誕生日
ピッ…
昔の約束
ピッ…
最悪な日
ピッ…
自称天使
ピッ…
恋人
ピッ…
黒猫
ピッ…
ピッ…
ピッ…
なんだ?この電子音?
色々考えたいのに すごくじゃま。
ピッ…
この音消せないのかなぁ?あっ 私が消せばいいのか。
瞼を開く。
ピッ ピッ ピッ ピッ
私は音が聞こえる方を見た。
本当は体を動かして見たいんだけれど 体どころか顔さえも動かせない。
意識だけがあり 体は眠っている感じ。
だから瞳だけ 音がする方を見る。
あっ この音は止めることできない。これ心電計だ。
私の心臓 動いてるのかを確認してる。
っていうか私 心電計で図られるほど重傷なの。
いや それよりもここどこだよ。心電計があるなら病院だと分かるけど。
じゃぁ さっきまで見ていた黒猫は夢で 今が現実になるのか?
今何日だ。私と潔はどうなったの?てか紫音は捕まるの?私の体は大丈夫なのか?
…だめだ。頭がゴチャゴチャしてる。
「わけわかめ。」
思わず呟いた言葉。声が出てきたことに驚いた。
体動かせないから 声なんて出ないと思っていたのに。声は出るんだ。
「…絵美?」
足元から声が聞こえた。
私1人だけかと思っていたけれど 誰かいたんだ。
「絵美 起きたのかよ?」
声は聞き覚えがあり どうしてか懐かしく 甘い香りがした。
昔から親しんでいた声に 私は意味もなく瞳から涙を垂らした。
やっぱり最終的にはこいつか。こいつが残るのか。
「虎之助 いるならいるって言えよ。」
怒ってだした言葉が かすれ声となり虎之助に当てられる。
「お前 大丈夫なのかよ?」
視界に虎之助が映る。瞳の下にクマが出来ている。瞳が赤くてウサギみたいだ。
いつもと違う虎之助の表情を見て確信できる。私 どうやら重傷みたいだ。
体が動かないのも納得できる。
「大丈夫…じゃないよぉ。私 どうなってるの?」
虎之助は タラタラと垂らしている涙を丁寧に指で拭きながら言う。
「お前さぁ KIYOSHIのファンに刺されたんだよ。なんで絵美がKIYOSHIのマンションにいるんだよ?
KIYOSHI今 紫音との婚約でファンが殺気立っているのに…」
自分が体験した事と 全く違う事を説明され 私は言葉を失う。
ファン?紫音との婚約?私と潔が付き合ってることは?紫音に刺されたことは?
全く理解できない。
でも考えていた通り 私と潔は付き合っていたことは なしになっているのだ。
潔はKIYOSHIになったのだ。
ぽけーと今の現状を整理している私を見て 虎之助は笑う。
「何がおかしいの?」
私 こんな重傷なんだよ?
「いや ファンがさぁ。お前を紫音と間違えて刺したんだよ。お前を紫音とだなんて…全然似てないのに。」
プププと虎之助は笑う。
こいつ 本当にビンタだ。体が動けていたら すごいビンタをしたい。
私はフツフツと怒りを沸かしている中 虎之助はずっと笑う。
プププがアハハになり そして両手で顔を隠し シクシクと泣き始めた。
「良かった。お前 生きていて良かったよ。」
私の胸がキュンと鳴った。
やっぱり戻るべきなのかな。虎之助が好きだった時に。
だって 潔と付き合っていたことは消えたんだ。なしになったんだ。
そうなしなんだ。
なし?
あんなにも潔を好きだった気持ちがなし?
あんなにもたくさんの人を泣かして 心を痛めたこともなし?
「虎之助…相模とはどうなったの?」
シクシクと泣く虎之助を慰めるわけではなく 突拍子もない質問をした。
「えっ 和泉のこと?どうなったって?」
「別れたんじゃないの?」
「…何それ?勝手に別れさせるなよ!」
じゃぁ別れてない…
つまり 虎之助が私を好きになったこともなしなんだ。
「そっか…」
いったい なんなんだったんだ この1週間。
私が色々とぐるぐるしたこと 本当に全てなしになったのか?
意味がないことになったのか?
頭の中で1週間の出来事を浮かばせる。
すると 記憶も感情も私の中ではしっかりと残っている。
私の中では なしにはなっていない。
なしにはなっていないんだ。
「まぁ とりあえずさぁ。」
虎之助は 鼻のてっぺんを触る。
「誕生日おめでとう 絵美。」
少しだけ照れて言ったセリフが 胸をくすぐる。
私は自然と笑みを作り 言う。
「ありがとう。」
そして実感する。
なんか今の状況は 色々と訳がわからないけど
とにかくあれから1週間が経ったんだと。
そしてもう一度言う。
「本当にありがとう。」
虎之助も相模も紫音も潔も高校の友人も黒猫も
みんな ありがとうだ。
私のとんだ願いを叶えるため付き合ってくれて
私に好きという気持ちを気づかせてくれて…
私の笑みの深さに虎之助は全く気付かず
まさか病院で祝うなんてな。一生のうち あるかないかだよなぁ。
なんて のんきなことを言っている。
「虎之助。」
私は頭に1週間の出来事を頭に浮かべる。
「私 今度好きな人ができたらね。絶対に自分から行動するんだ。もう待ったりはしないよ。」
さっきから突拍子もないことを言うなぁ。こいつ大丈夫か?
瞳孔を大きく開き虎之助は私を見る。
虎之助 1週間のこと何も知らないもんな 当然か。
でも 言わずにはいられない。
私にとってはなしになっていない1週間の感情。
そう なしにはできない感情。
「虎之助は覚えてる?」
虎之助が自ら話し出した思い出を今度は私が話す。
「覚えてるって何が?」
「中学生の時にした約束だよ。」
「…あぁ そう言えばしたなぁ…」
本当はしっかり覚えてるくせに。
そう思いながらも 私はその思い出を話し そして 最後に言う。
その約束を守って欲しかったんだよ。と
虎之助は ちょっとだけ肩を震わせ だいぶ黙っていたけれど
結局 言った言葉は
「ごめんオレ 相模が好きだから 約束は守れないわ。」
だった。
私は その言葉を聞いて やっと虎之助にしていた恋を終わらせることができた。
それだけでも 充分にあの1週間が意味あるものになった。