表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者が住まう街の中で・・・  作者: ゾンデレラ城の雑務担当
1/8

極東ゾンビ結社の夏

夏だ、今年も暑い夏がやってきた。


さて、突然こんなことを言うのもなんだが、俺は夏が嫌いだ。


虫が湧く。

ダニが湧く。


弁当は食あたり対策で控えよとお触れが出たし、

電車じゃオッサンの汗臭さと酒臭さ指数が跳ね上がる。


照り付ける日差しはアスファルトを焼き、都会のオフィスは蒸しあがる。



例年はクールビズで、控えめに設定されたエアコンが効いたオフィスで仕事をしていた。

だが昨年度からはそんなキャンペーンは廃止された。


というかエアコンすら稼動しなくなった。


というか職場も無くなった。


というか街から生きた人間がいなくなった。




ああ、本当に夏場は最悪だ・・・

生鮮食品はあっという間に腐っていくんだ。


俺たちゾンビにとっては過酷な環境だ。




そういや、自己紹介がまだだったな。


俺の名前は白金銀二(しろかねぎんじ)


学生の時には某ゲームソフトになぞらえて金銀クリスタルから始まり

クリスタルだけが残ってしまったなどという、

初対面の人間にはわけわかめなあだ名で通ってきた。


名前がレアリティ高そうな感じがする以外は特に変わったところは無く

平均よりやや上の身長と学力で高校を卒業。


大学では普通に苗字で呼ばれるようになり、益々パッとするところが無くなり、

極々平凡な成績で卒業して就職。


毎日片道40分程度の通勤時間で仕事場に向かい、

たまに残業してスーパーで出来合いの惣菜を買って帰り

家でネット見ながら食べるもん食べて、洗うもん洗って、ベットで横になって

朝が来て仕事に向かう。


将来は適当に結婚して、家庭を持って、もしかしたら転勤して引っ越したりもするかも知れない。


明日への希望や不安は、そんな当たり前のもので

ずっとそんな当たり前の日々が続くもんだと思っていた。



まあ俺の身の上話なんてどうでもいいか。


全て過去形で話を終わらせたように、実際にはそうならなかった。

恐らく俺以外の皆だって同じだ。




あれは今から2年前。


どっかの研究施設で培養された特殊な寄生虫が流出し、

そこで研究している研究員に寄生した。


遠い海外の出来事だった。

ぶっちゃけどうでもよかった。


そのニュースから2週間したある日、

ひとつの街がその寄生虫によって滅ぼされた。

なんでもどっかのゾンビ映画のように、人が人を襲う生物に変えてしまうらしい。


恐ろしい話もあったものだと思った。

まだ名前も聞いた事もない、遠い場所の出来事だと思った。



一ヶ月するころには事態は収束したらしい。


ああ、最近そんなニュースで騒いでいたなと、

まだまだぜんぜん他人事だった。




3ヵ月後


なにやら世界各国で人が人に噛み付く事件が多発しているらしい。


聞いた初日は、

また物騒な事件が起こったもんだと聞き流し


その次の日には

どうやら寄生虫の仕業らしいと小耳にはさむ。


その一週間後・・・

教育機関が―


その2週間後・・・

医療施設―



そしてその6日後・・・



「プラチナ先輩、

なんか最近例のウイルスで教育機関だけじゃなく

企業でも自宅待機をするように政府が促してますけど、

うちの会社はしないんすかね?」


「二十日締めで忙しいからな、

どうせすぐに収まるだろう。

あとそのあだ名は禁止な。」


「実際、そう簡単に会社空けれたら苦労しないのは分かってるんすけどね。

どうせ休めないんだったら有給使わしてもらえないかと・・・」


「まあいいんじゃないか?

今月は絞め空けても大して予定詰まってないし。」


「あざーす、

そんじゃ、22日から3連休頂くんでヨロシクおねがいしまーす。」


「どうでもいいけど怪我して4連チャンとかはやめてくれよ?」


「わかってまーす。」



全く、軽いヤツだな。


世間じゃ学校閉鎖だとか、海外渡航の禁止や検疫強化などで、政府は非常事態宣言を発令中だが

日々の忙しさの前にはそれらのことも霞み、

本日、ようやく案件が片付いて一息ついたところだ。


たしかに少しぐらい休んでもバチは当たらんかもな。


とはいえ、株価の推移とか経済状況的な不安や緊張状況が長く続いているので

もしかすると休日出勤だったり、もっと酷いと営業日が減ったりするかも知らんが。

これは給料に響くやもしれんな・・・



掲示板じゃバイオハザードだの

ショッピングモールが火を噴くぜ!

だのと大騒ぎだが

俺は明日からのお財布事情が心配だよ。



結局その日はなんとも無く―



その4日後・・・


「先輩、出社したはいいけど熱がヤバいんで早退してもいいすか・・・」


「おいおい、顔が真っ青じゃねえか?!大丈夫か??」


案の定、体調を崩して有休に入ろうとする後輩に、イヤミのひとつでも言ってやろうかと思っていたが

むしろ「よくそれで出社しようと思ったな」などと言いたいぐらいアブナイ感じであったため、すぐに承諾。


とうとう起きているのも億劫になったのか、

そのまま地べたに野転がりそうなので休憩室に連れて行く。


目も充血して真っ赤だし、顔もパンパンに、リンパが腫れ上がってる。

まさかおたふく風邪なんて厄介な代物じゃないよな?


「センパイ・・・」


「とりあえず暫く横になって、無理そうだったら車で病院まで送ってやるからとりあえず休め」


「お肉、おいしそうッすね・・・」


するとヤツは突然俺の右手の親指辺りに噛み付いてきた。


「いっ?!

おいバカ、痛いッ

痛いから!

おい放せッ」


折角人が看病してやってるのに。

あ?しばくなんて酷い??頭がガンガンする?


しるか!そんなこと。


もういい、お前疲れてるんだよ。

明日も休んでいいから、今日はもう帰れ。

病院までは送っていってやるから。



ちなみにその後輩は病院で見てもらったところ、不味い状態らしく

すぐさま緊急入院することになったようだ。


アイツを搬送するのに俺まで半休使っちまったよ。

もういいや、帰ろ・・・。



思えば、あの時既に ―




???日後・・・



頭が・・・痛い。

・・・風邪か?

ああ、あのバカの病気がうつったのか?


インフルエンザのシーズンがやっと終わったと思った矢先に油断した。


ああ、課長のヤツ、怒るかなぁ・・・。



どうやら俺も何かしらの病気をうつされたらしい。

直ったらアイツの奢りで飲みまくってやる!


それにしてもだるい。


洗面所に向かって顔を洗う。



ああ、水が冷たくて気持ちいい・・・

つか、目が真っ赤じゃねえか

顔もパンパン、確実にうつされたな



フラフラと

クラクラと



アイツ、なんかやばい状態だったんだよな?

早く、病院行かないと・・・

ヤバイ、頭が、朦朧と・・・





・・・・・・・

・・・・

・・





???日後・・・




キモチワルイ―


頭は割れるように痛い。

悪寒がする。

吐き気もする。


というか吐いた。



・・・腹、減ったな。

マジで、やばいかも。

せめて、水分だけでも、取っておかないと・・・・





???日後・・・



いやーマジで死ぬかと思った。

むしろあそこで体力振り絞って冷蔵庫から水のペットボトル取っとかなかったら死んでたかもしれん。

やっぱり水分は偉大だわ。

とりあえず水分取っといたらなんとかなったもん。

水分補給大事。


あーあれから何日寝てたかって?

知るかんなもん。

無断欠勤?


上等だコラ、こちとら部下にうつされた病気で死にかけたんだ。


上司のマネジメント能力の問題に責任を追及する!



まあ教育担当俺だから、自分にもブーメランで刺さるんだけどさ。




ま、取り敢えず無事生き抜いたんで文句無しって事で。



ありがたいことに冷蔵庫の奥底で眠りについていたゼリー飲料があったので、そいつを絞りつくし、

久しぶりの食事で胃の中に栄養をぶち込む。


というか凄い痩せた気がするぞ、俺。


おお、まだ2本あるじゃん。

何時買ったのか知らんが、ナイスだ俺!



ちゅーちゅー食事を続けながら、余り見ないテレビのリモコンでスイッチを入れる。


お天気キャスターの左上には時間が表示されており、現在が夕刻であることを認識する。


「今週一週間は気候がよく、全国的に穏やかな天気が続くでしょう。

それでは現場からお伝えしました」


「はい、今週もお出かけ日和になりそうですねぇ

ですがなるべくお外にお出かけは控えましょう。」


「そうですねー

全国的に感染が相次いでおりますし。

続いてのニュースはそんな全国各地で被害をもたらしている

あの寄生ウイルスについてのニュースです。」


『全国各地で蔓延、死者多数』


「先月17日から世界各国で急速な感染拡大を見せている、寄生ウイルスの感染者が

日本全国でも10万人を超えました。



『今月27日 緊急記者会見より』


「えーこの寄生ウイルスですが、感染すると意識を失った状態で人に噛み付いたり、

ベランダから飛び降りたり等の異常行動を引き起こすことから、極めて危険性が高く、

また、噛み付かれた傷口などからも発症し、高熱を引き起こしてしまう極めて攻撃的なウイルスであると・・・」


「ワクチンの開発は進んでいるんですか?」

「死亡者も相次いでいるそうですが具体的な危険性はどれくらい」


「えーですから、出来うる限りの予防に努め、万一感染してしまった場合などは速やかに所定の医療機関に搬送し

また感染された方への接触はなるべく避けて」



「海外で街を飲み込んだあのウイルスと何か関係はあるんですか?」

「どーなんですか?」



「えーですから、この寄生ウイルスは・・・」




「政府の発表によりますと、なるべく外出は控え

手洗いうがい、マスクなどの予防措置を心がけ

追加の発表があるまではとにかく人の多いところには集まらないように注意するとのコトです。」


「非常に大変な広がりを見せているこの寄生ウイルスですが、

専門家の滝田さん、そもそもこの寄生ウイルスとは一体どういったものなんでしょう?」





テレビでは仰々しく報じられている。

最近のマスコミは何時だって大々的に騒ぐ割には実際にはたいしたことが無かったりするからな。

あんまり鵜呑みにしないようにしよう。


ああ、熱が引けたとはいえ体がだいぶだるい。


お風呂に入りたいが、病床についているときに入るのは余りよろしくないとも聞く。


実際どうなのかと聞かれると定かではないが、まあシャワーを浴びるにも体を起こし続けるだけでまだしんどいので

とりあえず顔を洗うだけで我慢しておくか。


「えーこのウイルスの特徴は詳しくは判明していませんが、実際に感染が確認された患者の方の瞳を見ると、

実に100%の人間の左右どちらかの瞳が赤く染まっているのがこの写真でお分かりいただけることかと思います。」


「目が充血しているといった感じではございませんが、コレは一体どういった症状が現れているのでしょうか?」


「コレはデスね・・・」



鏡に映る


赤い、紅い己の瞳が


目に映る。



「・・・色素を滲み出して、紅く染めたことが考えられます。」


「成る程~」



「また欧州の研究機関で発表された見解によるとこの寄生ウイルスに犯された人間は異常行動を・・・」



蠢く


紅い、紅い瞳の奥底の


その暗い影が



「この性質はカタツムリに寄生するロイコクロリディウムとも酷似しており・・・」



眼孔の

アクアリウムで

住まう虫の姿が・・・




― うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ