エピローグ
21歳になる1週間前。
私は 虎之助に彼女が出来た後 かなり落ち込んでいたみたいだ。
んで 元気がない理由が 自分にあると全く気づかない虎之助は
私を心配して「すごく元気になるよ。」と KIYOSHIのCDをあげたらしい。
まぁ 虎之助が大好きだった私から見れば
「元気がない理由」は何か気づけよ!とビンタをしたかったにちがいない。
でも 行動に動かせない私は 素直にKIYOSHIのCDを曲聞き KIYOSHIを好きなった。
そして 熱烈なファンとなっていた。
そんな時に紫音との婚約発表。
「たぶんさぁ。オレにも失恋して KIYOSHIにも失恋して 絵美は気が狂っていたんだよ。」
「それで井上さんは KIYOSHIのマンションに行ってしまったんですね。」
「それでさぁ そのなんだ?ファンにグサっと刺されたんだよ。」
「紫音に間違われたなんて 嬉しいんだか嬉しくないんだかですね?」
虎之助と相模はそう言って お互い見つめ合い ニコニコと笑った。
私は 2人を睨みながら ハタハタオムライスを食べる。
こいつら 3か月ぶりに学校へ来た私に 祝いの言葉とかないのか?
1週間の記憶を無くしている(ということになっている)私に
2人は1週間の出来事を まるでドラマのあらすじを話すように耽々と話した。
「いやぁ でも 退院できてよかったわ。」
「そうですよ。本当に良かったです。」
「祝いの言葉遅い!」
オムライスを思いっきり スプーンで刺す。2人声を合わせて まぁまぁと言った。
このバカップル。私が知らない間に 双子見たいに意気投合して LOVELOVEになって。
1度は別れた2人なのに。
1ミリほど 別れさせたままでも良かったかも と思いながらも ガツガツとオムライスを食べる。
「しっかし 退院の日は驚いたわぁ。」
虎之助は私の悪魔の心にも気づかずに ラーメンを食べる。
相模は 虎之助のラーメンを小さな皿に入れながら
「KITOHSIが来たんですよね 退院の日。私もお見舞い行けば良かったぁ。」
まぁKIYOSHIよりトラの方がかっこいいけど。
惚気を聞きながらも 私は退院の日を思い出す。
「本当に申し訳ないです。」
KIYOSHIはそう言って 頭を下げた。
髪の毛は真っ黒くなっていて なんだか 私の知っている潔ではなくなっていた。
隣には紫音もいて 一緒に頭を下げていた。
お互い薬指に 婚約指輪をつけていた。
KIYOSHIと紫音が謝っている間 私はずっとその指輪を見つめていた。
本当は自分がもらえていたかも なんてほんのちょっぴり思った。
「大丈夫です。心配いりませんから。」
私が2人に言ったのは この台詞だけだ。
「絵美 興奮すると思ったのに 結構冷静だったな。」
虎之助も同じシーンを思いうかべていたらしい
「虎之助は口が鯉になってた。」
私は そう言って口をOにして 閉じたり開いたりして笑った。
「だって KIYOSHIだぜ。本当 驚いたわぁ。」
「紫音もいたんでしょう?すごいですよねぇ 有名人が目の前にいるなんて。」
考えられない。相模はそう言って 1本だけ麺をすする。
考えられないか…
「ねぇ もし 私がKIYOSHIと付き合ってたらどうする?」
何気なく言った台詞に 虎之助と相模は同時にゲラゲラと笑う。
「お前 刺されているのに こりないなぁ。」
「現実見た方がいいですよ?」
現実?本当の現実を言おうか?
黒猫が天使なんて名乗って 潔と1週間付き合わせてくれて
最終的に 紫音に刺されたけど 全てはなしになっていた現実を。
信じてくれるはずはないよなぁ。
そもそも叶えてくれた黒猫がいないんだもん。私1人語って 信じてもらえる話ではない。
実は 退院後すぐに 黒猫がいた場所に行った。
数か月経った道路には もちろん黒猫の死骸はなかった。
ただ 死骸があった道路の壁には 小さな花束が飾られていた。
その花束は黒猫に向けた物なのか 他の誰かに向けた物なのかわからない。
私は その花束を見つめ もう一度ありがとうを言った。
しっかしさぁ。
黒猫も人間の姿にならなくてもいいのに。しかも天使だなんて言わなくても。
猫の姿のままで「あの時の黒猫なんですけど。」って言ってくれれば
私もバカみたいに疑って 「KIYOSHIと付き合いたい!」なんて言わなかったのにさぁ。
コップに入れていた水を一気飲みする。
その飲みっぷりを 2人は見つめ「おぉー」と言う。
「水 お代わりしてくる。」
席を立ちあがる。
ずっと バカップルを見ていて気付かなかったけど
昼時間になった食堂は全て満席で
ところどころ席が空くのを待って 立ちつくしている学生たちが見える。
そんな沢山の人の中 私はあの黒猫を探してしまう。
もういるわけないか。
まっいたら いたで困るけど。
イスから数歩離れる。
「あの。」
後ろから声が聞こえ 私は180度体を動かした。
「ここ空きますか?」
瞳に映ったのは真白いシャツに 艶のない黒髪。
やばいな私。黒猫に会いたいからって 幻覚見えちゃうなんて。
目の前に映る学生が黒猫に見えちゃうなんて。
違う人だと思いながらも 体が動かない。私は その学生を見つめたまま。
「あーごめん。こいつ 水入れてくるだけだから。」
言わなければいけない台詞を 虎之助が代わりに言ってくれた。
「そっかぁ 残念。ありがとう。」
ありがとうの発音が 関西弁のありがとうだ。
まさか話し方も関西弁に聞こえるなんて どこまで幻覚を見てしまっているんだ私。
瞳を瞑って 顔を左右にふった。
しっかりしろ。現実を見ろ。何度も頭をふる。
「あのぉ…」
目の前で何度も頭をふる私に 学生は弱々しく声を出す。
もしかして変人にみられたか?
私はぴたりと顔の動きを止めて 学生を見た。
「もし違ったら すんません。天使知ってますか?」
天使と聞き 金髪で白い羽の天使を思い出さず
黒猫の自称天使のほうを思い出してしまった。
そして 私の瞳に映るのは幻覚ではなく 実際に黒猫に似た学生だと確認した。
「天使って言ってもあかんか…いや あの 何言うてるんだろう?って感じですよね?」
言葉出さず自分を見つめ続ける私に 学生は少し頬を赤くした。
「あのですね…僕の飼ってた猫が死にましてね…その猫の名前が天使って言う名前なんですよ。
いや その猫を知ってるかなぁと思って…」
「どうして?」
「どうしてって言われても…いや なんとなく?つうか… ほんま変な話してますよね?」
あかんわ。ほんましょうもな。
学生はそう言って 狐のように細い目をして笑った。
何も話さず 自分を見つめる私に 学生は何も知らないと思い
「いや 知らんかったらいいんです。」
溜息交じりにそう言って 私に背を向けようとした。
あかん!!このままでは終わりになってしまう。
「知ってます!」
やっと声を出す。
「その猫 黒猫ですよね?あなたの姿で私の前に出てきました!!」
もし黒猫が人間になって来たのに意味があるなら
もしあの1週間を無駄にしない方法があるのなら
この学生に全てを話すしかない!
私はそう思い 非現実的なことを言葉にした。
今度は学生の方が 黙りこくって私を見つめた。
やば。
もしかして 黒猫を知ってるかどうか を知りたいだけであって
願いを叶えてもらったとかはいらないんじゃないか。
今度は私が顔を赤くする。
その表情を見て 学生は軽くため息をして笑った。
「僕もなんです。僕も願い叶えてもらいました。天使 あなたの姿をして僕の前に現れましたよ。」
つながった。
1週間の出来事が 現実として今繋がった。
「ねぇトラ。井上さん 大丈夫かな?」
私と学生の会話を聞いていた相模。
「いや 向こうも話あってるし大丈夫…だと思う。」
全く会話の意味がわからない虎之助。
2人にはわからなくてもいい。
この学生がわかってくれればそれでいい。
バカップルの会話を聞き 学生は力の抜けた笑いをした。
「現実感ないなぁ。とりあえず 名前教えてもらってえぇ?」
「井上 絵美です。」
「絵美ちゃんか。」
絵美ちゃん。
その言葉は1週間前に聞いたことがあり 懐かしく感じた。
私は 21歳の誕生日に虎之助に言った誓いの言葉を思い出す。
私 今度好きな人ができたらね。絶対に自分から行動するんだ。もう待ったりはしないよ。
そう もう待ったりなんてしない。
ドクンドクンと言う心臓音を確認して私は言う。
「あなたの名前も教えてください。それと…よかったら これから2人で食事しませんか?」
よかったなぁ エミちゃん。
空の上の上から あの黒猫が笑っている気がした。