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暗殺師たちのクロニクル  作者: 黒弌春夏
RESISTANCE FOR DESTINY
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【プロローグ】

プロローグ


「お前は何を考えているんだ」

小さな黒猫が髪も髭も伸び放題の男に話しかける。もちろん人間の言葉で。決して猫語を翻訳しているわけじゃない。

「俺はあいつを守りたい」

男は微糖の缶コーヒーを飲みながら答えた。

4階建ての廃墟ビルの屋上。安全性の考えられていない低い柵に手をかけ、上りくる朝陽に眼を細める。

その後ろ、背もたれのない白いベンチに上品な出で立ちで足を舐める黒猫が一匹。

「それは知っている。お前はあの女がそこまで好きなのか。運命に抗ってまで手に入れたいのか?」

青と黄色のオッドアイをしたその黒猫は低い声で喋る。

「別に……。これは日本を救う為だ」

男は黒猫の方に振り返って否定した。自分の本心をつい隠してしまう、昔からの性格が表に出てしまう。

「さっきと言っていることが違うぞ」

黒猫は冷やかすような眼をして鼻で笑った。

「うるせぇ」

男は小さく返した。声は無気力で11月の風が男の白衣をたなびかせながら消し去っていった。

空を仰いで缶コーヒーの残りを流し込み、男は屋上を去ろうとフラフラと疲労困憊の身体を動かし、歩きだした。無音の足音をたてながら黒猫は後に続いた。

階段を下りて二階の大きな部屋に入る。男が明かりを点けたその部屋には壁一面に形の不揃いな機械が並べられ、部屋の中心には赤い色の何かで描かれた円陣がある。一般人が思う所ではオカルト的で、何らかの儀式でも行われるのではないのだろうかと訝ってしまう風景だ。

男は一般人には理解し得ぬ記号が並んで書かれた円陣の真ん中に座り込んだ。黒猫は円陣から離れた場所で男の背中を見つめている。

「ありがとうなネロ」

背を向けたまま男は黒猫に話し掛ける。ネロと呼ばれるその黒猫はデフォルトの鋭い眼つき、表情で聴いている。

「お前に出会わなけりゃ俺はこうして緋依里を助ける術なんて見つけられなかったんだ。感謝してもし切れない。帰ったら何かちゃんと礼をするよ。帰ってくるまでに何がいいか考えておいてくれ、何でもとは言わないが叶えられる範囲でよろしくな」

男の長ったらしい別れの挨拶に黒猫はただ耳を傾けた。

「後は頼んだ」

振り返ることなく男は手を振った。

「待て」

ネロから溜め息まじりの声が発せられ、男は振り返った。

「装置の電源が入ってないぞ」

ネロのじとっりした眼に口がポカンと開いた男が映る。

「こ、こういうこともある」

間違いなく焦っていることが窺えるようにわざとらしい咳をひとつして、男は立ち上がる。それを眺めながら黒猫はクスリと笑う。

「まぁ、落ち着けよ。お前の技術は本物だ。自分を信じろ、竜翔」

「ああ。分かってる」

男が部屋の隅にあるスリープ状態にあるデスクトップパソコンのマウスを前屈みになって動かし、キーボートをてきぱきと打つ。

「すまないが、立ったついでにツナ缶開けてくれ」

昨日の夜半から明朝まで何も飲まず食わずで開発を続けている竜翔のそばでアドバイスをしてきたネロもやはり飲まず食わずで、すまし顔を浮かべてはいるが空腹には耐えられないらしく、竜翔に食事を所望した。

「あぁ。ちょっと待っててくれ」

未だパソコンで何かしらの作業をしている竜翔は後ろに右の手のひらを突き出して、「待て」の意を表現する。一時片手になったが、キーボードを叩く音は止まない。

竜翔の忙しい所作をネロは少し離れた場所から嬉しそうな表情で眺めていた。

「これで準備万端だ」

そう言って、竜翔はマウスをワンクリックさせ、その音が余韻を残すことなく響いた。

大きく伸びをしてネロの方を振り返って竜翔は「乾杯でもするか」と微笑みながら言った。

「ふむ。いいだろう」

ネロは相好を崩した。


始めまして、黒弌くろいつ 春夏はるかと申します。

少しでも目を通してくださった方、

最後まで読んでくださった方、

後書きだけ読んでいる方もいたりして...。

皆さん、どうもありがとうございます。


こうして誰かが自分の考えた物語に目を通して頂けるということは

とても貴重な体験で。

全ての方が良いなーと思ってくれたらとても嬉しいのですが、

私には到底叶わないことなので、一人でも良いなーと思ってくれてると、それだけでハッピーです。

ゆっくり一人一人、良いなーと思ってくれる方が増えるように頑張っていきたいと思います。


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