっきり頬をつねった。
痛いし。じゃぁ 夢ではない。
私は今現実にいる。
「どうしたの?早く入れよ。」
ポンっと肩を触られた。私は触った人を見る KIYOSHIだ。
クラっと頭が揺れる。
これ 本当に現実にしちゃっていいのだろうか?
クラクラとする私には KIYOSHIは言う。
「次はどこ行く?」
とりあえず 病院に行きたいです。精神科か脳外科か。