観察日記
いつもの丘の上にある公園のベンチ。夕暮れ時になるとどこからともなくやってきた二人が座りました。
「ねぇ小学校の宿題で絵日記とか観察日記とかってあった?」
「えっ? そうね……絵日記はあったかな」
「絵日記か……やっぱりそういうものって夏休みの最終日に書くものなの?」
「えっごめん。今何を言ったかわからなかった」
うん。きっと聞き間違いだろう。そのはずだ。
愛海は、少々ひきつった笑顔を浮かべていた。
「いやだから、絵日記って……」
「うん。やっぱり、聞き違えてなかったみたい」
「ならいいけど……それで、いかにして夏休みの絵日記を仕上げたの?」
軽く額に手をついてため息をついている彼女を見て、歌奈子は愛海が相当めまぐるしい努力を重ねていたのだろうと推測していた。
やはり、夏休みの最終日というのはそれほど人を苦しめ……
「苦労も何も私は、毎日地道に書いてたわよ。だから、最終日に捏造する必要はなかったわ」
「えーウソー!? 私の学校は、児童の十割は日記の内容をねつ造してたと思うけど……」
「どんな学校よ」
歌奈子ははっきりと言っていた。十割と……愛海の知識の範疇では十割というのは100パーセントのことだ。うん、学校の先生がそう言ってたから間違いない。
「まぁ結局、一番面白い日記を書いたやつが勝ちみたいなことになって、私はこの公園で宇宙人と出会ったことになっています」
「非現実過ぎない?」
「そう! 宇宙人が私の歌を気に入って宇宙中で活動する人気アイドルグループのボーカルに!」
「そうなったら、夏休み明けに学校来れないね」
そんな無茶苦茶な内容の絵日記が整然と並んでいる光景を思い浮かべて思わず笑ってしまう。きっと、子供のいたずら心あふれた日記だったはずだ。そんな日記だったら、教師もほほえましく見ていたのかもしれない。
「まぁ設定としては、夏休みが終わる直前になってやっぱり、日本の学校に戻りたいって考えて脱出するって内容だったかな。他にも海底の散歩したとか、地球が滅びたとかいろいろな日記が出てたな」
なつかしそうな目で語る歌奈子を横目に愛海は疑問符を浮かべていた。
地球が滅びたって……じゃあ、なんで生きてるんだろうか。
「でも、それでOKってある意味いい学校なのかもね」
「えっいや。たいていひとりずつ呼び出されてお説教だったな。ちゃんと、夏休みの出来事を書きなさいって」
「案外厳しかったのね……そういえば、なんでそんな話を?」
歌奈子の表情が固まり、大粒の汗が流れ始める。愛海は、そんな彼女の様子を面白そうに眺めていた。
「そうだ! 愛海! 一生のお願いだ! 今年の日記のネタだし手伝ってくれ!」
「うん。そんなことだろうと思った」
こんなことで一生のお願いを使っていいのだろうかと……それ以前に高校でも学校によってはそんな宿題あるんだなと愛海は、空を見上げながら考えていた。




