どんぱちやる祭り
祭りと言えば、花火が見たくなります。
ひと夏の思い出。花火大会。
十九時前でもまだまだ明るい夏の夕方。うだるような暑さがようやくやわらいで、けれどアスファルトは昼間の熱を残しているころ。
色とりどりの浴衣に身を包み、慣れない下駄を引きずり気味にからら、ころろと鳴らす少女たち。
髪を結い上げ飾りをつけて、めかし込んだ彼女らはいつもより少しおしとやかに、けれど楽しげに歩いていく。
浴衣の少女だけではない。
甚平を着た子どもが手を引かれて行く横を短パンサンダルの少年が走りぬける。ベビーカーを押してゆったり歩く人もいれば、人波をぬって持ち場に急ぐ警備員もいる。
さまざまな格好のさまざまな年齢の人びとが、暮れゆく陽の下、皆一様に同じ場所を目指して進んでいく。
道中、ぽつりぽつりと見かけるのはかき氷の屋台。
信号待ちの間に涼を求めて、財布を手に取る。
花火の会場である河原に着けば、打ち合げ開始にはまだ早いにも関わらず見物客でごった返す。
あたりが薄暗くなりはじめる中、どうにか場所を見つけて持参したレジャーシートを広げて座る。
お祭り行くんでしょ、楽しんでおいで。
そう言ってレジのおばちゃんが多めに入れてくれた手拭きで手を清めて、晩飯のコンビニおにぎりにかぶりつく。いつものおにぎりが、いつもよりおいしい気がするのは、気のせいか。
暮れる陽に騒めく人の姿がだんだんとシルエットに変わっていくのを眺め、ぼんやりと空を見上げて一番星を見つける。
次第に増えていく星の合間を飛び交う影は、早起きのコウモリだろう。
空がすっかり暗くなり、そこいらじゅうが見物客で埋め尽くされたころ、アナウンスが入る。
「いよいよ、花火大会のはじまりです」
言うが早いか、ひょろひょろと夜空を駆け上る火の粉がひとすじ。
会場中の人が見上げる先で、どおんと大きな火の花が咲く。
わあっと盛り上がる声に負けじと花火がどおん、どおん。
歓声が上がるたび、ぱあっと夜空が明るくなる。
どおん、どん。大輪の花が咲き。
どん、しゃらら。火の粉が夜空から溢れ落ちてくる。
きれいだね。すごいね。
そこかしこで交わされる、興奮ぎみの声。
ふと、視線を夜空から離して周りを見てみる。
赤、緑、黄、青。
いろいろな色に照らし出された顔、顔、顔。
どの顔も、みんな同じ空を見上げて、同じように楽しげに目を輝かせている。
自分もこの幸福な群れの一員なのだと思うと嬉しくなって、また空を見上げて花火に魅入る。
一心に花火を見ていると、やがてフィナーレがやってきてひときわ明るく夜空を染める。
余韻が残る暗い空。風に流れる煙を見上げて、会場中が詰めていた息をほうっと吐き出した。
わいわいわい、がやがやがや。
最後の煙も消えぬうちに、見物客たちが帰路につく。会場中の人が一斉に帰るから身動きも取れないほど混み合うが、のろのろと進む人の群れは誰もが満足げに笑みを浮かべている。
祭りの後というのは寂しい気持ちになりがちだけれど、花火大会だけはちょっと違う。
明るく浮かれた会場のざわめきが、胸のうちに残っているのだろうか。
なんとなく幸せな気持ちのまま汗ばむ体をうちわで扇いで、のろのろと歩く集団に紛れて帰っていく。
浴衣の良さを掘り下げないように、自重しました。