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7Days  作者: 八王女
20/23

7日目 act.3

潔のマンションに着くころには

私の瞳は 涙によって視力を失っていた。

世界がずっと水に浸ったままで 視界はぼやけている。

潔からもらったハンカチを瞳にあてたまま 私は車からおりる。

「車置いてくるから 先にマンション入ってな。」

本当に泣かすつもりなかったんだけどな。

潔はマンションに着くまで そう言いつづけ 私の頭を撫でてくれた。

その優しさを思い出し

私はこの瞬間さえも明日はないと思ってしまい さらに泣けてきた。

「ううん マンション入らずに待ってる。」

ハンカチで瞳を隠す。潔は 少しだけ眉を緩めて困ったような顔をした。

「わかった。風邪ひくなよ。」

私はコクンと顔を下げると 車は駐車場へと向かった。

泣き疲れて力が入らない。ゆっくりとその場でしゃがみ込む。

ハンカチからゆっくり瞳を剥がす。

今日は晴天。雲ひとつない空に これ見よがしに太陽が主張している。

眩しい光が私を刺す。

私は 空を見ながら思う。

ねぇ 天使。あんたは この空の上の住人なの?

それとも 私と同じ世界の住人?

てか あんたやっぱり天使じゃないでしょう?

私 少しだけ気づいたんだよね。あの瞳を見て 思い出したんだよ。

あんたは天使じゃなくて…

ブルルル

コートに入れていたケータイが揺れている。

天使の存在を考えていた瞬間に 鳴ったケータイ。

私はまさかと思い 慌てて立ち上がりケータイを取る。

画面には非通知という文字。

これって もしかして もしかしなくても…あいつから?

私はゆっくりと入のボタンを押し ケータイを耳元にあてた。

「もしもし?」

ケータイから声は聞こえない。

「もしもし…誰?」

確認のため もう1度声をかける。

もちろんケータイから声は聞こえない。

私の考えは確信する。相手は きっとあの天使だ。

「ねぇ あんた今どこにいるの?空とか つまらないこと言わないよね。

私 あんたにはビンタしたくてしょうがないんだから。」

なんでぇ 僕 エミちゃんのためがんばったのにぃ。

あの天使ならそう言うだろうか。

思わず笑ってしまう。フフフと言う声が 天使に聞こえたかも知れない。

でも これは天使だからわかる会話だ。

そうケータイの向こうにいる相手が天使ならば。の話だ。

…いるの?

声がかすかに聞こえた。

本当に ちょっとだけ聞こえた声。でも その声で相手は天使じゃないとわかる。

だって声の持ち主が女だからだ。

「えっ?」

なんで そこにいるの?

「そこって…」

そこは 私の場所。あなたが来ちゃだめ。

ふと

声が ケータイからではなく

背中から聞こえてる気がして 私は後ろを見た。

「この場所は私と潔の場所なの。あなたは邪魔なのよ。」

この前 会った時よりも一回り小さくなり 少しだけ顔が青くなっている紫音がいた。

怖かったのは全く紫音の気配に気づかなかったこと。

こんなにも紫音の息が私の頬にあたるほど 近くにいたのに…

「番号勝手に登録しててごめんね。」

恐らく以前 ケータイ電話を持った時に 番号を覚えたのだろう。

右手で携帯を持ち小さな耳にくっつけ 携帯に向かって私に言う。

「私 あれからずっと考えたの。あなたがいなければ 潔は私のものなんじゃないかって。」

紫音さんがあまりにもキレイでキレイすぎて怖い。

私の口元は震えていて言葉がでない。

「だから あなたが消えればいい。」

何言ってるの?

そう言葉に出そうとしても口元が震えて 彼女が怖くて。

違う。そんな理由じゃない。

紫音の両手。

右手は携帯持っている。じゃぁ左手は?

私は紫音の左手を探す。

紫音の左手は私のお腹あたりにいた。

包丁を持っていた。その包丁が私のお腹に入ってるのが見えた。

私 もしかして刺されてる?

そう思ったとき 激痛が走った。

私は その場でしゃがむ。

自由になった紫音の左手には 私の血がべっとりとついている。

いつから刺された?

こういうのってすぐに気づくはずじゃないの?

自分 どれだけあの天使に必死だったんだろう?

いや 今はそんなこと考えちゃ駄目だ。

そう思っていても 私の感覚は痛いことしかなく 頭で文字を浮かべることも難しくなっている。

くだらないことだけが頭に浮かんでいて 瞳は黙って立ちつくしている紫音を見つめている。

紫音は 刺されたお腹を両手で押さえ寝転がる私を見下す。

そして 瞳から一滴涙をこぼした。

「こうすることしか思いつかなかったの。ごめん。ごめんねぇ。」

ごめんって。

そうか そうだよね。許すわ。

なんて言うか!!

でも なんだろう。

刺されたのに 私なんか納得してる気がする。

だって紫音に私 迷惑かけたもん。

ただ思いつきで潔が良いと言って 紫音と潔を離したんだもん。

何の苦労もせず 簡単に潔と付き合えたんだもん。

そのツケがこれっていうなら。

なんか 納得してしまう自分がいる。

いや 死ぬことに納得しちゃだめだろう。

いくらなんでも刺しちゃだめでしょう?

もしかしたら 明日になったら紫音と潔は元通りになるかもしれないのに

そう。

明日になれば 私は潔と別れるんだ。

だったら…なんか明日が来なければいい。

ずっと今のままがいいかも。

いや でも死にたくはない。

けれど 明日も来てほしくない。

あ 自分 矛盾。

それにしても空 青くない?青すぎない?

もしかして このきれいな空から天使が下りてきたりして。

フランダースの犬みたいに 空から天使が下りてくるのかな?

もしかして あの天使が下りてくるの?

でも あいつは天使じゃないんだよね。

自称天使なんだって。

だって 会ったことあるもん 私。この前会ったことあるもん。

そう

きっと

あれだ。

あの時の

そして 私は意識を失った。

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