九月
丘の上にある公園。夕暮れ時になるといつも通り二人はやってきた。
「今日から九月だね」
「そうね……って言っても今日は日曜日で学校明日からだから実感わかないけど」
愛海はあごに手を当てて空を仰ぐ。
「そうだな。でも、これで本当に夏休みも終わりか……」
「結構、忙しい夏休みだったわね」
「まぁな。本当にいろいろあったな」
歌奈子はどこか遠い目で夕日を見つめていた。
その姿はどこか哀愁が漂っていて、年相応の雰囲気ではない。
「でも、学校始まればまた、楽しいこといっぱいあるって!」
「そうだな。久しぶりに顔見るやつもいっぱいだしどんな顔して教室に入ってやろうか!」
先ほどまでの哀愁はどこかへ飛んでいき、歌奈子は笑い声をあげる。
しかし、次の愛海の一言で彼女は凍りついてしまった。
「ところで宿題終わった?」
愛海は、この瞬間、聞いてはならない話題だと悟った。特に手遅れであるのだが……
愛海としては、昨日の夜に手伝ったし、それなりに進んだから今日中に何とかしていたと思っていたのだ。
「いやーな……ちょっと、今日は用事が合ってだな……その……あれから進んでない」
「へーなるほどね……」
少し間に合わなかったぐらいならまだしもまったくとはいかがなものか。
「まっあれだ……絶対に今夜中には終わらせる! たぶん……」
こりゃ終わらないな。愛海は瞬時に悟った。恐らく、徹夜で宿題を終わらせようとするのだが、結局寝落ちした上に遅刻して二学期の初日から説教を喰らっている彼女の姿がありありと浮かぶ。
そう考えれば同情しないこともないが、結局は自業自得である。見たところそんなに量が多くは感じないというのが大きいかもしれない。
「あのねぇ……」
「あぁちょっと、油断してた……高校に入ったとたん激減したもんだから……」
「まったく……それで? 本当に終わるの? さすがに今夜は手伝えないわよ」
ここで手伝ってしまえば、来年も同じ事態に陥ることが目に見えている気がした。
おそらく、来年の昨日の夕方ぐらいに今年も宿題がーみたいなことになってしまうのだろう。
「まぁやるけどさ……さすがに担任の大目玉喰らうのはごめんだからな……まったく。なんで宿題なんてしなきゃいけないんだか」
「将来のためじゃない?」
本末転倒なことを語りだした歌奈子を見て愛海はため息が漏れた。
将来のための勉強をする場が学校でその学習を忘れないようにするためのものが宿題ではないのだろうか。これは、あくまで愛海の持論であるが間違ってはいないはずだ。
「そうか?」
しかし、そこに疑問を呈しているのは横にいる歌奈子だった。
彼女は、しばし考え込んだ後パッと立ち上がった。
「まぁいいや。とりあえず、家に帰って宿題やってくるか……」
と言ったのちに大きなため息をついてとぼとぼと歩き始める。
その背中からは、どこか暗い雰囲気がにじみ出ていた。
夕日が沈み、まもなく夏休みが終わろうとしていた。




