プロローグ
目覚まし時計が電池切れ。
いつもより 30分も遅く起きてしまった。
携帯電話も電池切れ。
充電したつもりが コンセントに繋がれていなかった。
化粧をしようとしたら ファンデーション切れ。
星屑のように 好き勝手に散らばるソバカスを見せたまま
マンションから出ると大雨。
傘を取り忘れで また部屋に戻る。
家を出てすぐ 4羽のカラスを見た。
黒猫の死骸も見た。
乗るはずのバスが 目の前を通過した。
あぁ 今日は絶対についていない。
次のバスが来るまでの30分間。
私は これから起きる嫌な出来事を想像する。
この大雨だ。
もしかして 雷が自分のところに落ちたりして。
しかし
現実は 雷より衝撃的なものを用意していた。
「絵美 オレ彼女出来たんだ。」
虎之助は私に会うなり そう言った。
「えっ?」
私は はっきりと聞こえた台詞を 雨音で聞こえなかったとごまかす。
「だからオレに 彼女ができたんだよ!同じゼミの相模と付き合っているんだよ。」
虎之助に 彼女ができただけでも認めたくないのに
彼女の名前まで 聞いてしまった。
言葉を失い 虎之助を見つめる私。
虎之助は 私は驚いて言葉を失ったと思っている。
けれど 本当は
悲しかった。
私は 一気に地獄へと落ちたのだ。
「お前には直で言いたかったから 黙ってたんだけど。驚いたべ?」
自分の鼻を触りながら いつもの照れ隠しをして 虎之助は言う。
「驚いたっていうか…」
失望?
幻滅?
とにかく 頭の中は真っ暗。
虎之助が誰かのものになったの?
認めたくないよ。
「やだよ 私。」
声を出したものの 口を開けすぎていたせいか
喉がカラカラで声が出なかった。
小さく出た声は 簡単に雨音で消えた。
「えっ?なんて言った?」
瞳を潤ませて 唇を震わせている私。
この表情で気づけよ このにぶちん!!
「私 嫌だから。」
私の声や雨音を打ち消すように
授業開始のベルがなった。
ジリリリリリ
「やべ 講義だ。」
虎之助はそう言いながら さらっと私に背を向ける。
もちろん 私は体を動かすことができず 立ち尽くしたまま 言葉を呟く。
「最悪だ。」