始業式
いつもの丘の上にある公園が夕日で赤く染まるころ、二人はいつも通りベンチに座っていた。
「あーもう! 校長の話が長すぎ……何の拷問よ」
「開口一番それはどうかと思うよ」
大きく手を振り、駄々っ子のようにふるまっている歌奈子を見て思わずため息をつく。
確かに始業式を始めとして○○“式”と言った式典や○○“大会”というようなイベントなどでは、基本的に代表者の話が長いのが通例だ。
一例として、本日は晴天なり……これは、別のあいさつか。本日は天候にも恵まれ、体育大会を無事に開催する運びとなりました。みたいなやつとか、新学期に入るに当たり、大切なものがあります。みたいな話が多い。
普通に考えてしまえば、真面目に聞いている生徒などあまり多くはないと思う。愛海自身も8割ほど聞き流していたからこの考え方は間違いではないはずだ。
「なぁもっと簡単な話じゃダメかな?」
「って言われても……どんなのがいいと思うの?」
「あーそうだな。たとえばこんなのとか」
*
ある学校の体育館。ピカピカの制服に身を包んだ新入生たちは緊張の面持ちで座っていた。
「なんで入学式? 始業式の話だった気が……」
「そこ。しゃべらない」
「すいません」
先生に注意されて前を向けば、若い女性が壇上に上がっていくのが見えた。
確か、この学校のパンフレットに写真が載っていたはずだ……確か……
「皆さん初めまして。校長の歌原歌奈子です。まぁ退学だったり留年だったりしない程度に頑張ってください。以上です」
いうだけ言って校長は、舞台袖に歩いていく。
自分はおろか、周りの生徒たちも何が起きたかわからずにぽかんと口を開けていた。
「短かったね」
「だな」
横にいた東弥も同じ感想を抱いたらしい。
「ってなんでいるのよ!」
「なんでって入学式では隣同士だっただろ?」
「そうだけど……もうわけがわからない」
教頭のあいさつが続いている中、愛海は一人頭を抱えていた。
*
「どう?」
「どうって短すぎでしょ? それに内容考えようよ」
「えー丁寧に名前にルビまで振ったのにか?」
「そういう問題じゃない」
どこから突っ込んでいいものか……短いのはまだしも、やはり問題は内容だろう。
「なんというか、これからの高校生活を精いっぱい楽しんでくださいとかないの?」
「んーどうだろ? それは、校長がいうことじゃなくない?」
「そうかな? よくわからないけど、そういうことでいいの?」
愛海の疑問が膨らんでいく中、歌奈子はゆっくりと立ち上がって柵に向かって歩き出す。
「まぁとにかくさ……校長の話はちゃんと聞かないといけないな」
「勝手にばらまいておいてきれいに終わらせようとしないで」
たとえ、二人の間に沈黙が訪れようとも時が止まることはなく、夕日は徐々に沈んでいき、今日も一日が終わろうとしていた。




