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7Days  作者: 八王女
2/23

0日目

私の名前は井上 絵美。

あと1週間で21歳になる学生だ。

そして

今まで1度も彼氏を作ったことがない。

それは 好きな人がいたから。

名は 静谷 虎之助。

幼稚園からずっと一緒の幼馴染。

バカみたいに信じていた。

中学生の時に指きりした約束を

そのために 今まで彼氏を作らずにいた。

それなのに それなのに あぁ それなのに…

「彼女ができるなんて!」

学食名物のハタハタオムライス。

ただ国旗の旗が刺さった 普通のオムライスだ。

私は そのハタハタオムライスにスプーンを思いっきりさした。

10時前の食堂。

生徒が全くいない静かな空間に 突き刺したスプーンの悲鳴が響く。

まさか今日 唯一あった講義が休講になっていたなんて

どこまで自分ついていないんだろう。

私は突きささったスプーンを睨みつける。

食堂には今流行りのミュージックが流れている。

この曲 虎之助が勧めていた曲だ。

「KIYOSHIって奴が歌っているんだけど マジでいいんだよねぇ。本人もすっげぇかっこいいし。」

星を埋めたようにキラリと輝く虎之助の目。

幼稚園の頃から変わらない 私の好きな目。

ジンワリ。

瞳に涙。

やってらんない。

私は 勇者が剣を抜くように 勢いよくスプーンを抜き取った。

そして オムライスを食べる。

食べないとやってらんない!

早食い選手権のように ガツガツとオムライスを食べ続ける。

「あっ エミちゃんおった!」

男にしては高くて 線が細い声が聞こえた。

「もう 探したわぁ。ほんま どこにもおらんだもん。」

艶がない黒い髪。

その髪と対照的の真っ白いブラウスをきた男。

あの声の持ち主だけある。

男も華奢で ぱっと見だったら女に間違えそうだ。

「いやぁ 会えて良かったわぁ。めっちゃ嬉しいわ。」

男はそう言って 私の前の椅子に座る。

私は手を止める。

そして 口にケチャップをつけたまま口を開く。

「あんた誰?」

数粒の米が男に向かって飛んだと思う。

この汚い格好を見せても 男は笑顔。

「僕は天使だよ。」

瞳が細くなる。

なんだ これ。

私 今 新種のナンパにあってるの?

天使って

確かに 白い服着てるし 華奢だし

天使のイメージに近いかもしれないけど

でも 天使って 初対面で天使って…

頭の中は 予想外の状況に困惑。

言葉を出すことができず 天使と言う男を見つめ続ける。

「エミちゃんを助けに来たんよ。」

そもそも 名前 だ。

この男 私の名前をなぜ知ってる?

思わず手に持っていたスプーンを落とす。

「ちょっと 気持ち悪いんですけど。」

自分の感情をストレートに言ってしまうのが 私の悪い癖。

明らかに拒絶した言葉を吐いたのに 男は相変わらず笑顔。

「エミちゃん 今まで一度も彼氏作ったことないでしょう?」

男に私の声は届いているのだろうか?

私の反応に逆らって 男の会話は進む。

「バカみたいに ずっと1人の男を好きやったんね。」

「ちょっと なんでそれ知ってるの!」

思わず声を大きくしてしまう。

だって 誰にも言ったことはない。

私が虎之助を好きだなんて。

ずっと ずっと ずっと

「ずっと 自分の中だけにおさえてたん?」

男の瞳が うるんと潤った。

カラーコンタクトでもしているのだろうか?

男の瞳はおかしく 瞳孔に銀色の縦線が見えた。

私は 男の瞳を見つめずにはいられなくなっていた。

これが瞳に吸い込まれるということだろうか?

「僕は天使や。」

男はそう言って ゆっくりと私の手を握った。

男の体温は冷たく 私の手は震えた。

「僕 エミちゃんにめっちゃ感謝してるんよ!ほんまに ありがとうでいっぱいなんよ!」

大きく開いた瞳を細くして また笑顔を作る。

「だから お礼に エミちゃんの好きな男と付き合わせてあげるよ。」

なんなんだ この男は?

「もう虎之助でもえぇし あっ なんなら初恋だった幼稚園の先生にする?」

私のことを知りすぎている。

誰にも言っていない秘密まで知っている。

それはなぜ?

天使だから?

そんなのウソに決まっているじゃん。

私は 一瞬でも男を天使だと思ったことがおかしくて

口元を緩ませる。

男は 自分が天使と認められたと勘違いして 握る手に力が入る。

「でもね僕 力が足らんくて…その1週間分の力しかないんよ。

つまり、エミちゃんは1週間しか、好きな人と付き合えんよね。それでもえぇかなぁ?」

話を1ミリも信じていないのに 男は話を具体的にして持ってくる。

手を握られていて この場所から離れられない。

何よりも 私の全てを知ってる この男が怖くてしょうがない。

男から 早く離れたかった。

「わかった。それでもいいから。」

要は認めてしまえば男は去る。

私は ウソをついて男の話に乗る。

「私に彼氏を作ってください。」

棒読みで台詞を言う。

それなのに男は 大喜びをして拳を上げ

「やったぁ!!」

と叫んだ。

さきほども述べたが ガランとした食堂。

男の声が響く。

私はずっと握られた手が離れたことに安心して

大きくため息をつく。

良かった。これで離れることができる。

「でっ 誰がえぇ?」

離れることばかり考えていた私。

突然 予想外の言葉を言われ言葉を失う。

「えっ?誰って…」

「エミちゃんが付き合いたい人。」

虎之助がすぐに浮かんだ。

しかし 声に出さなかったのは

このインチキ男を信用したことになるのが嫌だったから

たださえ 虎之助に彼女が出来て落ち込んでいるのに

バカみたいにこの男の話信じて

虎之助の名前言って

実はどっきりでした!みたいなオチされたら

私 本当に立ち直れない。

どうせ 騙されるなら そう どうせ騙されるなら

絶対 付き合えないような男の名前にしたらいい

例えば…

グルグルと考える中 ふと曲が聞こえてきた。

ずっとバックミュージックで流れていた曲。

そして 私の頭の電球が光る。

「・・・し。」

「えっ?」

大声で言えなかったのは

非現実的なことを言っている自分が恥ずかしかったから。

でも この男が離れてもらうためには言わないといけないんだ!

「KIYOSHIと付き合いたい!!」

言ってやった。

私は なぜか息切れをしながら 男を見つめた。

男は 自分の黒い髪を触れながら

「なんや エミちゃん。虎之助じゃなくてえぇんや。」

少しだけ声を低くして言った。

もしかして この男 虎之助の知り合い?

私を騙そうとしている?

それなら 尚更 虎之助の名前なんて言えない。

「虎之助はもういいの。私はKIYOSHIがいいの!」

私がそう言うと 男は また瞳を大きくする。

「えぇの?本当にKIYOSHIで。」

銀色の縦線が 少しだけ濃くなる。

私の心の奥を見られている気になった。

もちろん KIYOSHIよりも虎之助が大好きだ。

付き合えるなら 断然 虎之助だ。

でも まだ何も知らない男に すべてを見せるわけにはいかない。

「いいの。KIYOSHIがいいの!」

「よっしゃ。じゃぁ エミちゃんの願いを叶えたるで。」

男はそう言うと 私の頭のてっぺんに触れた。

先ほどまで冷たかった体温。

けれど 今はすごく暖かい。

「神様 僕の願いです。エミちゃんとKIYOSHIを付き合わせてあげて下さい。」

神様?

僕の願い。

私の願いじゃなくて?

小さな疑問が ささくれのようにチクチクしたけど

それも一瞬のこと。

私の瞼は一気に重くなり 私はそのまま眠りについた。

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