表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7Days  作者: 八王女
16/23

6日目 act.3

「よっイチゴオレ飲む?」

虎之助はいつものようにそう言った。

私は 口を開きっぱなしで虎之助の顔を見つめる。

「虎之助どうしたの?その頬??」

腐ったイチジクのような色が 虎之助の右頬前面に染まっていた。

「えっ あぁ。わかる?昨日さぁ ちょっと和泉とケンカしてさぁ。」

相模。あんなに華奢なイメージ作っておきながら 私より力があるんだなぁ。

私 よく相模に殴られなかったなぁ。殴られてたら 歯の1本は確実に取れてたな。

相模の隠れた強さに驚きながら 私はイチゴオレをもらい 虎之助の横に座る。

いやぁ 和泉といい絵美といい オレは女に殴られっぱなしだな。

ハハハと虎之助は笑えないのに笑いながら またイチゴオレを飲む。

相変わらず甘いイチゴオレ。

でも この前に比べて 少しだけ甘みが消えたように感じるのは 私の心境の変化なのだろうか

それとも 虎之助のイメージが変わったからなのだろうか。

「オレさぁ 和泉と別れようと思うんだ。」

この前のイチゴオレかどうか確認したくて イチゴオレのパックを凝視していたら

何気なく呟かれた言葉を 聞きそびれてしまった。

「えっ今 なんて言った?」

「だから 別れる!オレ 和泉と別れる!」

子どもが親に駄々を言うように 虎之助は大声で言った。

いや 別れるって言われても。

突然の駄々に困った親になった私は 何も言えなくなった。

「なぁ 絵美。オレさぁ 和泉に告白された時はさぁ すごく嬉しかったんだよね。

もう 和泉ってオレの中でモロ好みだったし だからさ 和泉が初彼女なら良いって思ってたからさ。」

そうか 虎之助の好みは和泉のような子か。

私は 虎之助の顔を見て 殴られた頬を見る。

虎之助って無意識に暴力的な女を選んでいると思う。

いや たぶん 本人もまさか 殴られるとは考えてないとは思うけれど

「でもさぁ 日が経つとさ その嬉しさがないんだよねぇ。慣れたっていうか なんつぅか。

自分が気に入った女に告白されたことが嬉しかっただけで 自分は好きだったのかなぁって思ってしまって。」

「つまり 好きじゃなかったってこと?」

「いや好きは好きだけどさぁ。何か 違うんだよな。」

虎之助は 鼻の上を何度も触れる。

照れるとやるしぐさに 私は予感を覚える。

「なんか 告られて嬉しくて付き合ったら違いましたって これさ中学生の恋愛みたいだよな。」

ハハハと無意味に笑う。

けれど 私は笑えず ただ虎之助の頬を見ていた。

まさか その台詞を彼女に言ったのだろうか。

そしたら このケガは納得できる。

「だからさぁ オレ ガキのままなんだよな 恋愛レベル。っていうか恋愛に対する考えが。」

虎之助は 空を見る。

でも瞳に映っているのは 雲1つない青空なんかじゃない。

きっと 今まであった数々の恋愛を思い出していたのだろう。

と言っても 私と同じで虎之助もあまり恋愛経験はない。

考えるならつい最近の出来事ばかりだろう。

その最近の出来事を思い出しては 時たまうなずき うんうん と言っている。

「だからなんだよ。うん そうなんだよ。だから お前に彼氏が出来たと聞いて 正直に落ち込みを見せられなかったんだ。」

虎之助は 思い出を映すのを止め 私を映し始める。

「本当はショックなのに強気になって ウソだと言ったり 絵美を怒らすようなこと言ったりしてたんだ。」

虎之助 もしかして 私に告白しようとしてる?

私は 虎之助を見ている。

でも瞳に映っているのは 真剣な顔をした虎之助なんかじゃない。

私も自分なりに経験してきた思い出を映していた。

幼稚園で好きになった先生のこと。

それから 虎之助を好きになったこと。

中学校の時 そこそこカッコいい男子に告白されていたこと。

それを助けてくれた虎之助と約束したこと。

高校の時に話してくれた友人のこと。

そして天使が願いを叶えて潔と付き合い始めたこと。

初めてSEXをしたこと。

虎之助よりも潔を好きになったこと。

「オレ 絵美のことが好きなんだ。」

虎之助が まわりに学生がいるにも関わらず 私を抱きしめてきた。

それでも私は 虎之助のことを映せず 思い出ばかりを映しだす。

相模が家に来て 号泣して言ってきたこと。

紫音が潔のマンションに来て 号泣して言ってきたこと。

「頼むから オレと付き合ってくれ。」

虎之助の言葉は届かず 思い出の声が聞こえる。

相模と紫音が言ってきた言葉が 私の耳に入る。

あなたは 何をしたの?

「ダメだよ トラ!」

私は 慌てて虎之助の体を剝した。

私よりひと回り以上はある虎之助の体。

けれど剥がれるのは意外と簡単だった。

きっと 虎之助も剝されると予感していたのだ。だから わざと力を入れなかったのだ。

でもベンチから落ち そのままドスンと地にお尻をつける。

「わかってるよ。お前にはKIYOSHIがいるって だから両想いにはなれないって。」

剥がれた虎之助の瞳からは涙が流れていた。

初めてみた虎之助の涙。

「バカだよな。今さら 気づいてさ もう遅いのに…

でもさぁ…なんで KIYOSHIと付き合っちゃうんだよ… お前 KIYOSHIに何をしたんだよ?」

また 言われた。

思い返せば 私 みんなの涙を見た。

相模も紫音も潔も虎之助も みんなの泣き顔を見た。

そして 私も泣いている。

瞳を瞑っても 涙は溢れて来る。

どうして こんなことになったんだろう。

恋愛は楽しいもの。

なんて考えていたのに 潔と付き合えると分かった時に絶対幸せだと思ったのに。

その考えは幼稚すぎたのかな。

「私もだよ 虎之助。」

赤くなった瞳に虎之助を映す。

「私も恋愛に関しては中学生レベルだよ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ