夏季課題
8月31日。一部地域を除き、通年ならば夏休み最後の日となるこの日。夕暮れの公園には、いつも通り二人の影があった。
「ねぇ愛海って夏休みの宿題とか終わった?」
「私? そうね……大体ってところかしら……今日帰ってから少しやれば終わりってところ。歌奈子は?」
「私か? 私は全然って感じ! まぁやるけどさ……うんと……そろそろやらないとね……うん」
「つまり、やってないのね」
愛海の言葉はまさに核心をついていた。歌奈子は、まるで心にやりでも刺さったかのように体が凍りついていた。
ややひきつった笑みを浮かべながらも彼女は必死に言葉を紡ぐ。
「いやな……やろうとは思ってたんだよ。昨日の話を参考に日記の課題も終わらせたし、自由研究や読書感想文なんてものはないから後は、教科ごとに出たプリントさえこなせば何とか……」
「ふーん。大丈夫なの?」
「もちろん! 明日もあるし……」
もちろんに対して、明日もあるがかなり小さい声だったが、それは気にしてはならないのだろう。
歌奈子は居心地悪そうに空を仰いだ後に立ち上がって転落防止用策に手をかける。
「ねぇ……愛海は夏休み前の自分に合えるとしたらなんて言いたい?」
「さぁ……特に思いつかないけど」
「私ならこう言う! さっさと宿題しろと!」
「反省してるなら早く家に帰って宿題終わらせたら?」
うん。マンガだったら、歌奈子の胸に愛海の言葉が矢になって刺さっさっていることだろう。幸いにもここは現実世界のために目に見えてそんなことにはならないが……
「大体さ。歌奈子は計画性がなさすぎるんじゃないの? 夏休みの最初からコツコツとやっていればこんなことにはならないし、小学生じゃないんだから終わりになってうわーって終わらせるのもどうかと思うよ?」
「いいじゃん! 結果に変わりないんだから!」
「そうかもしれないけどさ……出せばね」
最後の言葉は余分だっただろうか。歌奈子は顔を俯けその表情をうかがい知ることはできない。だが、アニメだったら間違いなく暗転してゴーンとかいってそうな雰囲気だ。
「まっまぁがんばって!」
まずいことを言ってしまったと必死にフォローを入れるが、彼女の状況に変化はない。
これは、元に戻すまで相当骨が折れそうだ。
「そうだ! ちょっとだけなら宿題手伝ってあげるからさ……元気出して!」
歌奈子が顔を上げてパッと希望に満ちた表情を浮かべる。
今の彼女の眼には、まるで祝福をもたらした女神が下りているように見えていたのだ。
「よし! じゃ、さっそく私の家へ!」
「ちょっと! やるのはほんの少しだからね!」
勢いよく走り出した歌奈子の背中を愛海が必死に追いかける。
そんな二人を見つめる人影が一つ。
「ふーん……そーなんだ」
何かを納得したような表情を浮かべたその人物は、二人がかけて行った方向とは逆に歩いて行った。




