干支達の夢 その六a 【守ってあげたい!】
干支に関するショートショートです。今回は蛇その1 です。蛇は家を守る「守り神」だという話を聞いたことがあります。そんなお話。量はほぼ葉書一枚分。一分間だけ時間をください。
ブルンブルン、ブルルン、ブルブルと、今にも咳き込みそうなエ
ンジンの音が響いてる。ボクの体もそれに合わせて小さく震えてる。
そうさ、決して心細いからじゃない。ボクはまだまだ小さいけれど、
一族の中では一番のチビだけれど、そうさ、怖くなんか無い!
「元気でね!」
「うん、きっとお手紙ちょうだいね!」
上のお姉ちゃんの声が響く。明るそうに振舞っていても、きっと
涙が頬を伝わっていることだろう。お姉ちゃんはこの村がホントー
に大好きだったから。
「この度は大変なことで…」
「いや、ほんまになぁ、しかし…」
お父さんはこの後隣のおじさんと内緒話を始めたようだ。肩を叩
き合って時折大声で笑い合っているのは、この状況が決してイヤじ
ゃないってコトなんだろうとボクは思う。
「あんたさんらは東の方かの?」
「はい、お婆ちゃん達は西の方でしたわね」
「ハハ、八十にもなってこの村を離れるとは思わなんだが」
「村が沈むんですもの。お上の言うことには逆らえませんもんね」
「金がなんぼのもんじゃ! 馬鹿どもが! わしゃ、ご先祖様に申し
訳がたたねえだよ」
「お婆ちゃん、向こうに行ってもお元気で」
「あんたさんらも。白蛇村の誇りを忘れん様に」
「は、はい…」
お母さんと隣のお婆ちゃんの声は、終いには途切れ途切れになっ
て、今ボクを揺らしているエンジンの音と溶け合って、まるで子守
唄のようにも聞こえる。ああ、もう今にも夢に落ちて行きそうだけ
れど、眠ってはいけないんだろうな。
「我々はこれまで何十年、何百年とこの村を守ってきた。我々の存
在理由はこの村を、村に住む人間を守ることなのだ。いいか? た
とえ村が無くなっても村人だけは守る! 全国に散っても!」
先の会議でボクらの長老様が熱弁を振るわれた時のことが頭に浮
かんだ。ああ、そう言えば、長老様は昨日旅立たれたんだっけ。今
頃は南の暑い島に着いてるかな?
「南の島には、マングー何とかやらというおっかないバケモンが居
るってよ。長老様は大丈夫かや?」
そうボクに聞いた友達も今頃は北に向かう荷物の中だろう。
「ボクが守る今度の家にもいい天井裏があればいいな」
震える尻尾にぎゅっと力を入れ、ボクはそんなことを考えていた。
全国に散った白蛇君たちの活躍は、又の機会に。