7日目 act.4
太陽が朝を告げるため 光りを私にあて フッと意識を戻した。
私は自分の部屋にいた。
起き上がって 最初に確かめたのは もちろん自分のお腹。
見たくもない ふくよかなお腹が瞳に映る。
体系的には大丈夫じゃないけど でも大丈夫。無傷だ。
「良かったぁ。」
体中で息を吐き出す。
本当 刺された時はどうなるかと思ったよ。
まさか紫音に刺されるなんて しかも男問題で。
こんなこと虎之助に話したら 「お前 夢見てるんじゃない?」って言われるかも。
こんな発想 前もしたわ。それで結局 夢じゃなかったんだよね。
「ん?」
私 お腹の次に確認しなきゃいけないことあるんじゃない?
くの字になった体を起き上らせるため ピンと背筋を伸ばした。
そうだ。そうだよ。今日はいったい何日?
体を180度動かし 枕元に置かれたケータイを手に取る。
日付と時間を確認する。
そして 私は言葉を失う。
「うそ・・・30分も寝坊してる・・・」
やばい 必修の授業って午前に集中してるのに。
なんで鳴らなかったんだよ。目覚まし時計を睨みつける。
すると時計の針があからさまに違う時間をさしたまま止まっていた。どうやら電池切れ。
それどころかケータイがピーと鳴り 真っ黒な画面を映した。
これ電源切れたんじゃない。
「うそでしょう…」
ケータイにつないでいた充電器が取れていた。充電していたつもりが していなかったのだ。
しかし 時間が分かった今 ケータイは要なしだ。
早く大学に行って 遅刻でもいいから授業参加しなくては!
慌てて布団から離れて 顔を洗い 着替えをする。
そして ソバカスだらけの顔を隠すために化粧を開始する。
時間はない。でも せめてファンデーションぐらいはしないと。
そう思いファンデーションのコンパクトを開ける。パカっと空のファンデーションが見えた。
どうやら ファンデーションも切れたようだ。
目覚まし時計も電池切れして ケータイも電源切れして そしてファンデーションも切れて…
ん?
これって あの日と一緒だよね。あの天使にあう日と一緒だよね。
私は 窓から外の景色を見る。
外は大雨で あの日と同じ天気だ。
なんだこれ。
もしかしてタイムスリップしてるのか。
つまり 潔との付き合いを1週間経験したら 1週間前に戻るってことなのか?
茫然として 外の景色を見る。
外の景色には 私がこれから外で見る予定である4匹のカラスが待っていた。
そうだ。私はこの後 外を出た時に傘を忘れたことに気がつくんだ。
それで また部屋に戻って傘を持って 走ったら 4匹のカラスに会うんだ。
それで その後…
茫然としていて フワフワする頭に電気が走った。
確信がある。
もし今があの1週間前と同じなら 私はきっとあいつに会えるのだ。
あの自称天使に。
そう思った時 私はろくに準備をしないまま そのまま部屋を飛び出したのだ。
サンダルを履いただけで外に出たから 体中雨に濡れている。
けれど気にしない。私は走り 4匹のカラスの前を通過した。
そして そして…
「久しぶりやなぁ エミちゃん。」
1週間ぶりの再会。いや タイムスリップをしているなら再会とは言えないよな。
とにかく いたのだ。あの自称天使が。
私と同じで雨に濡れて 立って待っていた。
そして自称天使の足元には 私が以前見た黒猫の死骸があった。
私がかぶせた 黄色いハンカチを覆ったままの黒猫の死骸だ。
今は お昼寝しているみたいで可愛い黒猫だけど
実はハンカチを取ると グチョグチョになった体が見える。
「ほんま 見る人みんな不愉快な顔していてさぁ。朝から えらいけったいなもの見たって言うんよ。
こっちは死んでるのにさぁ。ほんま泣きそうだったんやで。」
自称天使はそう言ってしゃがみ込み 黒猫を いや自分の姿を見つめていた。
「でもさぁ エミちゃんは立ち止まって ハンカチ被せてくれた。
かわいそうって言って こんどは幸せになってって言って…」
覚えてる。
自分は今日ついていないと思いながらも 道路でひかれてしまった黒猫を無視できなかった。
かと言いつつ こんなグチョグチョの体に触れる勇気はなく ハンカチを被せた。
「雨やったけど ハンカチ温かかったよ。僕 エミちゃんに感謝してるんや。」
自称天使は 黒猫の頭を撫でる。
「だから お礼したくなぁ…でも なんか色々困らせてしまったなぁ。」
自称天使は両手を顔の前に合わせ大声で言う。
「ほんまに申し訳ない!」
いや そんな謝られても…私はただ ハンカチ被せただけだよ。
それなのに こんなご褒美くれるなんて。
てか なんで天使なんて言ったんだか…
私の一言一言のぼやきは 大雨の音によって消える。
ゆっくりとしゃがみ込み 触れられなかった黒猫に触れた。
冷たい雨のシャワーを浴びて ヒタヒタになっている黒猫。
私の薄っぺらいハンカチが 暖かく感じるなんて うそだ。
それなのに嬉しいと思ってくれたなんて そして1週間も潔に付き合わせてくれただなんて。
黒猫から視線を外し 今度は自称天使を見る。
「ありがとう 黒猫。私 すごく嬉しかったよ。」
大雨に負けないほどの大声を出した。
すると 自称天使はにっこりと笑った。私も負けずとニッと笑った。
「ありがとう エミちゃん。ほんまに ありがとう。エミちゃんは暖かい人だわ!」
天使はそれだけ言うとスッッと消えた。
残された黒猫の死骸を 私はずっと見つめていた。
そして何度もつぶやいた。
「本当にありがとう。」