歌奈子 怒りの日
日は沈み、公園の街灯がつき始めたような時間。
手提げのかばんを持った愛海は丘を駆け上がっていた。
理由は単純明快。東弥からメールが来たからだ。
丘の上にたどり着くと薄暗い中、ベンチに座る人影が見えた。
「雲母!」
大きめの声で話しかけるが、反応はない。
気づかなかっただけだろうか? 違和感を感じながらもベンチに近づいていく。
すると、向こうもこちらに気づいたのだろうか? 立ち上がって歩み寄ってきた。
ベンチの横に設置されていた街灯がその人物の姿を浮かび上がらせる。
「えっ歌奈子?」
「ねぇ愛海。私のことどう思ってるの?」
「どうって?」
なぜ、そんなことを聞くのだろう。それ以前になぜ、そこまで無表情なのだろうか。
冷たい目で見られていると思わず後ずさりしそうになる。だが、ここでそれをしてはダメだと本能が告げていた。
「雲母東弥って人と今日話したの。がさつな上に男勝りで悪かったわね」
「えっ何の話?」
いつ、彼にそんな話をしただろうか……
記憶を探っていくが思い当たるふしが……あった。
そういえば前に歌奈子と喧嘩した直後に偶然通りかかった東弥に思い切り愚痴をこぼしてた気がする。その上、一切訂正してなかったような……
「えっと……それはね」
「それは?」
「ちょっとした解釈の違いというか……なんというか……」
目の前に立つ友人の迫力がすごすぎて思わず口ごもってしまう。
これまで彼女とけんかすることはあったが、どちらかが本気で怒るところをあまりなかった。そして、頭の中の警鐘は最大音量でなっていてこの場から逃げろと警告している。
歌奈子とは長い付き合いとは言わないが、これだけはよくわかっていた。
彼女を本気で怒らせてはいけない。
「まっあの……ごめんなさい。本当にごめん」
「ごめんで済んだら風紀委員はいらないと思うけど?」
「だよね」
本当にまずいことになった。というよりもこの事態を書かずにここに来いという文面だけよこした東弥を本気で恨んでいた。
「それ以前にそこまで言ったっけ?」
目の前に怒り狂っている友人がいるというのに不自然なほど冷静だった愛海は自らの記憶を展開しそれに関する情報を探し始める。
「一週間前……違う。二週間前……違う。三週間前……」
何やらぶつくさつぶやいている横で歌奈子は怒りの矛を収めつつあった。
言いたいことを言い切ったということもあるのだが、愛海の様子を見たからということの方が大きい。
「やっぱり」
該当する記憶が見った。
大体夏休みが始まるころの話だが、彼女が言うほどひどくは言っていない……ということは多少の誇大表現が入るか、それに類する誤解を招く発言があったということだろう。
「私……歌奈子が言うほどひどくは言ってないと思うよ」
「でも、言ったんだよね?」
「はい。ごめんなさい」
「まぁいっか。次から気を付けてよね」
「はい」
結局、何がなんだかわからず、愛海は妙にすっきりした顔で立ち去っていく友人の後姿を見ることしかできなかった。
今日も一日が終わろうとしていた。




