昨日はゾンビも息してた
蘇れ・・・
蘇るのだ・・・・
どうしたのじゃ・・・・
ワシの×カブよ、息を吹き返すのじゃ・・・
頼む、蘇ってくれぇぇぇぇぇえ!
― ブオーン!ガラガラガラ
ふう、手こずらせやがって
このポンコツエンジンめ!
原付に跨りえっちらおっちら人気のない街中を進んでいると
ワイの愛車の×カブちゃんがゴトゴトと異音を発してきたので
そのまま暫く進んだところで停車して様子を見ていたら動かなくなってしまったのだ。
ノッキングでも起こしたのだろうか?
以前燃料が腐らないように対策で入れていた添加剤が悪さをしたのかもしれない。
ガソリンは何もせず放っておくと1年かそこらで腐ってしまうのだ。
いや、案外大丈夫な場合もあるが、何もせずに劣化して使えなくなったら手遅れなので対策は必須だった。
放置車両などはワニスで配管が詰まって始動不能なんてこともありうる。
車は積載量が魅力だが燃費がいまいちなのと整備が手間
俺一人で運用しなければ誰も面倒を見てはくれないのだ。
だから生命線である原付だけはしっかり面倒を見てやっているが、俺にできることはそれだけ。
人ひとりでできることなど限られている。
だから世の中というものは一度人の手が入らなくなれば、今までの基盤は容易に崩れていくことがそこかしこから伺える。
嗚呼、人類は衰退してしまったのだな・・・
などなどと考えながら原付から油を抜いて、代わりのガソリンを携行缶より補充する。
さあ蘇るのじゃ。
お主には水を入れてもエンジンがかかって普通に走れたという伝説がある。
その程度で泣き言を上げるんじゃない!
さあ蘇るのじゃ!
などなどとして叩いたり蹴ったり撫でたり拝み倒したりしているうちにようやく始動して今に至る。
ああ、なんかもう疲れました。
ここはワイがキープしてる隠れ家Aでまったり過ごそう。
明日から本気出す。
そんな具合で完全お休みモードなワイと×カブを引き連れて例のお家にお邪魔させていただくことにした。
時刻は午後23時を過ぎ、時刻は午前0時を迎えようとしている深い夜。
こんばんは。
30秒クッキングの時間がやってまいりました。
本日作りますのはこの30年保存可能のクリームシチュー。
特殊製法で作られたクリームシチューは、ちゃんと缶の中に密閉されて
外気と隔離して保存してあるのでご安心ください。
賞味期限が30年という脅威のクリームシチューの食べ方はとても簡単。
缶詰を開けてお湯を注いで30秒待つだけ!
どうです?奥さん。
なんだがワクワクしてきませんか?
お値段なんと一缶あたり3,000円
ファミレスもコンビニも一斉にストライキを起した世紀末な環境にうってつけ。
どんな時でも手軽にリッチな食事が楽しめます。
ぜひご賞味あれ!
※注意)開封後はお早めにお召し上がりください。
そういったわけで、以前お邪魔した御宅に訪問してお昼ご飯・・・
世間一般的にはお夜食と言うべきか?
取り敢えず蓄えてある保存食を一食いただいている。
例の4人家族ででヒキコモレル分量を蓄えていたお家の、
フリーズドライのシチューを食べているのだが結構イケる。
保存の為か少し胡椒が効いた感じだが、上手いことそれがアクセントとなっていて、
そう言う味付けのシチューなんだなと納得出来る味だ。
だが俺は基本的に野菜の甘みが溶け込んだシチューが好きなので、甘みの少ないこれは何か物足りない。
フリーズドライはどれも保存の為か胡椒っぽさがあるので飽きてきた。
次は蒲焼きの缶詰でうな丼にしよう。
アルファ米も豊富にあるので水さえあればなんとかなる。
火種についてはCB缶があるから大丈夫
CB缶すごいよ!CB缶。
カセットコンロはもちろん発電機、ランタン、暖房、挙句の果てには冷蔵庫やクーラーにまで使えるCB缶
100均でもホームセンターでもスーパーでもコンビニでも手に入るサバイバリティの高さ!
いざとなったら爆発させて武器として使うことも可能な万能っぷり
もしゾンビィたちが蔓延る様なデンジャラァスな世の中になってもこれさえあれば安心!
ぜひ一家に1本はお持ちください。
そんな偉大なるCB缶大先生が発電してくれた電気があるので
今日は『がくえんぐらし!』でほっこりしながら宇宙食のアイスで甘味を堪能しつつ
思いっきり自堕落な一日を過ごすとしますかねぇ~
いや~、贅沢サイコー
いっそのこと、しばらくはこのマンションを拠点にするべきだろうか?
何せ以前は持ちきれない量の食材があったから、必要な時にだけ取りに来ることにしていたのだ。
幸いなことに俺以外立ち入った形跡が無い。
まだ全然持ち出して無かったのでそのまま一人で1年以上暮らせる分量がある。
ここの家主は山のような非常食の恩恵を感じる前に死んだのだろうか?
死んだのだろうな。
なんて日常系っぽいオープニングに心弾ませて冷たくないアイスを齧っていたら、
ゴトッという物音が隣の部屋から聞こえてきた。
ええー、誰か居るのかよ?
と思いながら、壁に耳を当て様子を探ると声が聞こえてきた。
− 全く、夜中に回収させられるなんて
ツイてないよな、俺たち。
− ダメだ、こっちも空だ。
人が入った形跡があるしな。
− もう既にこのマンション調べ付いて
るんじゃないすかねぇ〜
− かもしれないが、
一応報告しとかないといけないだろう?
− 取り敢えず今日はこの辺にしとかね?
− ん?ああ、丁度深夜0時か
キリも良いから帰るか。
− だな
音はお隣さんの部屋から聞こえているようだった。
物盗りなんて物騒なモノだな。
セキュリティは大丈夫か?
あ、俺も人のこと言えないか。
・・・一応、明かりは消してある。
万が一様子見でドアだけ開けるかもしれない。
何処も鍵は閉めてるが、奴らはこのマンションを隅から隅まで調べる気のようだ。
恐らく開ける手段があるのだろう。
油断はできない。
俺?俺は以前に適当な死体から個人情報と鍵を持っていないか確認していたら、
どうやら管理人の遺体だったらしく、そいつの事務所へ行き運良くマスターキーを手に入れた。
遺体を調べていた経緯だが、何となく休憩がてら寄った酒屋の前に不動産があり、中に入ると二人の男の遺体が無残にも噛み付き合いながら血を流して亡くなっていたので、
「ひょっとして不動産の持ってる鍵の中からどっかに使える便利な鍵があるんじゃね?」
とか深く考えずに色々と漁っていたら死んだ男の握っている鍵に
猪井ビルズと書かれたストラップがぶら下がっていたので、
近くにあった事務所をその鍵で開けると管理会社だったのか色々な物件の管理人室の鍵がつらくってあったのでこれ幸いと全部頂いた訳である。
なのでここを始めとした幾つかの集合住宅は全て俺の手中にあると言ってよい。
いちいち窓割って入るために重たい荷物抱えるのも嫌だし、怪我でもしたら目も当てられない。
上の階にある部屋なんてどうやって上がれば良いのか
窓を割るにもベランダまでロープを垂らして入るのか?危ないだろう、それ。
何せ運良く楽に泥棒する術が手に入ったんだ、使わない手はない。
そういう訳で俺はこの部屋も大して労せず発見出来たし、ここ以外にも溜め込んでるヒステリーさんの御宅に食べ物を残している。
だが、みすみすこの豊富な食料を奴らにくれてやる気はない。
決めた、今日中に全部他所に移す。
いちいちマンションの一軒一軒を覗いて回っているんだ。
一応、このマンションの鍵は全部閉めてある。
ピッキングなりなんなり、それなりに効率的に侵入する手段を持っていると考えた方がよいだろう。
取り敢えずこのマンションはもうダメだ。
他の階にも少量残っているがそれはくれてやる。
またしても俺は拠点を探すため、
まず屋上へ上がり、ディーゼル発電機を回す。
エレベーターの非常用電源なのだが、非常用なので滅多に使えない。
喧しい音を立て始めたので不安になるが、奴らが気付いて戻ってこないことを祈るばかりだ。
原付から荷を降ろし、牽引していた折りたたみのリヤカーを担いでエレベーターに乗り、リヤカーで部屋から食料を掻き出す。
詰めるだけ詰め込んで降りる。
このマンションの地下駐車場には商用バンが置いてあるのでそれに詰めるだけ積む。
燃料はディーゼルだったからたぶん大丈夫だろう。
それから3往復ぐらいしてバンに荷物を積み切ってしまったところで何とか全部運び出すことが出来た。
ああ、だが×カブを乗せることができない。
あれは俺の大事な愛馬なのだ
ロシナンテという大層な名前を付けているのだ。
5年前に下駄車として購入して以来それなりに雑に扱ってきたが
ゾンビが蔓延りだして昨今は手心や真心を込めてかわいがってやってきたのだ。
ここで乗り捨てたりするもんか、必ず迎えに来るからそこで待っててくれよ!
そうして 特に行く当ても決めずに、飛び出してしまうのだった。
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暑い・・・腐りそう
夏場の車内はマジで死ぬ。
子供を車内に置き去りにしてパチンコするカスはマジで糞野郎だと心からそう思う。
朝方から車を転がすこと3時間
行く当てもなく、ただ車に乗り込んだ俺は早速後悔した。
3時間も転がしているのにちっとも前向いて進まない。
邪魔な車やら割れた路面やら、単純に行き止まり等で右往左往すること暫く
いい加減お日様もニッコリと姿を現して来たので締め切った社内はただただむさ苦しく。
エンジン音も煩い。
そろそろエアコンと入れようか?
だがあまり燃費がいいとは言えないのでおいそれとは使うわけにはいかない。
それにその分エンジンと風の音でうるさくなって外に注意が向かなくなる。
今の世の中なにが起こるか分からないから常に緊張状態さ。
ほんと地獄だな、この中は。
人目を避けて、なるべく建物に囲われた入り組んだ道を走っている。
くそ、眠くなってきた。
昨日も徹夜、もとい夜更かし
もとい夜型なのに昼ぐらいまで起きてたんだ。
眠くもなるわ。
頭がポーッとする。
速度感が無くなってきた。
進んでる気がしない。
燃料切れか?
いや、ちゃんと景色は流れているんだ、進んだいない訳がない。
ダメだ、これ以上は危険だ。
だがこのまま適当な場所に駐めて寝るとか無理。
茹だって死ぬ。
車庫がある所を・・・
「グルアアア〜!」
「うわっ?!」
うつらうつらと白む視界に突如現る!
道の脇から突然人影がかすめて、その影は為すすべなく2㌧の巨体に轢かれてしまった!
テーヘンダッ!
救急車?
いや、まずは警察に・・・
それよりも保険屋か?
・・・って、誰も連絡つきませんやろ?
ボーッとしてないで、今度は前向いて運転しよか?
はーい。
え、誰か轢かなかったかって??
気のせいだろ?
たとえ轢いていたとしても警察も救急車も来ませんがな、だから手の施しようがありまへん。
引き飛ばした時点で、時すでに遅しっ!
いや、そもそもゾンビだっだら既に死んでるのでセーフ!
ふー、危なかっだぜ・・・もう本当ビックリしちゃうな、もう。
今頃、後方のアスファルトでは、今日まで一生懸命生きてきた我らが同胞の一人がミンチになって横たわっているだろう。
居眠り運転や脇見運転は危険だという教訓を彼は与えてくださった。
彼の死を無駄にしないためにも、俺は今日という日を精一杯生き延びて明日を迎えなくてはならない。
南無。
・・・多分ゾンビだろ、生き残りじゃないよね?
生き残りだったらゴメンなさいする寄り他はない。
あの世でちゃんと謝罪するからそれまでに輪廻転生なりしておいてくれ。
「ア‶ー・・・」
うお!?
めきょっといった感じの嫌な音が響く
勘弁してくれ、心臓に悪い。
糞、エンストしたじゃないか。
なんだかゾンビ映画みたいじゃないか、縁起でもない。
ちゃんとかかってくれよ。
セルモーターが回る音がする。
バン
バンッ、と
誰かが車体を叩くような音が・・・
「おいおい、冗談だろ?!」
キーを捻りながら車内の外側をぐるりと見渡すと、
数体のゾンビがこちらを見ながら手を叩きつけている。
「お、お客さん!?こいつは路線バスじゃないんだ。
悪いが最寄りのバス停まで行ってくれねぇか?」
チクショウ、何でかからねぇんだよ!
役立たずめ
頭の中では現実逃避気味に
現代の車はエンジンが弱いからぶつけたら一発でオシャカ
だとか
日光が嫌いなあいつらも獲物が目の前にいれば日光浴もいとわないんだな
とか
どうでもいいことが頭をめぐり
― バンッ
かかれ・・・
― バン、バン
・・・かかってくれ
― ピシッ、ビシビシ・・・
かかれよ!
― ア‟ー
かかってくれッ!
俺しか乗っていない車内で
ふと、誰かに肩をつつかれた。
振り返ると
そいつは片目がとても赤くて
口から粘っこい唾液を垂らしながら
血色が悪いその顔を傾げていて
引き攣って声も出せない俺のおびえた表情と暫くにらめっこしたのちに
幼いころ見たなまはげのように大きく口を広げて躍りかかってきた。
― グア‟ア‟アア‟ア‟アアァァァァァァァァ!
あ、死んだかも。俺・・・
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・・・・
・・・か?
・・・・
・・・すか?
― 大丈夫ですか?
??
気が付けば恐ろしい悪鬼は俺のすぐ横で横たわっていて
振り返ればまだ若い女性がこちらに手を差し伸べていて
反対の手には鈍く輝く拳銃が握られていて。
助けられたのだと理解した俺はその手を握り返しながらこう言うのだ。
「あ、危ない所を助けていただき
ありがとうございます!」
なんか、女の子に助けられた。