雨の日には3
空にはたちまち雲が立ち込め、ポツリポツリと雨が降り出している中、雨が降っているにもかかわらず愛海はいつもと同じように散歩していた。
「あっやっぱりいたわね麗子」
目の前を歩く黒い物体は紛れもなく自分の友人だろうと見当をつけた愛海は黒い影に向けて歩き出す。
だが、肝心の麗子は気づいていないようで彼女は彼女でずんずんと歩いて行ってしまう。
「ちょっと! 麗子!」
愛海が話しかけるが、彼女は歩みを止めない。
まったく。用事があるときに限ってこうだ。関係ないときは突然、現れる癖に……
「れーいこ!」
ようやく追いついて彼女の腕をつかむ。
そこまでしてようやく気付いたらしく麗子はゆっくりと振り向いた。
「私に用?」
「えぇ。だから呼び止めたんだけど」
愛海の言葉を聞いた麗子はあからさまにめんどくさそうな顔をする。
「いいから、こっちにくる!」
麗子の手を引いて愛海はいつもの丘の方へ歩き出した。
*
丘の上のベンチは雨に濡れて座れるような状態ではなかった。
「それで? 話は?」
「うん。歌奈子のことなんだけどさ……」
愛海が口を開いた途端に歌奈子の表情が暗くなる。よほど、先日のことを気にしているのだろう。
「あなたたち二人の間に何があったかは知らないけど、もうちょっと接し方考えてあげたらどう?」
「別に……私の勝手でしょ?」
「そうだけどさ……」
歌奈子から話を聞く限り、二人は昔からの知り合いで歌奈子の方が一方的に麗子のことを忘れているようだ。
あれ以来、彼女は覚えていない。彼女は誰なんだよ。とぶつぶつと言い続けている。
「……思い出してもらわないと私も悲しい。手伝って」
「えっ?」
急に何を言い出すのかと思ったが、彼女が言うことはもっともかもしれない。
彼女は自分の存在を思い出してもらおうと必死なのだ。ただでさえ、雨の日にしか外に出れない彼女としては一人でも多くの人が覚えている方が幸せなのだろう。
「わかった。それで? 何をすればいいの」
「……あの子に私の話を聞かせてほしい。今から話すからそれを伝えてほしい」
「うん」
すると、麗子はポツリポツリと話し出した。
歌奈子との出会いをどうやって仲良くなっていったか……
「そう……だったんだね」
「……歌奈子は、私のことなんて忘れたいと思う。でも、覚えていてくれないのは私が悲しい」
「大丈夫よ。私を誰だと思ってるの? ちゃんと、貴方のことを思い出さしてあげるわ」
力強く宣言した愛海は手を振りながら歩いていく。
気づいていたら雨が上がっていたようで徐々に麗子が“消えていく”。
「お願いだからね……愛海」
雨上がりの丘には誰もいなくなった。




