6日目 act.2
数分前まで紫音が立ち尽くしていた場所で 今度は私が立ち尽くして考える。
例えば。そう例えばだ。
たださえ ばかげている話なのに さらにたとえ話を作ってみる。
あの時 天使に虎之助と付き合いと言ったら どうなるのだろう?
そしたら 私は虎之助と付き合うことができる。
きっと 今の私と潔のように ラブラブで付き合うことができるんだろう。
でも 相模が泣くだろう。大泣きして 私をビシバシ叩くだろう。
私は その時どう思うんだろう?
潔の時と比べて 罪悪感を覚えないのだろうか?
関係ない。
私は同じ罪悪感を覚える。
何もしないで ばかみたいに約束守っていただけの自分に腹立つだろう。
じゃぁ もし これが自分の努力だったら?
自分から頑張って 潔や虎之助に近づけたら?
それで 告白してオッケーもらえたら。
絶対に罪悪感を覚えない。
そうなんだ。
こんなにも潔を好きになって 潔も私のことを好きでいてくれても
満たされず 悲しい気持ちになるのは
こんなにも相模や紫音の涙を見て すごく胸が締め付けられるのは
私が恋愛に関して 何もしていなかったら。
そう何もしていないのに 両想いになってしまっているから。
ねぇ天使。
あの時 あなたは私にこう言ってくれたよね。
「だから お礼に エミちゃんの好きな男と付き合わせてあげるよ。」
お礼って…
私 今すごく苦しいんだよ。今まで経験したことがないくらい すごく苦しいんだよ。
天使は こうなるってことわかっていたの?
もしそうなら これはお礼なんかじゃないよね?
これは 恋愛に関して何もしなかった私への罰だよね?
何もしなかったのに 虎之助と両想いになりたいと願っていた私への罰だよね?
遠く遠く 空の向こうで微かな声が聞こえる。
「それは違うよ エミちゃん。僕は ほんまにエミちゃんにお礼したかったんよ!
でも僕 人間の恋愛なんてようわからんから…だから こんなことになってしまって ほんまにごめん。」
てか私 天使にお礼されるって いったい 天使に何をしたんだろう?
もう
何が何だかわからない。
私は いったいどうなってしまうんだろうか。
頭が真っ黒になり 何も考えなくなったとき
ケータイのメール着信音が鳴った。
私は カチカチに固まった手をユックリと動かしケータイ画面を見る。
【今日 講義って何講時まである?
もし4講時まであるなら それ終わったら会わない?
お前が イチゴオレ投げつた場所で待ってる。
トラ】
あぁ こいつ。
こういう時には 必ず現れる男なんだよな。
そして必ず 私を助けてくれる。
今回も私を助けてくれるの?
私は ケータイを強く握りした。