表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

祭りの遊び

 祭り好きな自分ですが、実は祭りの遊びをしたことは、数えるほどしかありません。遊びと食べ物を天秤にかけ、食べ物を選んできたからです。

 そのため、祭りの遊びに対する憧れだけは、人一倍強い。


 祭りの遊びといえば、くじ引き。

 屋台の奥にずらりと並べられたおもちゃの数々が、子どものころはとても魅力的に見えたもの。


 ゲーム機、モデルガン、大きなぬいぐるみ。

 高みに飾られた品々が輝いてみえて、もしかしたら当たるかも、なんて期待で胸をいっぱいにして。

 

 少ない小遣いをはたいてくじを引いてみても、もらえるのは一番手前に並んでいる安っぽいおもちゃばかり。

 馬鹿らしさに気づいてくじ引きをしなくなったのは、いつのことだったか。


 憧れているけれど未だに挑戦したことがないのは、金魚すくい、スーパーボールすくいにヨーヨー釣り。

 金魚すくいは親に勧められたこともあったけれど、すくった後のことを考えて断念。

 水槽、エアーポンプ、エサ代などを考えて断る六歳児は、可愛げが足りないと我ながら思う。


 スーパーボールは、やっている子ども(ときどき大人)の熱中具合に気圧されて、未挑戦。

 ポイを片手に真剣な表情で並ぶ人々は、みな一様に水面の球を見すえて声も発さない。

 あの静かな緊張感の中、割って入る勇気が自分にはなかった。


 反対にヨーヨー釣りは、とても心惹かれた。

 ヨーヨー片手に祭り歩いている子とすれ違ったりなんてすると、うらやましくてたまらない。

 けれど、ヨーヨーは割れたらそれっきりなんだ、と思うと、踏み切れないまま今日に至る。


 よく見かけるけれど、やってみたいと思わないものもある。

 射的は当たる気もしないし倒せる気もしないから、やったことがない。

 輪投げも同じく、命中しない自信がある。どうにもノーコンなのだ。


 見かけた記憶もあまりないし、やりたいと思ったこともないのが、千本引きだ。

 くじ引きとの違いはいまいちわからないが、幼少期の自分が心惹かれない何かがあったのだろう。


 ちょっと変わり種として、うなぎ釣りなる屋台を見たこともある。

 紙でできたこよりの先に針がついており、それで浅い水槽の中のうなぎを釣るというか、引っ掛けるらしい。そうっとエラに針を引っ掛けるのだとか。

 祭りの終了間際が狙い目だと、経験者に聞いた。うなぎが弱っているから、暴れてこよりが切れる確率が減るらしい。

 釣れたうなぎはもちろん持ち帰ることが可能。

 希望すれば、釣れたうなぎをさばいてもらえるようだった。別料金だが。


 数少ない祭りでやった遊びは、型抜きとスマートボール。


 型抜きは、小学生になって間もないころに一度だけした記憶がある。友だちと並んでちまちまと型を抜いた。

 結果はどうだったのだろう。成功したのか、失敗したのか覚えていないが、地味に楽しかったように思う。

 このごろ見かけないけれど、いつかまた挑戦してみたい。


 スマートボールをしたのは、最近のこと。

 いつものごとく祭りを冷やかしていたら、ふと目に入ってやってみた。

 ひとくくりにスマートボールと言っても色々な種類があるらしい。自分が挑戦したのは、景品獲得につながる穴とボールが追加される穴の二種類がひとつの盤上にあるものだった。


 はじめに渡されたボールで景品獲得の穴を二つほど埋めたところで、残弾が尽きてくる。

 しかし、そこでボールが追加される穴に入れることに成功。増える残弾。

 下手な鉄砲でも数を打てばあたる。景品の穴が埋まる。

 しばらくするとまたボールが追加され、景品の穴が埋まり、残弾が減ると追加される。


 終わらない。

 ゲームをはじめて三十分近く経っていた。

 終わらない。終わりが見えない。

 軽い気持ちで始めたゲームだったが、これほど長引くとは思わなかった。

 はじめは楽しんでいたが、いつしかボールを打ちだす機械になっている自分がいた。


 だめだ、これでは永遠にスマートボールをプレイすることになる。こんな屋台の軒先で、一生を終えるのか。軽い気持ちで遊んだばっかりに……。

 心が疲弊した自分は、そんな阿呆なことを考えはじめる。

 なんとか打開せねば。


 そう考えた自分は、近くにいた小学生の兄妹らしき三人組に狙いを定め、声をかけた。

「ちょい、きみら。スマートボールやってみない? 楽しいよ」

 代打である。

 本来ならば許されない行為かもしれないが、自分の長期滞在に屋台のおばちゃんも呆れていたのだろう。好きにしな、と快諾(?)してくれた。


 そこからは早かった。

 三人兄妹は順番にボールを打ち、順調に残弾を減らしていく。五分も経たず、ボールはすべて打ち尽くされた。


 最後のひとつがどこにも入らずに、落ちていくのを感慨深く見送った。

 終わった。

 ようやく、長い長い戦いに終止符がうたれた。


 妙な感動と疲労感に浸る自分に、おばちゃんが景品を選べと言う。

 示した先にあるのは、屋台の天井から吊るされたひと抱えもある巨大なぬいぐるみ。かつて、くじ引きであれほど羨望の眼差しを向けていた一画だ。

 リラックスしたくまやら、夢の国から来た青い宇宙人など。子どもの背丈ほどもあるそれらを見て、自分の言うべき言葉はただひとつ。

「きみら、どれが好き?」


 代打、二回目である。

 三兄妹は話し合い、仲良くひとつのぬいぐるみを指差した。

 屋台のおばちゃんからそれを受け取った自分は、なめらかに三兄妹の兄にぬいぐるみを渡す。

「お父さんお母さんに聞かれたら、スマートボールに捕まって困っていた人を助けたお礼にもらった、と言うんだよ」

 我ながら意味のわからないことを言っているが、兄は素直にうなずく。うなずく兄と手を振る弟妹に、ありがとう、助かったよ、と告げ自分は足早にその場を去った。

 本当に助かった。

 あんな馬鹿でかいぬいぐるみを抱えて歩くなど、もはや拷問でしかない。


 屋台の遊びは、軽い気持ちで挑んではいけないのだと、学んだできごとであった。

 この経験を胸に、自分は今後も屋台の遊びへの憧ればかりをつのらせるのであろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ